終戦へ

「兄上、こちらを」


自陣に戻ったティタンは自軍への説明を終えると、エリックの元へと転移した。


討ち取った二つの首と猿轡をした宮廷術師の女を兄の元へ連れて行く。


ティタンとエリックはお互いに自分の転移陣を用いて行き来出来るようにしているが、発動する際は多量の魔力が必要となるため滅多に使わない。


それを簡単に一人で行えるミューズは本人が気づいているかわからないが魔力がずば抜けて高い証拠である。


「よくやった…これで戦を終わらせられる。さすが俺の弟だな」

「いえ、全ては森の術師であるミューズのおかげです」


彼女の多大な助けがなければこんなにも少ない犠牲で終わるわけはなかった。


簡単に破った防御壁、数々の魔道具の発動を阻止した大量の魔力。


跪くティタンの横に同じくミューズが跪いている。


今はフードを被っていた。




すでにムシュリウ国内では国王の暗殺の報が漏れ出している。


自室での首なし遺体が二つと宮廷術師の不在。


現在の筆頭となる第二王子への交渉の申し立てをするべくすぐに準備に取り掛かった。


「術師殿、いやミューズ嬢には本当に感謝している。

君には俺の妻を救って頂き、此度の戦を終わらせてくれた。

同盟国であるシェスタの王太子は俺の友人でもあるから彼に変わって礼を言う。

そしてミューズ嬢、弟を気に入ってくれたかな?一緒に戦地に向かってくれたなど、期待しかしていないが」

満足気に二人を見つめている。


「兄上。今はその件は…」

「わかっている、落ち着いたら盛大に祝わせてもらうぞ」




ムシュリウとの交渉はすんなり進んだようだ。


やはりイーノに唆されたようで国王の独断で行われた戦争だったのだ。


第二王子、第三王子は最後まで反対していたのだが、兄である第一王子は王太子になるため国王を支持。

そして二人を戦地に赴くよう画策されたのだという。


逆らう者は魔力と命を奪われたため、仕方なく戦に出る者もいたそうだが大半は国命とし、命を投げうって従っていたそうだ。


「我が国は魔法大国と呼ばれ、魔力を持つものを優遇していました。しかし、それが間違った方向に進んでしまってのだと思っています」

全盛期に比べ、ムシュリウの魔法は衰退していた。


戦の時代などとうに過ぎ去ったにも関わらず、人を殺める技術を磨いてしまった。


その高い魔力を、人を護り、土地を豊かにするものに転嫁出来ていれば周辺国との関係性も変わったのかもしれない。


弱者と群れると蔑むのではなく、手を取りあい助け合う隣人として。


いつまでも選民思想が強く根付いた国だった。

それ故魔力が高く、魔道具の知識も持つジュリアを支持するものが増えてしまい、魔法による支配を再び夢を見てしまったようだ。


「一時期の栄華を忘れられず、衰退を自覚したくないものが多かったのです」


選民意識が高すぎ、身の丈に合わないことを行なった。

力で抑えることなど戦乱の世と違い上手くいくはずがないのにと、第二王子はこの結果を予測していたようだ。




処刑は免れ、第二王子ギルバードが即位しムシュリウが周辺国に統合されることは見送られた。

しかし周辺国への示しとして、各国へ人質が送られる。


第三王子がシェスタへ、王女はアドガルムに人質として出される事となった。


婚姻を結べれば良かったのだろうが、アドガルムの第三王子リオンは「心に決めた方がいるので」とニッコリと断り、シェスタの王女もまた婚姻については保留したいと話しているそうだ。


「アドガルムの英雄に会いたいわ」

という話を受けてイヤな予感はするものの王女の頼みを断れずティタンとミューズは戦後の情勢が僅かばかり落ち着くとシェスタを訪れる事となった。




「エリック、よく来てくれた!」

友人であるシェスタの王太子グウィエンが両手を広げ歓迎の意を示す。


「元気そうで何よりだ。少しは落ち着いたか?」

「あぁ、復興はまだまだかかるがあまり泣き言を漏らすとお前にどやされそうだからな。レナン嬢は元気か?お前に飽きたら俺のところに来るよう言伝してくれ」

「飽きる暇さえないくらい構い倒しているからお前が入る余地はない。早く結婚しろ。あとレナンに手を出したら潰すぞ」

どちらも慣れた様子だ。


学生時代からの友人で二人は特に気があったようだ。


非公式の場であればこそ二人は軽口を叩き合う。


「おお、そちらが英雄の二人か。ティタン殿は更に逞しくなったな」

ティタンの事も知っているため、バンバンと肩を叩かれる。


ティタンとグウィエンの背丈は同じくらいで見上げるミューズは威圧感に居た堪れなくなる。


「そちらのお嬢さんははじめましてだな。俺はグウィエン=ドゥ=マルシェ。シェスタ国の第一王子だ」

褐色の肌に琥珀色の髪。程良い筋肉がついている。 


笑顔も優しくエリックとはまるで違い、軽薄ささえ感じられる。


「私はミューズと申します、この度は微力ながらお力添えが出来て嬉しく思います」

「君もとても美人だ。もう婚約者などいるのかい?」

「あ、あの…」「グウィエン様」

ティタンの低い声に思わずゾッとする。


「彼女はダメです」

「おっ、そうなのか?」

いつもと違う様子にグウィエンもキョトンとしている。


その時、ドアを開いて一人の女性が入ってくる。




「英雄様、よくぞいらっしゃいました!」



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