ロシア・ウクライナ戦争——1000年の宿命。キーウ大公国、ロマノフ王朝、ソ連、そして現代ロシア。あの国はなぜここまで凶暴なことをするのか?

たけや屋

ロシアはなぜこのような国になってしまったのか?

 ロシア・ウクライナ戦争はとどまるところを知りません。


 なぜロシアはこんな凶悪なことをするのか? 国連常任理事国でありながらクリミア半島をブン取っただけでは飽き足らず、ウクライナ全土への軍事侵攻などまでも。


 ウクライナだけではなく、元ソ連構成国への軍事侵攻は数え切れないほど。バルト3国やフィンランドへの軍事的威圧も日常茶飯事です。


 なぜ、ロシアはこんなことをするのか?

 寒い国の宿命として、不凍港や暖かい領土がほしいのか?


 しかし他の北欧諸国やグリーンランド、カナダなんかの寒い国は、現在領土紛争など起こしていません(昔は色々ありましたが)。


 なぜロシアだけがこうなってしまったのか?

 それはプライドにあると思います。


 満たそうとしても決して満たされることのない——呪いのようなプライドゆえに、ロシアはこんな蛮行を繰り返していると考えます。なぜそんなことになってしまったのか、歴史を紐解きながら書いていきましょう。


 その初まりは1000年以上前のことです。


 ◆ ◆ ◆


 現代ロシアの母体となる国は、キーウ(キエフ)大公国と呼ばれていました。現在のウクライナの首都キーウですね。ここがロシアという国家の出発点なのです。それ以前は様々な部族が乱立する時代でした。

 そんなヨーロッパの片田舎キーウが、ある出来事を境に“国際社会”へと進出しました。


 987年、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)皇帝がキーウ大公ウラジーミルに援軍を要請したのです。


 大公はその見返りとして、皇帝の妹アンナとの結婚を要求。

 しかし皇帝としては妹を異教徒の元へ嫁に出すわけにはいきません。なのでウラジーミルへ『キリスト教に改宗するならば』と条件を付けました。


 ウラジーミルは条件を受諾。すぐに異教の神像を叩き壊してドニエプル川に捨るという急変っぷり。そして国教をキリスト教にしたのです。


 このときから、キーウ大公——そしてロシアの主要民族であるスラヴ人の中に『我らはローマ帝国の後継者』だという考えが芽生えました。


 これが全ての初まりだったのです。


 ◆ ◆ ◆


 1453年、オスマン帝国の手によって東ローマ帝国は滅亡します。世界から偉大なる【ローマ帝国】が消えてなくなったのです。


 しかし、スラヴ人にとってはそうではありませんでした。なにしろ自分たちがローマ帝国の後継者なのですから。我らこそ長い歴史と伝統ある帝国であるとの自負を持ち始めました。


 その証拠に、1547年、モスクワ大公イヴァン雷帝が皇帝(ツァーリ)として即位・戴冠しました。

 ロシア語のツァーリとは、ローマ皇帝カエサルのことです。つまりモスクワ大公こそが新たなローマ帝国であり、大公こそユリウス・カエサルに等しい存在であると国内外に宣言したのです。


 ヨーロッパから見ればロシアの中心地キーウ大公国など片田舎に過ぎないというのに。そのキーウから見ても、モスクワ大公国は北の辺境に過ぎなかったというのに。


 極寒の片田舎が世界の大帝国を名乗る——その身に合わぬ大きすぎるプライドが、後々糸を引いていくのです。


 ◆ ◆ ◆


 次に重要なことはロマノフ王朝時代に起こります。

 1613年、ロマノフ王朝成立。国内が安定したら、やるべきことは戦争でした。

 1654年にはウクライナを併合。以降ソ連崩壊までウクライナはロシアの支配下に置かれます。現在の戦争の火種はこんな時代からくすぶっていたのです。


 1762年、女帝エカチェリーナ2世が即位。現在渦中にあるクリミア半島は彼女が支配し、軍事要塞化しました。ロシアのヨーロッパ化を目指す生粋のドイツ人女帝が、ヨーロッパににらみを効かせるためどうしてもクリミア半島が必要だったのです。


 クリミアを押さえれば黒海の制海権が手に入る。黒海からは地中海に出られる。地中海に出られればヨーロッパを牽制できる——という戦略上の要衝がクリミア半島なのです。

 あらゆる軍事侵攻は『ロシアこそがローマ帝国の後継者である』という考えがあればこそ。


 ◆ ◆ ◆


 さて、ロシアは日本と同じで、ヨーロッパ諸国より少し遅れて近代化に成功した国です。

 石油や石炭など、ロシアは日本より資源のある国でした。しかし港が弱かったのです。国土の全てに有力な港がある日本とは違い、ロシアは不凍港が不足していました。不凍港とは冬の間は凍ってしまって使用不能になってしまう港のことです。


