3/27~4/2 街道

3/27

 今日も今日とて教会に出向く。

 いろいろ考えた結果、実際に案陽市を見てきた方がいいという結論に至る。別に言っておかなければならないことはないがそのことを教会の方に一応報告することにした。

 おあつらえ向きに手紙を届けて欲しいと依頼されたのでそいつを受けとる。大した収入にはならないが手ぶらで行くよりは随分マシである。

 まっすぐ山並街道に出てから後はその道なりに進んでいく予定。準備をすませたら今日のところは早めに寝る。


3/28

 出発しようとしたところで隣の野菜売りの兄ちゃんが台車が壊れて困っていたのでその場で適当な値段で俺の台車を売りつけた。

 案陽市まで行って帰ってきてその間どうせ使う予定はなかったのでちょうどよかった。別段足元を見たわけでもないがそこそこの値で買い取ってもらえて差引プラス。

 結局昼前に町を出る。朝早くに発ったところでどのみち途中で野宿する予定だったから特に問題はない。

 川のほとりでテントを張る。棘魚を三匹ほどつかまえて焚火で焼き上げる。なかなかの出来、美味し。


3/29

 日が昇る前に山並街道に入る。

 基本的には幅広の平らかな道だがところどころ穴ぼこが開いてたり瓦礫がつみあがってたりする。そんなわけで徒歩で移動してくのが普通である。

 そこに偶然通りがかったのが六脚戦車で、乗っていたのは行商人のおっさん。行先は同じ案陽市。

 こちらは冒険者で護衛の代わりにタダ乗りさせてくれと頼んだところ了承してもらえた。教会印の入った手紙を持ってたのが信用につながったらしい。ついてる。

 不安の広がる状況でそこにつながる街道にも何やら怪しいものが出てきてもおかしくはない。何がどうなるんだかよくわからん。


3/30

 六脚戦車はあんまり快適な代物とは言えない。

 どんな道だろうとその六脚でもってバランスをとりながら乗り越えていけるが必然的にがっくんがっくん揺れる。最新型ともなればそのあたりもいくらか改善されているのかもしれないが知らない。

 まあ自分の足でえっちらおっちら歩いてくのと比べれば楽でいい。あとおおよそ安全。

 揺られに揺られながら行商人のおっさんから話を聞いた。

 行商人の間でも案陽市がやばいのは話題になっているらしい。なんでも最悪の場合、市がまるごと崩壊することもありえるそうだ。

 原因のひとつとしてあげられるのは東地区と西地区の対立で最近になって緊張が高まり一触即発の状態になっているという。

 まったく定かでない情報として――北のスパイが潜り込んでいるなんて噂もあるとかなんとか。まじやばい。


3/31

 北とは灰骨山脈を越えた先に暮らしているという軍事共同体のことである。

 彼らの何が面倒かと言えば崩壊前の『遺物』をむやみやたらと使いたがることだ。

 俺だって『遺物』を使うことはあるが扱いは極めて慎重で常におっかなびっくりといった感じである。

 それを北の連中はまるで何も考えなしに、どういう使い方なんだか知ろうともせずに、とりあえず武器に転用できそうかなぐらいの感覚で乱暴に取り扱う。

 彼らのせいで事故が起きたという話はよく聞く。なんなら街ひとつ吹っ飛ばしやがったなんて話す奴もいるがさすがにそれは信用していない。

 まあとにかくはっきり言って北の人間とは関わりたくない。


4/1

 案陽市も近くなってきなと思っていたら街道がバリケードで封鎖されていた。

 いい加減なこしらえのもので六脚戦車のパワーでもって破壊できそうではあったが、案陽市の緑の旗を掲げていたので俺が話を聞きに行くことになった。そういう約束だったのだから仕方がない。

 市の人間を騙った道賊の類とも考えられて警戒しつつ接触したのだけれどちゃんとした市の検問で、行商人は顔なじみだったらしくそのおかげであっさり通してもらえた。

 しかし出入りの人間まで調べているあたり思ったよりずっと事態は面倒になってそうで、なんだかすでにうんざりしてきたが本当に面倒なのは多分これからで、なんとかかんとか気合を入れ直す。


4/2

 無事に案陽市の大教会にたどり着き手紙を渡す。

 顎髭の立派ななんだか位の高そうな爺さんに直接手渡すことになったのだが、手紙を読むまで目の前で待っていて欲しいと言われ、読み終えたら君はいつ帰るつもりかねときかれた。

 案陽市の様子をざっと見てから帰りたいのでだいたい1週間後ぐらいになりますねと言ったら、そういうことなら帰る間際にまた来てくれ返信を渡すからと言われた。悪くない話でその場で引き受ける。

 ついでに案陽市の状況を知るに詳しい人を紹介して欲しいと頼んだら、教会の人間を呼んでくれて別室で話をしてもらえることになった。

 その男は眼鏡をかけた神経質そうな神官でその話は教会側からみた情報だけに限られていたが非常に助かった。

 要するに何が起こっているかと言えば市に入る前の情報通りで、商業が盛んな東地区とあまり治安のよろしくない西地区の抗争で、すでに若者たちの間ではばちばちにぶつかりあってるようだ。

 このままだと市の経済活動はずたぼろになってしまうし、そうなれば周りの町も巻き添えをくらうだろう。

厄介だ。

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