第九話(上)
果たしてこの早すぎる展開に読者はついてこれるかな?今回は紅葉からの視点じゃなくて三人称視点です。
◇
紅葉がカーミラと戦う少し前の話。
「ーーーーーーじゃ、今言った通りに持ち場について」
首の後ろに手をやりながら、書類を見つつ怠そうに指示を出す風魔。
「これでよかったんだよな?」
「そうですな・・・・・・」
風魔は隣の参謀へ聞く。この参謀というのは白い髭を長く垂らし、なんかでっかい杖をついた仙人みたいな人である。もう千年ぐらい妖神・楓のもとで働いているという古株で、かなり軍事に精通している。全盛期のころはそれこそ使者王も務めたことがあるが、今は引退し相談役みたいな感じになっている。名は白隠という。
「やーすまんな。結局配置とか爺さんに任せっきりになっちゃったな」
「いえいえ、ですが、驚きましたぞ。風魔殿は将兵たちのやる気を出させるのが上手いですな。風魔殿を指名した紅葉殿はさすがの慧眼ですな」
そんな会話に割って入るのは凛である。
「やっぱり全然ダメデース!もっとはきはきして下さいデース!」
凛は白隠と違って見えたようだ。
「あー?」
「まあまあ・・・・・・・それより、紅葉殿はきっと城の中で暇をされてることでしょうな」
喧嘩が始まりそうになったのを白隠が逸らすと、上手い具合に効果が出て二人はその話題に食いつく。
「そうデスね。きっと慧牙さんのウォッチングでもしてるデース」
「なるほど、ありそうですな」
「あーまあそれもありうるな」
「ほう、その言い方だと風魔殿は何か違うことをなされていると思われているのですかな?」
そう白隠が問うと、風魔はニヤッと笑って、
「ああ、アイツは部下が必死に戦ってる時に、いくら規則だからって素直にはいそうですかと城の中で安穏としてるようなタマじゃねーさ」
白隠は顎ひげを触りながら、
「なるほど・・・・・・・む」
そんなことをしていると白隠が急に難しい顔をした。
「どうした?何か報告でも入ったか?」
「そうですな・・・・・・何やらまずいことになったようですぞ。東門の方へ敵の大将と目される者が出てきて味方の将兵をごっそりと減らしていくので、戦線が維持出来ないかも知れないと」
「マジで?やっべーじゃん」
風魔は軽く言っているが、これはけっこうな危機である。
東門は一般の軍人ではない妖怪たちを避難させている所なのだ。つまりここの戦線が維持出来なければ罪の無い民間の妖怪たちに危険が及ぶということである。
ここが弱点になることは見越していたので、精鋭の部隊を送り込んでいたのだが、それでもその敵の大将と目される者は易々と突破していくらしい。
ちなみに、狙って弱点をついたわけではなく、ただ単に何となく一番強そうな部隊のある所を選んだだけである。
「・・・・・・・どうしようか?」
「どうするデース?」
「ふむ、敵もいやらしい所をついてきましたな。援軍を送らせようにも他の所が手薄になるし・・・・・・・」
早く助けなくてはと思うものの、なかなか良い案が浮かばない。
と、その時だった。
「む?また新しい報告が入りましたな」
「またか今度はなんだ?」
「ほう、これはこれは・・・・・・・先程報告に上げた敵の大将と目される者が、急に影の中に引き込まれるようにして消えたと。どうにか戦線を維持出来そうだと」
白隠と風魔は顔を見合わせ、それから笑った。
「な?だから言ったろ?アイツは素直に城の中でジッとしてるようなタマじゃねーって」
「そうですな」
「風魔!さっきから白隠さんに馴れ馴れしくしすぎデース!」
◇
「そこから動かずに、ですって・・・・・・・・?」
「ああ、もし約束を違うたがうことがあれば、お前の勝ちでいい」
カーミラは激しく困惑していた。
今まで自分が弄んでいたと思っていた敵が、急に凄まじい力を発揮して誰にも破られたことのなかった自分の自慢の技を破るどころではなく素手で消し飛ばしただけでも衝撃的なのに、こんな明らかにカーミラを見下したような条件を提示してきたからである。
もちろん、戦いの中でそんなルールを必ずしも守るとは言えないかもしれないが、足を組み、手に顔を乗せて不遜に微笑むその様は、今までカーミラに打ちのめされていた者と同一人物とは思えない。
その傲岸不遜な様を見るとはったりやそういう騙し打ちをするとは思えず、この程度の者を相手にするなら座りながらでも十分だ、と本気で思っているとしか思えないのだ。
(なんですの・・・・・・・。今までのはこちらを試すための演技だったとでも・・・・・・・!?いやでも何かの策という可能性も・・・・・・・・)
そんなふうにカーミラが困惑し、グルグルと色々なことを考えたりしてる中、紅葉は今ーーーーーー
(バカかよ俺はあああああああ!?)