 物流のメインはいつの時代でも船便だというのに、ロシアはそれが著しく制限されていたのです。大国としては何としても『凍らない港』が欲しかったのです。


 そうしてふたつの新興国がぶつかったのが日露戦争ですね。これに敗北してソ連へと国家体制を変えたあとも、不凍港への渇望は続きました。

 第二次大戦で日本が降伏したあとでのソ連侵攻。

 その後の朝鮮戦争勃発も、北朝鮮にゴーサインを出したのがソ連だといいます。


 その後も冷戦時代からソ連崩壊と色々ありましたが、ソ連もロシアも一貫して軍事大国であり続けました。

 世界一の国土を持ちながら、総人口は日本とそう変わらない国が。経済力は日本より遙かに劣る国が。


 アメリカとタメを張るほどの軍事・宇宙技術を手にしてきたのです。

 国力の全てをそのふたつに特化することで、世界の最先端を走り続けたのです。

 それもこれも『ロシアこそがローマ帝国の後継者である』という強い自負があればこそ。


 ◆ ◆ ◆


 以上がロシアの歴史です。

 これが周辺各国へ戦争を仕掛けまくる国へとなってしまった原因だと考えます。


 世界最大の国土を持つのに、総人口は日本と大して変わんないし経済力では日本以下。

 なのに心の中では世界最高にして偉大なるローマ帝国を自認している。


 この現実と理想のズレこそが、ロシアを今のような国にしたのではないかと思うのです。


 で、もちろん国家に人格などはありません。なのでこのような『理想と現実がズレている』っていうのは、国家の指導者ということになります。

 国家の指導者ともなれば『外国にナメられたら終わり』という考えが強いでしょう。特に、公式発表で常に強い言葉しか使えないような専制国家では。ロシアもそのような国のひとつです。


 指導者は強いロシアを求め、少数の国民も強いロシアを求める。そのスパイラルがますます偉大なるローマ帝国の後継者というプライドを強化してしまう。現実と理想のズレがますます大きくなってしまう。


 これ、こうなっちゃうのって国家だけじゃないんですよ。

 個人でも似たような性格の人っていませんかね?


 ただの一般人なのに、自分のことをまるでこの世の支配者だとでも思ってるんじゃないか……みたいな人。

 ですがまあ当然ただの一般人ですから、このご時世どこかの国の支配者になんてなれるわけがないのですが。そんな満たされない思いを抱えながら、しかしその性根は変えることができないというタイプの人。


 それが行き着くところまでいってしまうと、その心は最悪の方向へ変化していきます。


『自分は世間から不当に虐げられているから、今のような低い地位にいるのだ!』

 とかいう根拠ゼロの被害妄想に。


 そしてそれは次第に強まっていって、

『自分はそんな世間に復讐する権利がある!』

 とそんな【無敵の人】が定期的に起こす、無差別殺傷事件。


(中には秀才イケメン政治家候補が大量殺人をするなんて例外もありますが)


 その主張はだいたい『世間への復讐』です。


 ロシアの場合もこれと同じなんですよ。国土の都合上——農地も港も足りないという地政学の都合上これ以上は成長できず、資源を売るしかない。周辺国である欧米も日本も中国もあれだけ成長しているのに! というやり場のない怒り。


 そんな無敵の人ならぬ【無敵の国ロシア】がヤケになっちまったらいったいどれだけの被害者が出るのか——それはもう皆さん日頃のニュースでご存じだと思います。


 暴走した個人なら鎮圧なり措置入院なりで被害拡大は抑えられますが、相手が国ではもうどうしようもありません。

 国連は世界の警察ではないのです。常任理事国ロシアが拒否権を行使したら、なにも手出しできないのが国連という組織なのです。


 相手が核兵器を持っている以上全面戦争はできない。間接的な経済制裁くらいしかできない。

 対処療法であたるしかないのです。


 ◆ ◆ ◆


 1000年前のキーウ大公ウラジーミルが、東ローマ帝国の皇女アンナを求めた——それが全ての初まり。

 歴史と伝統ある大帝国の皇女を妻にしたい、というのは男の夢でしょうからね。その思い自体は否定しません。


 しかしそのとき大公の抱いた大きすぎるプライドが、1000年以上をかけて醸成されて、現代ロシアという専制国家ができあがったのです。こうなることは運命づけられていたのです。


 もはや変えようのない国家の宿命——何ともやるせない思いではありませんか。

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