告白

「ティタン様にお尋ねします。本当に私の事を好いていますか?」


いつものように手土産をもらいお茶を入れて、席につくとそう切り出した。


数日前敬愛する先生に後押しされたので、勇気を出して自分でも聞いてみようと思ったのだ。


言わずに後悔よりは言って後悔しよう。

駄目ならばこの国での全てのしがらみから逃げ、隣国にて新しい生活を送ろう。


「術師殿、俺は本気で君が好きだ。ぜひ結婚してほしい」

心変わりなどするはずもないと、真剣に返される。

対応を間違えれば最早ここに来れないだろうとティタンは気を引き締めた。


「まだ顔も見せてませんが…それなのにいいのでしょうか?」

ミューズは容姿に自信がない。


元家族には貶され、他の人との接触も少ないため自分はどうなのか客観的に見れないのだ。


「口元を見るだけで美人だ。仕草も佇まいも凛としていて気品が感じられる」

思いもよらない褒め言葉に顔が熱くなる。


「君こそ俺をどう思う?」

「えっ?」


急に問われ、戸惑ってしまう。

問われることなど当たり前なのにすっかり抜け落ちていた。


「俺は本気で君が好きだ、結婚したいほど好きなのだ。共に生活し、話をし、隣で笑いあいたい。前も伝えたが騎士だって辞めてもいい。

だが、それは君が俺を好きでなければただの夢に過ぎない…だから聞きたい。俺のことはどう思っているのだ」




好きか嫌いか。

 



もちろんミューズは好きだと思っている。しかし結婚については、ここまで聞いといて申し訳ないが、正直まだ決心が鈍る。


自分の生い立ちを話して受け入れられるだろうか、自分はこの人と共に生きていけるだろうか。


共に歩み共に過ごすビジョンには憧れこそすれまだ口に出してはいけない気がする。


「嫌いではないです、しかし伴侶としてのイメージがわかなくて…」

伴侶と口にするのも恥ずかしい。


「嫌いでないならば充分だ」

柔らかく微笑むとティタンは席を立つ。

「結婚について本気で考えてもらえるよう、もっと努力する」

近づいて恭しく跪き、ミューズの手を取り甲にキスをする。


騎士の挨拶に、ミューズは頬どころか首も耳も真っ赤になった。


「いつか選んでもらえたならば、その時は」



ティタンが去ったあとも暫くぽーっとしてしまい、動けなかった。




だかそこから情勢が大きく変わり、ティタンが森に訪れることはなかった。





3週間程会えず悶々としてしまい、ミューズは会えることを僅かに期待して滅多に行かない街へくり出した。


「これは?」

道に人は殆どおらず、開いている店も少ない。


街自体も沈黙したかのように静かでさすがのミューズもおかしいと思った。


開いている食堂へ入り、注文と共に話を聞いてみる。


「街の雰囲気が以前と変わっていますが、何かあったのですか?」

「旅人さん、何も知らずにここへ来たのかい?」

店主はビックリしている。


「恥ずかしながら何も知らなくて…しばらくぶりに来てみたらまるで雰囲気が違くて驚きました」

素性は敢えて言わず、旅人ということで押し通す。


「それでも途中どこかで耳にするとは思うが、まあいいや。今アドガルムは戦争中なんだ」

「戦争?!」


まさかの言葉に勢いよく立ち上がったため、椅子が倒れる。


「同盟国のシェスタに魔法大国のムシュリウが仕掛けたらしい。援軍要請が来てアドガルムからも大量の兵が送られた。王太子殿下も戦場に向かわれた」

指先が凍るように冷たい。


王太子殿下が向かえば護衛騎士のティタンはもちろん付き従うだろう。


「いつ出発されたのです!」

掴みかからん勢いでミューズか問い詰める。

鬼気迫るその声に店主は後ずさった。

「5日くらい前だ、もう戦場じゃないかな」


頭を殴られたかのような衝撃を受ける。

もう戦地にいる?最早命を賭す場所にいるというのか?


ミューズは見られるのも構わず家に転移した。


「先生!先生!聞こえますか!!」

通信石に魔力を込め、力いっぱい叫ぶ。

「聞こえているわ、ミューズ」

「先生、ここの護りをお願いします!私はティタン様を追います」

「待って、ミューズ。今行くから話を聞いて」


ミューズが家を出る準備をしているうちにジュエルが転移してくる。


「戦争の話を聞いたのよね。行く前にこちらで集めていた情報を伝えるわ。ティタン様について情報もあるから、まずは聞いて」


逸る気持ちを抑えつつ、話に耳を傾ける。


「まずは争いが起きたことを伝えるのが遅くなってしまってごめんね、食料調達や身の安全をどうするか各地の孤児院の代表者と話していたら遅くなってしまって」


「先生は悪くありません。私が情報収集を疎かにし過ぎていた結果ですわ…ですから、今からでもティタン様のもとに行きたいのです」

「あなたが言っていた人…薄紫色の髪に黄緑の目をした騎士、で合ってるわね?」

こくりと頷く。


「身体はとても大きく、王太子殿下の護衛騎士と名乗っていたと」

「そうです、名のある貴族様だと思ったのですが」


「貴族どころではないわ、彼は王族よ」


「えっ?!」


「家名を名乗られなかったからでしょうけど、ティタンという名で結びつかなかった?あなた昔会ったことがあるって言ってたじゃない」

「で、でもあんなに大きくなるなんて」


昔会ったことがあるが、5、6歳くらいの頃だ。

正直曖昧な記憶しかない。


「ティタン様はある時から騎士を目指して修行を始めたそうよ。王位は最初から興味がなかったらしく今の王太子様を支える為護衛騎士になったそうよ。その強さはこの国でもトップクラスですって。そんな方が騎士を辞めるなんて言うかしら…」

ジュエルはティタンの言葉を疑っているようだ。


護衛騎士になるなど、厳しい鍛錬が必要だし、第二王子としての王位継承権も放棄した挙げ句の騎士の地位だ。

その地位を捨ててミューズを選ぶなど、甘言を用いて騙そうとしたんじゃないかと思ってしまう。


しかし情報を集める程実直な騎士としての話しかなく、女遊びもないそうだがそれでもやはり自分の愛し子を渡すのに躊躇っているのだ。


「夜会やパーティも護衛騎士としてしか参加しないようだし、婚約者などもいないようだけど…彼、想い人がいたらしいわ」


胸がズキリと痛むが、珍しい事ではないだろう。

既に彼は成人済みだ、浮いた話が一つもない方が疑わしい。


「その方と結ばれなかったから私と、ということでしょうか?」

「うーん、結ばれなかったというか…」


ティタンの想い人は数年前に亡くなっているらしい。


実を結ぶどころか想いも伝えられず、悲しい別れになってしまったそうだ。


「数ヶ月気落ちして部屋からも出られない生活をしていたそうだけど、ある日突然立ち直ったという話よ。そこから騎士としての訓練に没頭する日々らしいわ」

ティタンの悲しい初恋話に何と言っていいかわからなくなった。


しかし亡くなった令嬢には悪いが、自分はティタンから直接告白を受けたのだ。

尚更彼を支えてあげたい。


王太子も王太子妃もいるし、王族に名を連ねる事はなさそうだし、騎士として働いてるなら、王太子が王となれば臣下として下るのだろうと考えた。


ジュエルが持ってきてくれた養子の話を受け、二人で隣国に行くというのもいいかもしれない。


「あとはしっかり二人で話をしなさい。あなたもティタン様も後悔しないようにね」

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