「たかが密室」と侮るなかれ

奇妙な館で起こった殺人事件。
現場となるのは謳い文句に偽りなしの完全密室。
隠し通路も隠し扉も存在しない「密室モノ」の王道を往くストロングスタイルです。
ミステリファンなら問答無用でワクワクしてしまう題材ですね。

舞台となる館も、家主の静かな狂気の片鱗がそこかしこに散りばめられた描写にゾクゾクすること間違いなしで「館モノ」として見ても魅力的な舞台設定です。

しかし、ここまでは一見すると「手堅い造り」に思えてしまう本作ですが、驚くべきはやはりそのアクロバティックな『着地』の見事さにあるでしょう。
ミステリなので詳細を書くことは憚られますが、物語の『ある時点』まで読み進めた読者は必ずこう思うはずです。

「え!? ここから残り少ない頁でどう畳むつもりなの!?」
――と。

でもご安心を。最終章では、ちゃんと事件に決着はつきます。
それもきちんと納得できる形で。それから読者は、きっと大いに驚くはずです。
その真相の意外性に。
そして……そこへ辿り着くための手掛かりが、あくまでもフェアに提示されていたことに。

古き良き王道のミステリーと鮮やかな飛躍を魅せる驚愕のトリックが、わずか「8400字」に纏められた職人技の光る一作です。

是非、ご一読ください。
おすすめです。