第五話
俺は楓様の手を引っ張って会議室の方へ急いでいた。
ちなみに、ここ、俺たちみたいな妖神の部下の妖怪ーーーー『使者』が働いている所はあの時遠くに見えた城の中だ。
というか、折角だから少し俺たちのことについて話そうか。
俺たちは今あの神社の中にあった世界にいるわけだが、ここはいわゆる、『妖怪』と呼ばれるものが住む、人間が普段住んでいる世界とは違った世界らしい。
楓様や昔からここに住んでいる者たちは『かくれざと』と呼んでいる。永久に夜の明けない常夜の世界である。
楓様ーーーー『妖神』の部下、これはこの『かくれざと』の守備隊みたいなもので、今でこそ神扇寺家との戦争状態にあるが、普段は治安維持を主に担当している。
神扇寺家からは『使者』と呼ばれているが、『かくれざと』に住んでいる者たちからは普通に守備隊と呼ばれている。まあ、ここでは使者としか呼ばないだろうからどっちでもいいか。
そしてその妖神の部下、『使者』の中にも階級というものがある。
下から雑兵、兵卒、小隊長、中隊長、大隊長、将軍、使者王という全部で7階級で成り立っている。
ちなみに『使者王』や『将軍』は神扇寺家との戦争状態にある時だけ設営される地位で、普段は5階級だ。
さらにちなみに言うと、今は俺にヘッドハンティングしたみたいに普通の人間を使者に誘ったりしているが、それも戦時下だけの特別体制である。
一応ここでは雑兵も含めて7階級と説明したが、この雑兵というのは術式によって生み出された、要は式神みたいなもので、あって無いようなものだ。
実際の階級は兵卒から始まる。
この兵卒五人の小隊を取りまとめているのが小隊長。この小隊が10個で中隊で、それを取りまとめているのが中隊長。その中隊を5個集めたのが大隊。とまあ、ざっとこんなもんだ。
ちなみに大隊長は戦時下では全部で十一人。戦時下以外では六人だ。
そして、今日の会議はこの大隊長十一人・・・・・いや、欠席が二人いるから九人か。九人を集めて話し合う予定になっている。
というか、会議っていうと専らこの大隊長たちとやってる。将軍とか会ったことないんだよね。楓様が言うには引き受けてくれそうな人に今連絡してる最中だからもう少し待ってくれって言うけど・・・・・・大丈夫なんだろうか本当に・・・・・・。
さて、そうこう話しているうちに会議室に着いたみたいだ。
襖を開けて会議室へ入る。
会議室は和室で、畳の上に座布団を敷いて右に五人、左に四人ズラーッと大隊長達が並んでいる。うんうん、良い感じだ。良い感じに敵キャラの会議シーンみたいだぞ。まあ出来れば洋風の会議室で長テーブルとかでやるのが一番敵キャラっぽいとは思うけど、そこは仕方ない。世界観を大事にした方がいいからね。
俺と楓様は上座に座る。
「すまない。遅れてしまった」
「ごめんねー」
いや軽いな。まあいいけど。
「さて、早速だが会議を始めよう。今日の議題は『主人公達の気の緩み戒め計画』の要を誰にするかだ」
この『主人公達の気の緩み戒め計画』というのは、その名の通り主人公サイドの人たちの気の緩みを戒めようと計画だ。これは俺が立案した。
今の段階では俺たちが主人公の敵として送り込んでるのは『兵卒』の奴らだ。これは当たり前だろう。マンガやラノベ、アニメでも大抵主人公の敵として初めに出てくるのは弱い敵だ。そこから段々に敵のレベルが上がってくるに従って主人公のレベルも上がってくるのだ。これは自明の理だろう。
ただ、俺が危惧したのはずっと弱い敵しか出てこず、多少苦戦することがあっても敗北を経験したことがないからからこの程度か、と思って気の緩みが出てきてるんじゃないかということだ。
もちろん、慧牙は人格がすごく出来ているし、勝ちが続いても、相手を見下したりとか慢心したりするような性格じゃない。
だけど気の緩みというものは無意識のうちに心のどこかに潜んでしまっているものなのだ。いくら自分で気をつけようと思っていてもね。そういうもんだと思う。
というか、戦ってるのは慧牙だけじゃないからね。他の仲間の奴らがどうだかは分からないから。俺の知ってる限りでは結構危なそうな奴が一人いるな・・・・・・。
とにかく、そういうことで誰か一人、階級がもっと上の強い奴が行って手も足も出ない圧倒的な敗北というものを経験させた方がいいんじゃないかと思ったわけだ。似たようなイベントってよくあるしな。主人公が初期の頃強敵に出会って挫折を経験するアレだ。
それで、今日はそのために派遣する奴を決めるために会議をすることになったのだ。
「誰か立候補とか推薦とかある人は手を上げてくれ」
俺は九人の大隊長に向かって呼びかける。まあ呼びかけたものの、これはなかなか難航するだろうな、とは思った。大体そんなものだろう。学級委員を決める時とかな。
だが、そんな予想に反して、俺がそう呼びかけるや否やスッと手が上がった。そして手を挙げた当の人物を見て、俺は嬉しいよりも嫌な予感がした。
手を挙げたのは鎌鼬という種族の妖怪の、風魔という名前の大隊長だ。ちなみに人間だった頃の名前は煉希。みんなが正座している中、コイツだけ立膝をしていて、横には投げ出されたように刀が置かれている。服装は浴衣みたいなものをだらしなく着ている。髪の色は金髪だからなんだか少しミスマッチだ。
