潜入② ※残酷描写あり

朝早くに宿を出て人が少ない通りを探し、見つからないうちに認識阻害をかけ王宮を目指す。


昨日よりはややスピードを落とし、他にも防御壁がないか慎重に進む。


「城壁にも王宮にもありますね、かなり強いものです」


魔法大国の名に相応しい強い結界だ。


「入ることは出来そうか?」

「全体を解除するわけではないからなんとか歪みを作って入り込みます。もしかしたら気づかれてしまう恐れもあります」


慎重に行う必要がある。


「陽動を起こし、闇夜に紛れ忍び込もう。王族がどこにいるか探す必要もあるし焦って突入してはいけないな」


一度宿へ戻ろうとティタンは促す。


昨日今日と密着状態となっているのだ、自制はしているが気が気でない。


「一刻も早く戦争を止めたいですが…そうですね、今は情報収集をしてそれから夜にまた来ましょう」


街での情報収集からすると、シェスタに攻め入っているのは第二王子、第三王子のようだ。


ここには国王と第一王子、そして王女がいるはず。


「血生臭いものを見せるだろうが…」

少なくとも国王と第一王子は討たねばならぬだろう。

抵抗さえされなければ女性たちだけでも殺したくはない。


魔法大国なので魔力持ちが多く、女性といえど油断は出来ないが。


「数年前に宮廷術師が変わってから国政が変わったそうですね」


ふらりとやってきたその人物のおかげで魔道具や魔法の基礎力があがったそうだ。




夜も更けてから時限発火装置にて街での陽動を終えた後、混乱に乗じて結界の一部を破り中に侵入する。


王族の顔がわかるティタンだけが王宮に入る。


「何かあれば合図を下さいね」

「あぁ」


万が一に備え、髪と顔を隠しティタンが忍び込んでいく。


姿は見えなくしているが存在はそこにあるわけなので、人にぶつからないよう慎重に進む。


兵士の会話や人の流れにより話し合いが、行われているのがわかる。

先程の陽動についてだろう、その内容から会議室へと向かうのがわかった。


着いた扉の前にはもちろん見張りがいる。


(さすがに入れないな)

中から時折怒号が聞こえてきた。


かすかに聞き覚えのある声がするため、国王や第一王子は共にここにいるのだろう。


今なら会議室に火か毒を撒けば一網打尽出来そうだが、まだ目立ってはいけない。


すぐに目先の楽さを求めてしまうところが、とことん暗殺に向いていないなと心の中で笑ってしまう。


こういうのは兄の側近のニコラが得意だが…と人が出てくるまでそんなことを考えていた。


ぞろぞろと数名が出てきたところで、一人のものに目標を定め、部屋まで後をつける。


急な夜中の陽動で起こされたのもあるだろう、とても疲れているように見えた。


「シェスタの者が入り込んだか、単なる王家への反乱分子か。こんな夜中に迷惑だ」

ふわぁと欠伸をし、側近に文句を言っている。


(それくらい死地に赴くよりマシだと思うがな)


兄と違う考えの第一王子に心の中で悪態をついた。

兄ならば戦地に赴く弟たちを心配するものじゃないかと呆れてしまう。


部屋がわかると見つからない場所に移動し、窓から外へ身を乗り出しミューズへ合図をする。


「あの部屋の防御壁の解除と、その後すぐに部屋中に効果のある眠りの魔法をかけてくれ。後は俺が行く」


こくりと頷き、魔法を放つ。


ティタンは急いで引き返し、ゆっくりとドアを開けた。


倒れている人物の顔を確認し、物陰に体を移動させた後で素早く剣で首を切り落とした。


少しでも発見を遅らせるよう、身体を隠し、血溜まりも入り口からは見えないようにした。


シーツで血だらけの首を包み、更に血が漏れないよう二重に包むと収納袋へと入れた。


「痛みもなく逝けたなら幸せだろうな」




剣の血糊と返り血を急ぎ拭くと部屋を後にし、再び外のミューズへ声をかける。

「次は国王の元へ。念の為来てくれるか?」

グリフォンから降り、ミューズはティタンの後ろに付き従う。




宮廷術師は国王の側妃でもあるそうだ。


王妃を差し置いて一緒にいる姿を民たちも見ているくらい有名だそう。


「アドガルムでは馴染みのないものだ」

ティタン達の血筋は生涯ただ一人を愛する傾向が強いため、ピンと来ない。


強い魔力を持つものの血筋を王家に残すための意味合いもあるだろうが、宮廷術師はミューズと同じ位の年齢だそうだ。


親子程年が離れた人となんてとミューズもピンと来ないようだ。


国王の部屋は先程見つけたメイドに脅し聞いたため、メイドの身柄を隠してから急いで向かう。


さすがに部屋の前には見張りの兵士が立っていたので、ミューズは眠り魔法を使う。


「王族や宮廷術師には効かないかもしれない。突入したら俺に任せてくれ」

一般兵と違い、耐性も強いだろう。


魔法を無力化するなどの魔道具を数種類身に着けている可能性もある。


「防御壁と防音の魔法がかけてありますね、なぜでしょうか。両方解きますか?」

「防音…」

あまりいい考えに至らず、ミューズを見やる。


全く察していないようで、意図が読めないようだ。


「とりあえず一人ではないという事だな」


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