婚約パーティ③ ※やや不穏な描写あり
きっと反省もしていないし、後悔もしていないのだろう。
どう転んでもスフォリア公爵は破滅させるつもりだったが、せめてミューズが望むものは叶えさせてやりたかった。
頑なに閉ざした口からはもう本音などでなさそうだ。
「兄上を呼んでくれ」
マオに頼む。
ティタンではこれ以上うまい言葉は出ないし、破滅宣言も残りの処理もエリックの方が適切だろう。
証拠の品を出したとて、この場でやり込めるのはティタンには荷が重そうだ。
戦場を駆けるほうが性に合う。
「お祖父様、私達はちゃんとお義姉様ってわかってますわ」
「かわいい義娘ですもの、きちんとわかります」
お金欲しさにすり寄る二人にフンと鼻息を荒くする。
「お前たちなど最初から身内だとは思ってないわ!軽々しく話しかけるでない」
「パルシファル卿、公爵家を侮辱されては困ります」
爵位的にはスフォリア家の方が上だ。
「何がだ。そもそもお前は伯爵家からの婿養子、そしてスフォリアは私が戦いで功績を上げたから妻であるサンドラと共に陛下より賜った領地だ、大事な土地故に大切な一人娘リリュシーヌへ譲ったのだ。そしてリリュシーヌが王家の血筋に連なるものだから公爵家となったのだぞ。
そのリリュシーヌがいない今、お前もお前のその大事にしている無礼な家族もスフォリア家の血を引いてない、お前らは居座り続けるただの寄生虫だ」
名前すらも呼ばず、罵倒を続ける。
「正統な跡継ぎはミューズだ。お前たちではないわ」
「何を馬鹿な事を。リリュシーヌは死に、ミューズも死んだ。私が正統なスフォリア家の当主です」
「残念ながら、それは無効ですよ。ラドン殿は当主になりえない」
コツコツと靴音高らかに現れたのはエリックだ。
「犯罪を犯したものが当主につけるわけがない。そうでしょう、ラドン殿」
エリックは書類の束を持ちながら近づいてきた。
「ミューズ、あとは俺が引き受けるよ。ティタンはしっかりと支えておあげ。
もういいじゃないか、あんな最低な男に父親だなんて認めてもらえなくても。君には心強いお祖父様も、逞しい夫もいる。そして俺たちも君の味方だ。我ら王家の者はミューズの本当の家族になるぞ」
エリックの言葉はミューズの立場を最高潮まで高める言葉だ。
王家がミューズを支持するという発言。
例え元がどのような身分であろうと、ミューズの地位は保証される。
「実子であるミューズを殺そうとした罪、その死を病死と偽証しようとした罪、スフォリア家を乗っ取ろうとした罪…犯罪行為として充分だ」
「そんなのはデタラメです!ミューズは病死したのです、私は殺してなどいない!」
王太子の登場に、さすがに声を荒げた。
王太子の一言一句で自分のこれからが決まってしまうと恐れた。
第二王子や辺境伯と違い、王太子の権限は強い。
生温い応戦ではあっという間に破滅だ。
「オッドアイは確かに珍しいがいないわけではない、それだけで我が娘だと言い張るのは、おかしな話です。その一点だけで私の娘と認めるわけにはいかない」
「実際に墓に埋めたのは人形だったな」
ピタリとラドンの動きが止まった。
「実は葬儀の時におかしいと思った貴族がいてな。内密で王家の方で調査したのだ。その際に墓を掘り起こしたが、そこにいたのは金髪の人形だったよ」
掘り起こしたいと言ったのはティタンだ。
ティタンはもちろん葬儀に出ていない。
だがミューズの死に納得が出来ず、かと言ってなんの関係もないため葬儀に参加することも出来ないからせめて遺髪だけでもと願ったのだ。
してはいけないことだと咎めつつもエリックとニコラが協力した。
落ち込むティタンが少しでも納得出来ればそれでいいと。
掘り起こした時に人形と判明した為、ミューズはどこかで生きているかもしれないと希望が持てた。
元気を取り戻せたのはそのおかげだ。
墓を掘り起こす程執着しているとは嫌われそうで今でも言えないが。
「証拠も証人も揃ってる。言い逃れはさせないし、出来ない」