コイツは元俺の同級生で、けっこう仲が良い方だった。二人で遊びに行ったりしたこともあったしな。
俺のは友人キャラを演じるためのファッションチャラ男だったが、コイツは生粋のチャラ男で、ナイスバディなお姉さんがいるとすぐ突撃する。
そう言えば俺がこの姿になってから初めてこの城で会って話しかけた時も「なんだ、逆ナンか?悪いな俺は巨乳な女の子にしか興味ねーんだ」って言われたな・・・・・・。いや初対面の幼女に言うことじゃないだろ。
とにかく、そんな感じの奴だからもちろん会議になんか積極的に参加したことが無い。基本的にはやる気がないのだ、コイツは。学校とかでも文化祭の準備とかサボりまくってたしな。
まあ、面倒臭がりなこと自体はいいんだ別に。敵キャラに一人はそういうキャラもいるもんだ。バラエティーに富んだ敵キャラの内の一人と捉えればむしろいいキャラをしててありがたいくらいだ。
ただ、時々楓様と一緒にサボるんだよな。それが困るんだよ。
コイツはこういう性格だし、それに楓様も見た目だけは美人で巨乳のお姉さんだから誘われるとホイホイとついていっちゃうのだ。そんで一緒にゲームなんてしてる。一人でサボるのはキャラが立ってていいけど、トップから直々に『一緒にサボろうよ』って誘われたら流石に部下として止めてほしいよ全く・・・・・・。毎回毎回会議のために俺が呼びに行くのは示しがつかないんだよな・・・・・・。廊下を疾走する俺がもう城の風物詩となりかけてるし。俺が使者王になってからそんなに日、立ってないぞ。本当にもう・・・・・。
おっと、少し愚痴っぽくなっちゃったな。
そんなコイツがこんな時に手を挙げるとか嫌な予感かしかしない。なんかニヤニヤしてるし。
けど、提案があるって言うんなら聞かなきゃならない。見えている地雷だったとしても。
「はい、風鬼くん」
「あざーっす。ええっとぉー、俺からは推薦したい人がいるんですけどぉー」
ムカつくな、なんだその言い方。
けど、推薦したい人か・・・・・・誰だろう。
「ええっとー俺は使者王さんを推薦したいと思いまーす!」
・・・・・・嫌な予感が的中した。
うわーやりやがった。案の定やりやがったよコイツ・・・・・・。俺を生贄にするつもりだよコイツ・・・・・・。
こんなの考えるまでもない。
「いやダメに決まってんだろ!」
「えー?なんでですかー?」
「なんでって・・・・・・」
当たり前だ。実は俺はこの姿になってから慧牙に一回も会ったことがないのだ。だからはっきり言ってどんな顔をして会っていいのか分からない。
その上圧倒的に格上の敵の演技をしながら会わなくちゃならないなんて絶対もう訳分かんなくなる。
これは何とか理由をつけて却下しないと・・・・・・。
だが俺が適当な理由を思いつく前に機先を制するように風魔に発言される。
「でも使者王さんって人間だった頃は神扇寺慧牙の親友ですしー、今でも事あるごとに神扇寺慧牙の監視をしてるじゃないですかー。この計画も使者王さん発案ですしやっぱりこういうのは心から神扇寺慧牙を心配してるような人の方が上手く行くんじゃないですかー?」
「くっ、まあ、確かに一理ある・・・・・・」
こういうのは確かに全く慧牙に対して興味のない人よりも俺みたいな慧牙に対してめちゃくちゃに思い入れがある奴の方が上手くいきそうだ。計画の性質としてそういうようなもんだし。
「そうですよー。こんな計画、神扇寺慧牙の一番のストーカーの使者王さんにしか出来ませんってー」
「いや誰がストーカーだ」
別に俺はストーカーじゃない。ただ慧牙を見守ってるだけだ。
・・・・・・あれ?なんでみんな『確かに』みたいな感じで頷いてるんだ?
「それにどうせ強さを身につけるなら使者王さんくらい圧倒的な方がいいんじゃないですかー?」
「・・・・・・」
やっべ、論破されそう。
「どうなんですかー、使者王さーん」
くっそムカつくな。使者王さん使者王さんって・・・・・普段は呼び捨てのくせに。普段から敬称で呼べよ!上司だぞ一応!
「はーいでは決を取りまーす。使者王さんが行くのに賛成な人ー?」
「ちょっと待てなんでお前が仕切ってーーーーー」
「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
「!?」
お前ら!こんな時だけ一致団結しやがって!団結して押し付ける気満々じゃねえか!
「はーいそれじゃこれでこの会議は終わりって事で、ありがとうございましたー」
「「「「「「「「ありがとうございましたー」」」」」」」」
「ちょっ、待っ・・・・・」
俺の言葉は当然無視され、席を立ってみんな会議室を出て行く。
一人ぽつんと取り残された俺は一回も助け舟を出してくれなかった楓様にポンポンと肩を叩かれて、
「妹の最高の反応が見れるように、完膚無きまでに神扇寺サイドを負かしてくれることを期待してるよ!じゃあね!」
こうして俺が慧牙に会うことが確定事項となったのだった。
もっと全然遅くになると思ってたよ・・・・・・。やべえよ全く心の準備が出来てねえよ・・・・・・。
決行日は三日後か・・・・・・ちゃんと眠れるかな・・・・・・。
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