森の外での暮らし

「そんな、私追い出されるの?」

「ここを飛び出したのはミューズだ。自分で選んだんだろ?私物持っていきな、お前の物があるから俺は奥に入れなくてずっとソファで寝てたんだ。早くベッドで寝たい」

先程から欠伸をしているのはそういう理由らしかった。


「ミューズは国のため戦ったんだ、意味もなく飛び出したのではない」

あんまりだ、とティタンも抗議をする。


「森の術師としての仕事を疎かにしたのは事実だろ。ミューズ、荷物まとめてきな。俺は少しこの王子様と話すから」

サミュエルもティタンの身分は知っているようだ。


「お前がまとめないなら俺がまとめるぞ?下着とかあんだろ、いいのか?」

サミュエルの言葉に顔を赤くし、ミューズは急いで部屋に向かう。


「彼女は国に貢献してくれたのだ、追い出すことはしないでほしい」


ここの関係に口出しする気はなかったが、こんな一方的な話はないだろう。


「追い出すわけじゃない…」

サミュエルは椅子から立ち、頭を下げた。


「お、おい?!」

「ミューズを頼む、あいつを幸せにしてやってくれ」




ここを飛び出したのが国のためではなくティタンのためだとは知っている。


命を賭して守りたい人が出来た事、そして無事に戻ってきたことを孤児院の者たち、一緒に学んだ者たちは安堵したのだ。


「あいつを無事にここに返してくれてありがとう。心からのお礼と感謝を、皆の代わりに俺が代表で伝えることを許してくれ。本当は先生が伝えたいと言っていたのだがしばらく会うことは無理だろう」

顔を上げ、真っ直ぐにティタンを見つめる。


「ミューズを嫁にもらってほしい、これは俺たち皆の総意だ」

「…まずは座ってくれ、そのままでは落ち着いて話が出来ない」

サミュエルが椅子に腰掛けたのを見て自分の心内を話し始める。


「先生や孤児院の者にも伝えてほしい。こちらこそ幼いミューズを助けてくれてありがとう、彼女と生きてまた会えるなんて正直夢のようだった。貴族だった頃の彼女に俺は会っていた、ずっと探してたんだ。これから屋敷に帰り、すぐに婚約する。今日はミューズを助けてくれた、先生に許可を得ようと思って来たのだが、大事にすると君と約束する」

複雑そうな顔のサミュエル。


「ミューズはとてもいいやつだ。元貴族なんておくびにも出さず、誰にでも平等に接してくれた。だからミューズが選んだティタン殿を信じるつもりだが…泣かしたりしたらたたじゃおかないからな。俺ら魔術師が結託してアドガルムに抗議に行くぞ」


ここを任せられるのは強い術師だと聞いていた。

サミュエルも相当なものなのだろう。


「肝に命じておくよ」




荷物を纏めたミューズがトボトボと戻ってきた。


「まとめてきたよ…」

ミューズの口調は拗ねているのか悲しいのか、力がない。


「ねぇ私が悪いのはわかるけど、急すぎない?行く宛もないのに…」

「行く宛ならあるだろ?ティタン殿のところだ」

「へっ?」

ドサリと重たい袋をテーブルに置く。


「先生からの餞別だ、今までの働きとお祝い金。式には呼んでくれと言っていた」

「な、なんで?式って…」

「皆ミューズの幸せを願っている。せっかくその幸せを掴もうとしてるんだ、この森で何かあってからでは遅い。それなら一刻も早くここから離れて好きな男のところに行ってくれ」


しっしっと追い払うように言っているが、内心はとてもミューズを想っているはずだ。

先程の誠心誠意の姿が思い浮かばれる。


「ティタン殿にはさっきお願いした。さぁ行ってくれ、イチャイチャするような姿は見たくない」


そう言うとあっという間に二人を街まで転移させる。




一人残ったサミュエルは天井を仰ぎ、しばらく虚ろな時を過ごしていた。




街に帰された二人はどちらともなく目を合わせる。


「とりあえず、俺の屋敷へ行こう」

「ありがとうございます…」

恥ずかしさで俯いてしまう。


ファサっとフードを被せられた。


「まだ君自身の問題が解決してない。万が一のため顔を隠しててくれ」

「はい」

実家の問題がまだ残っているのだ、しっかりしないとと自分を奮い立たせる。


「先程のサミュエル、彼は君の恋人だったのか?」

親しい口調、真摯な気持ち、明らかにミューズを好きだったのだろう。


「サミュエルが、ですか?いえいえ、孤児院でも喧嘩ばかりでしたよ。意地悪でガサツで、何かあれば俺のほうが年長者だと威張ってました」

苦笑いして否定するミューズに少し安心する。


「でも、責任感は人一倍強かったです。彼小さい子を守ろうと顔に大きな傷を負ったのですが、怒ることなく守れたことに安堵していました。年長者が庇うのは当然だって」


懐かしむ声色。

過去のこととは言え、思い出を共有するサミュエルに嫉妬心がもたげる。


「だが、彼に傷はなかったな」

「私が治しました。実はここ最近になり、魔力の量が何故か増えたのです、なので色んな魔法を習得出来たのですわ」


確かにミューズは多種多様な魔法を使う。


ティタンもいくつか使えるが、攻撃魔法は使えない。

主に身体強化などだ。


「適性によると聞いたが、違うのか?」

「うーん、何ででしょう?先生も不思議そうでした」


歩きながら話をし、途中で辻馬車を拾って屋敷に着いた。




最近は王宮にいることが多かったが、今から行くのは街にある別宅だ。


久々に帰ること、そして婚約者を連れてきたティタンに屋敷は沸いた。





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