激しく後悔していた。
(何言っちゃってんの!?何言っちゃってんの!?その場のノリで何言っちゃってんのおおおおおおおおお!?)
そう、さっき慧牙のためにも負けられないとか、アイツらも頑張ってんだ俺も少しは頑張らないとな・・・・・・・とか気分が盛り上がってノリにノッた結果、カッコつけてあんなことを言ったはいいものの、はっきり言って実はもう紅葉は限界に近かったのだ。
この玉座に座ったのも、カッコつけという意味もあるが、それ以上にダメージが酷すぎてもう立ってられないくらいだったから、というのもある。
そんな状態でハンデをつけようとか言っちゃったのだ。もう冷や汗をかきまくっていた。
(もう何やっちゃってんだよ俺!というかちょっと展開速すぎじゃない!?これ読者ついていけてる!?ついていけてる!?ついていけてないでしょこれ絶対!!)
心臓がバクバクしてしょうがない。だけどこの内心を気付かれるわけにはいかない。
紅葉はカーミラに気づかれないように深呼吸をして必死に気持ちを整えた。
(・・・・・・・まあ、いいや。腹をくくろう)
紅葉はもう覚悟を決めて、このまま傲岸不遜な態度を貫くことにした。
(そうだ、俺は敵キャラ、しかも敵の幹部キャラだ。なら、たまには思いっきり傲慢に振る舞ってみるか!それに、こういう戦いは主導権を握った方が大体勝ったりするんだ。・・・・・・・これで負けたらめちゃくちゃかっこ悪いけどね!)
紅葉はカーミラへ向かって強気に言った。
「よし、いつでもいいぞ。あれだけじゃないんだろ?打ってこい。俺がその全てを潰してやろう」
「・・・・・・・!」
さっきまでとは完全に立場が逆転した。
カーミラは目を赤く光らせ、額に青筋を浮かべながら叫んだ。
「言われなくてもそうしますわ!・・・・・・・サラ!『貯蔵庫』を開きなさい!」
「承りました」
サラがパチンと指を鳴らすとカーミラ両側にずらっとワインの瓶に入った血液が並んだ。
カーミラはそれら全てを力任せに床に叩きつけていく。瓶の割れる音だけが広間へ響く。割れた瓶の破片と大量の血液が床に散らばる。
床に散らばった大量の血液は、蠢き、渦を巻きながら立ち上がると4つの巨大な竜巻となりカーミラの周りを取り囲んだ。
そしてその4つの竜巻は一つになる。一つの巨大な竜巻になる。
しかし紅葉はそれを見ても顔を変えなかった。眉ひとつ動かさず、よける素振りも見せなかった。
それはカーミラの青筋をさらに濃くした。
「・・・・・・!後悔するがいいですわ・・・・・・!真紅の嵐撃ストーム・オブ・クリムゾン!」
カーミラは叫んだ。
鮮血の竜巻が飛び、紅葉を襲う。
ごうっと凄まじい音がして、座っている玉座ごと紅葉は竜巻に包まれた。
強い風にカーミラの髪と服がはためく。辺りへ血が飛び散る。竜巻は天井まで届き天井を壊し、瓦礫をも巻き込んで凄まじいものになった。
その様を見て、カーミラはほくそ笑んだ。
「フフッ、いい気味ですわ・・・・・・・!『神』を相手に舐めた真似をした罰が当たったんですわ!」
だが、そう言った刹那、凄まじい威圧感がカーミラを襲った。
「・・・・・・・ッ!」
のしかかるような重圧。ビリビリと肌が粟立ち、冷や汗が流れる。
狼狽しながらカーミラは勢いよく竜巻の方を見た。
「まさか、そんな、そんなことは・・・・・・・・!」
カーミラが見ている中で、竜巻は光りを放ち、弾けた。
「こんなこと・・・・・・・・こんなことありえませんわ・・・・・・・・」
驚愕に目を見開くカーミラの目に、降りしきる瓦礫と血の雨の中、嘲るように笑う紅葉の姿が映った。
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