エリックの合図で魔石から映像が映し出される。
ラドンが誰か男と話す姿。金貨を渡され喜ぶ男。
ラドンが幼いミューズを連れて、馬車へ乗せる。
御者としてその男が乗ると、家紋もない真っ黒な馬車は暗い夜道を走っていく。
男に無理矢理馬車から降ろされたミューズは一人魔の森に残された。
泣いて縋っても馬車は無情にも走り去っていく。
ミューズは泣いて走り、疲れて倒れてしまった。
そんなミューズを魔物が見つけ、牙を向けられたその時、黒髪の魔女がミューズを助ける。
そこで映像は終わった。
「ラドン殿、今の映像を見てどう思った?懐かしいだろう。今の男はラドン殿が雇ったならず者だ。後で会わせてあげよう、10年もの間死ぬことも出来ず貴方を待っていたのだから、早く会わせてあげないと可哀想だ」
エリックの口元はずっと笑みの形を保っている。目は氷のような冷たさだ。
「知らない、こんなの、出鱈目だ!」
「王家の秘伝の魔法を否定するか、残念だがこれは裁判でも有効な手法だ。周囲の記憶を魔石に移すというもので、全て事実なのだよ。さて後は裁判で明らかにしようか、領地での不当な税の引き上げ、領地の乗っ取り、そして資金の横領、数々あるからな。さぁ楽しい話をしにいこうか」
エリックの合図でラドンの両脇を兵士が固める。
「私は、何もしてない、冤罪だ!」
「関わった側近達がすでに待っている、あなたが行かないと尋問を受け続けている側近達が可哀想だ」
尋問をするのはニコラだ。
「こちらも上げよう、もうかれこれ10年、あなたに協力したばかりに拘束された男が怨嗟を撒き散らしている映像です」
魔石をそっと胸元のポケットに入れられる。
ラドンにしか聞こえないが拷問を受けている様子や、自分の名を叫び、殺してやると聞こえてくる。
身震いがし始めた。
「心配せずとも王家が集めた証拠は法のもとでしっかりと判断され、あなたに罪がなければ解放されますよ。もし事実であるならばその先はどうなるか、貴族であればわかると思うが…」
服の上から魔石を触られる。
「犯罪を犯した貴族は平民に落とされ、行き着く先はここだ」
笑みを浮かべ、有無を言わさぬ口調。
「連れて行け」
「私はやっていない!」
牢に入れられては終わりだと、身を捩り逃げ出そうとするががっちりと掴まれる。
「それを明らかにするのが裁判だからな。あぁ、夫人も連れて行け。彼女も横領、そしてミューズの死の偽装を知っていたからな」
「王太子殿下!わたくしは何も知りません!全てはラドンの企みです!」
牢に入れられると聞き、必死で嘆願する。
「発案はラドンでも夫人も知っていて止めなかった。共犯だよ」
ニコラの手が動き、二人の騒ぐ声はかき消される。
魔法で声を奪われた。
連れて行かれる両親を見て青ざめた顔でカレンは立ち尽くしていた。
顔は紙のように白い。
「カレン嬢、今日のところはもう屋敷にお帰り。今後については追って知らせを送るが、公爵家の物はこれ以上傷つけたり持ち出したりしてはいけない。君は平民なのだから」
「わ、私は公爵家の者ですよ」
さっと怒りで頬に紅潮が戻ってくる。
「ラドンの養子となり、確かに公爵家の一員となった。そのラドンが犯罪を犯した。
裁判でその罪が正当だとわかれば、貴族籍も剥奪、極刑になるだろう。貴族で無くなったラドンの養女であるあなたも貴族ではなくなる。君には何の功績もなければ、後ろ盾もない。
ただの平民だ。新たに君を養子にしたいというものがいなければね」
カレンは周囲を見回す。
茶会やパーティに参加はしていた。
親しい友人も婚約者候補もできていた。
しかし、名乗り上げるものはいない。
王家に目をつけられた令嬢を誰も引き取りたくないのだ。
「スフォリア家はミューズが受け継ぐべきものだ。お前みたいな紛い物は要らぬ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます