5/28~6/3 遭遇

5/28

 朝っぱらからどんぶりに並々盛られた芋虫を食わされる。

 足の親指ぐらいの太さのまるまる太ったやつを茹で上げたもの。見た目が非常によろしくない。

 ナナフシが自信作だとにこにこ笑って差し出してきたので仕方なく食べる。濃厚でクリーミーでいて後味はさっぱりしていて美味かった。

 味の感想を伝えた上で奇をてらいすぎていやしないかという話をナナフシにする。まったく新しい食材を見つけようと躍起になって変な方向にいってやしないか。

 確かにちょっと焦っているかもしれませんねとナナフシも認めてくれる。よかった。さすがにさらにエスカレートするようなら試食するこっちも困るところだったから。

 冒険者やってる身でわりとなんでも受け入れる方だが、それでも毎日奇矯なものを口に入れたいとは思っていない。


5/29

 銀のアンテナが方々から突き出している大きな黒のリュックサックを背負ったあやしい男と遭遇する。

 背の高さをゆうに超える草をかき分けたらそこにいた。まったく出合い頭でこっちも向こうも接近にまるで気づいてなくて、互いを認識した時にはすでに手の届く距離だった。

 どうもこんにちはと会釈を交わす。俺1人ならそのまま別れてもよかったのだけれどナナフシがいた。

 ナナフシは故郷を離れて街で暮らしていても南方勢力に属する人間である。地域で警戒されている人物と出くわして何もせずに別れるわけにはいかない。

 といって拘束・連行するわけにもいかない。そんな権限は持っていないし、そこまでする義理もない。

 事情を説明した上で話を聞く。我々は南方を旅する者です。立ち寄った村で聞いたところ現在あなたは警戒されています。いったい何の目的で滞在されているのですか。

 あやしい男は素直に答えた。僕の目的は南方植物の採集です。ここは植物の宝庫です。他の地方の数倍の密度で多様な植物が存在しています。それには未知の薬品が含まれている可能性がおおいにあるのです。

 嘘はついていない、けれどもすべてを打ち明けていない。そんな風に感じた。根拠はない。


5/30

 密林を歩く。多少慣れてきた。

 けれどもそうした時期がもっとも危険であると経験上知っている。気を引き締める。

 もともと南方生まれなだけあってナナフシは特に問題なし。


5/31

 あやしい男との接触についてあったことをそのまま話すということでまとまる。

 自分たちの目的はあくまで食材探しだ。わざわざ厄介ごとに巻き込まれる趣味はない。

 彼に対してなんらかの対処が必要と考えるならばそれは森の戦士たちの仕事である。あえてその領分を犯さなくともよい。

 もし仮に協力を求められた場合、見返りとこちらの余裕如何によっては、応じないこともないけれど。


6/1

 赤袋に到着。手荒い歓迎も想定していたがすんなり入村がかなう。首飾りの効果は抜群だ。

 ぱっと見は単純な構造でたやすく偽造できそうに思える。けれども子細に眺めれば紐同士が複雑に絡み合っていて仕組みを知るには一旦ほどいてやる必要がありそうだ。元に戻せないから絶対にそんなことはしないが。

 着いて早々、戦士を捕まえてあやしい男に会った件を報告しておく。感謝されておしまい。それ以上のことはない。それぐらいがちょうどいい。

 強制されたわけではないが3日ほど滞在する予定。ナナフシは食材探し、その間俺はヒマ。


6/2

 昼間から酒を飲む。情報収集の一環として。

 といってもそんな杓子定規な態度で飲んでいたって相手を警戒させるばかりだ。こちらも相応に楽しまなければ懐に入っていくことはできない。つまりは全力でもって心の奥底から本気で楽しんで飲まなければならないというわけだ。

 これは言うはたやすいが行うは困難極まる高等技術である。新米冒険者にはとてもじゃないがマネできない。俺だってここ数年でようやくわかりかけてきたところだ。冒険稼業の奥義の1つとも言えるかもしれない。ガキどもに教えるにはまだまだ早い。

 いやいやそんな昼間からいっしょに飲んでるようなジジイがまともな情報なんて持っているわけがないだろう。そんなことはない。村の権力構造が外れた彼らはただ酒にありつくために独特な情報収集能力を持っているものでその鼻は決してあなどることはできないのだ。

 比後のじいさんと半日かけて木の実酒を飲む。この仕事は粘り強さが必要だ。1日では終わらない。明日も飲む約束をして別れる。


6/3

 南方勢力も一枚岩ではない。白口・赤袋含む中部接近域、変睨川河口周辺の海岸域(ナナフシの出身地はここにある)、陸路・水路ともにアクセスの難しい秘境域の3つに大きく分けられる。

 現在村を牛耳っている長老衆は対立する気がないが、問題は彼らが去った後のことで若者の中には南方統一を目論んでいるものもいるらしい。そして南方がひとつの勢力となったときに主導権を握るべきは接近域かそれとも海岸域かで水面下で争っているという。

 秘境域の人間は閉鎖性が強く基本的に他に干渉してくることはない。けれども元来環境が過酷なために屈強な戦士が多く、他勢力としてはその存在を無視できないそうだ。

 酔っぱらいの戯言か?

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