閉校後のある朝

「みなさん、おはようございます!」


 校舎全体に声が響き渡る。


 その声にはかなりの活気に満ちている。


 なぜなら今日は、この学校を使った大きな祭を行う日だからだ。


 閉校した校舎は何年も使われていなかったが、半年ほどの修繕を経て開校当時の面影を残しつつ、時代にあった姿へと変わったそうだ。


 そして修繕が終わってから最初に行われるのが今回の『大学校祭』だ。


 もともとは一部の卒業生だけで小さなイベントをするつもりだったが、どこからかその話を聞いた他の卒業生たちがどんどんと集まっていき、いつの間にか学校がある地域全体を巻き込んだ大きなイベントへと発展した。


 そのイベントの総まとめ役である学校祭実行委員長と副委員長はこの祭を最初に考え、いろいろな人を巻き込んだ張本人である、どこかカリスマ性を持った2人の老夫婦だ。


 そしてイベントの広報は幼馴染の夫婦が、会計は何も言わなくても分かり合えるカップルがリーダーに選ばれていた。


 そして今回の最初のアナウンスを行うのはこの学校の放送部の最後の部長だ。


 本来なら委員長が行うものだが、この学校のルールに従い、文化祭の挨拶をすることができなかった最後の部長が行うことになった。


「それでは、大!学園祭を」


 一息入れて


「始めます!!」


 全力で宣言をする。


 言い終わってすぐに校舎内の至る所で大きな歓声が上がり、防音室にいるはずの彼女にも声が聞こえてきた。


 その声を聞いている本人は宣言を終えてすぐにマイクの電源を外し、マイクの前で泣いていた。


 自分の代で終わってしまったはずのものを     

 本来ならすることができなかったことを

 できるはずがないと諦めていたことを

 それでも、心の底ではどうしてもやりたかったことを

何年か越しにやることができたのだ。


 しかし、泣いてばかりいては進まない。


 涙を拭き、立ち上がり、再びマイクの電源をつけようとする。


 それでも涙は止まらず、声は震えているだろう。


 後ろにいた会長が代わろうとするが、これは彼女の仕事だ。


 彼女は手で会長を静止して深呼吸する。


 そして、マイクの電源をつけて大きく息を吸う。


『校門、解放!』


 その声と同時に門が開く。


 外からは出店側として参加できなかった卒業生や地域の人々、そして今回の祭りのために力を貸していただいた人々が入ってきている。


 かつての文化祭に習い、今日と明日は各教室で出し物が行われて明後日にはかつての伝説にもなった劇やプロとしてデビューした元軽音学部のメンバーの演奏が行われる。


 たった3日間という短い間だが、一人一人が精一杯全力でこの祭を楽しむだろう。


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