ゾンビだけど、今日も元気に生きてます。

女子高生の〝きらり〟は悩んでいた。

昨夜、塗ったばかりのお気に入りのマニキュア。
それが今朝、あっさり取れてしまったから。
壊死した指から爪ごと剥げてしまったのが原因だ。

驚くほどのことではない。
六年前に世界中に広がった、ゾンビ病。
感染した人間は、早くて一年、もって三年で身体が黒い肉塊となり、やがて自我を失って生前の習慣を繰り返すだけのゾンビとなる。

きらりは感染して一年半。
多くの人々がそうであるように、彼女もまた、自身の身体が悍ましい肉塊へと変異していく運命を受け入れていた。

緩やかに終末へと向かう世界。
それでも彼女は、平凡な日常をただ生きていく。
クラスメイトと談笑し、ゾンビに成り果てた両親と食卓を囲み、昨日と変わらぬ一日を過ごせたことに、今日も慎ましく感謝を捧げる。

助かる道は無いけれど、けして絶望なんてしない。

だって――



破滅の足音が刻一刻と迫るなか、日常生活をなんとか保とうと懸命に生きるひとりの少女のお話です。
世界が静かに、しかし着実に壊れつつあることを示す『不穏の影』。
そして、そこに微かに存在する普遍的な『幸福の輝き』。
彼女の目を通して語られる日常の光と影とが、短い物語の中でとても繊細に描かれていて、最後には涙と元気が同時に湧いてくるような不思議な読後感に包まれました。

恐くて切なくて、とても眩しい終末青春ゾンビホラー。

是非、ご一読ください。
おすすめです。

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