6/19~6/25 斬
6/19
刺青の少年、名を斬。彼の案内で黒肝に招かれる。
位置から考えて線外の言ってた集落はどうやらそこのことらしい。言葉通りに2日でついた。
到着するなり長老と面会することになった。あまりにとんとん拍子に話が進む。
周囲の扱いから考えるに斬はどうやら森の戦士のようだ。そんなのとまず出くわすなんて、運がいいのか悪いのか? 多分よかったのだろう。
夜遅くまで辛口の酒を飲みながら長老と語らう。会談はうまくいった。その内容については明日書く。
眠い。今日はもう書きたくない。
6/20
「どうやってここまで来た」
白い髭の長い長老は開口一番それを聞いてきた。
一段と高いところに建てられた、立派な家。その座敷で俺とナナフシは長老と向かい合う。
雰囲気からして粗略に扱われることはあるまいと思った俺は正直に答えることにした。
「緑叢の線外が先導してくれた」
その名を聞いた途端に長老は顔全体の筋肉を硬直させた。重ねて尋ねてくる
「東冷は元気か」
それは人物の名前らしかったが俺は知らなかった。かわりにナナフシが答えた。
「はい、元気ですよ。ここに来る直前に会った時も菱切豆をごちそうしてくれました」
「そうかそうか。あの娘の作る菱切豆はうまいからなあ」
長老は顔全体を弛緩させて笑った。表情の変化が忙しい人だ。
話をまとめると東冷は線外の妻でかつ長老の娘であるという。線外はここの集落に顔を出しづらいと言っていた。何をやらかしたかと思えばそういうことだったのか。
「まったくあの男は顔ぐらい見せていけばいいものを。それでお前たちは何の用で来た」
世間話からシームレスで肝心要の質問に飛び移っていく。
俺は初期の方針を変えずに、食材を探していること、南方情勢を調べていること、ついでに北の連中についての懸念を伝えた。長老はそれらを全部聞いてから
「探すものがあるなら勝手に探せ。南方情勢については心配する必要などない。秘境域はそれぞれの集落が独立している。我らがまとまることはありえない。争いがあったとしても他2つの地域での間だけのことだ。それも我らの出方を伺いながらの小競り合いにすぎまい」
と言った。そんなもんかとこちらはあっさり引き下がる。彼と議論することは目的に含まれていない。過度な干渉は不要だろう。彼らのことは彼らがもっともよく知っているはずだ。
6/21
黒肝を発つ。どういうわけだか斬もついてきた。
彼は言葉をほとんど発することはない。その行動が言葉である。
好意に基づいて案内を買ってでてくれたのか? 敵意に基づいて監視の目を光らせているのか?
まったく不明。
秘境域内で他集落の人間と遭遇した場合を考えるとありがたい。いや逆に斬の闘争にこちらが巻き込まれる可能性もあるか。考える材料が少ない。
6/22
跳花を使っていなかった。何か使う機会があるかもと思ってわざわざ借りてきたのに、出番がない。
一応分解整備はやっている。そんなに難しくないので、結構慣れてきた。
このタイプはつくりが単純で過酷な環境にも耐えうるのが売りだと底見に教えてもらっていた。使ってはいないが問題なく作動するだろう。
あえて使うというのもなんか違う。一応前よりはそれが生活になじんできたので、よかったと言えばよかった。持ってきた意味はあった、持ってこなくてもよかったとは思うが。
6/23
ナナフシと斬を見ているとよくわかる。確かに秘境域の人間は南方の中でもひときわ異彩を放っている。生活習慣、体の動かし方、自然の中における感覚、すべてが違う。
街で会えばナナフシもちょっと変わった人間に入る。けれども斬はそんな枠に収まらない。彼と比べればナナフシなんてかなり街の生活に適応していると言える。
俺と斬の間にナナフシがいるといった感じか。より正確に言えば俺よりの方に。
南方というくくりそのものがおおざっぱにすぎる。外の人間が勝手につけた呼称なのだからそんなものだ。
6/24
これもある意味、噂をすれば影というやつなのだろうか。跳花を使用する。
森の中で大型の犬に出くわす。ざらざらとした茶色の毛並で、犬歯が常に見えるほどに発達したやつ。
3Mほど離れたところでお互い気づいた。咄嗟に腰のホルスターから跳花を取り出し構える。
ほとんど自動的な動作で引き金を引くと、弾丸は見事に野犬の右目を貫いていた。その結果に自分も驚く。
ビギナーズラックというやつかもしれないが。
斬が跳花のことを興味深そうに眺めてきたので、俺もそこまで詳しくはないが、知っている限りのことを教えてやった。流石に実物をやるわけにはいかない。
6/25
現時点での目的は主に食材探し。もともとの目的はそれであり、旅をしているうちにその他の目的は増えたり減ったりしていった。今はただただ街で流行りそうな珍しい食べ物を探している。
そういうわけだから"それ"を見つけるつもりは、我々にはまったくなかったと言っていい。だいたい"それ"が存在すること自体知らなかった。
密林の間に謎の構造物を発見した。
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