婚約パーティ
久々のパーティへの参加が自身の婚約パーティだなんて、とティタンのエスコートを受けながら会場へ入る。
パーティの前に国王夫妻や王太子夫妻、そして学校の寮から帰ってきた第三王子に挨拶をする。
「あなたのおかげでわたくしも無事に今日の日を迎えられるわ。恩人のあなたが義妹になるなんて嬉しい、仲良くしましょう」
王太子妃のレナンは屈託なく笑い、ミューズの両手を取る。
王太子のエリックと違い、とても素直そうな人だ。
「義姉上の解呪の時に僕は隣国へ留学していて居なかったのですが、あなたには多大な感謝をしています。まさか義姉上どころかティタン兄様も救ってくれるなんて」
理知的な瞳で見つめられる。第三王子のリオンはどちらかというとエリック似だ。
「ティタンが選んだ令嬢なら婚約中だろうがもはや家族だ。我らアドガルム王家は君を歓迎する」
国王であるアルフレッド=ウィズフォードは諸手を挙げて、大いに喜んでいるようだ。
その隣の王妃アナスタシアもニコニコとしている。
「こんな猛獣みたいな息子を受け入れてくれて嬉しいわぁ。可愛らしいお嬢さんばかりで舞い上がっちゃう。今度私とレナンとあなたでお茶会しましょう。美味しいスイーツと紅茶をたくさん用意するわ」
少女のような笑顔をしている。
「ミューズ嬢、この国に残ると英断して頂き感謝する。別な国に行く事や断られることも懸念していたが、ティタンと共にいてくれて兄として喜ばしい。
見ての通り暑苦しい家族だが、これからもよろしくな」
いつもは鋭い目が今は少しだけ和らいでいる。
「一生大事にすると誓う。だから俺の隣にいてほしい」
ティタンからの簡潔な言葉だが、想いを伝えるには充分すぎる。
「私もティタン様を大事に思っています、どうかお側に置いてください」
上目遣いで可愛く言われて抱きしめたいのを我慢するのでいっぱいいっぱいになった。
そんなやり取りを思い出し、周囲を見回す。
急に現れたどこぞの令嬢ということで、貴族たちの視線が一斉に集まる。
ひと月程前に招待状を受けた貴族たちは、第二王子の婚約者が誰なのか独自に調査をしたであろう。
パルシファル辺境伯の元に養子に来た女性までは人伝でわかっているはずだ。
森の術師や孤児院出身までは諜報活動が得意な者がいればわかりそうだ。
しかし元スフォリア公爵令嬢とは誰が気づくだろうか。
人々はミューズのオッドアイに驚きつつも第二王子の婚約者として非礼なく挨拶をしていく。
年若い者たちはオッドアイという珍しい瞳をしていても受け入れは早く、ミューズの美貌に心奪われている。
ティタンは面白くないと思いつつも、表情を抑え、挨拶を交わしていった。
「この度はおめでとうございます、ティタン殿。ミューズ本当にきれいになったな、おめでとう」
「パルシファル卿、ありがとうございます」
「おじ…お義父さまのおかげですわ、感謝申し上げます」
周りの目を気にして、言葉の訂正をする。
パルシファル卿はこそっと耳打ちした。
「事が終わったらまたお祖父様と呼んでおくれ、孫娘にお義父さまと呼ばれるとなんだか擽ったい」
ニコニコと好々爺の笑みで言われ、緊張感が解ける。
「はい!その時はぜひ」
ミューズの嬉しそうな表情にティタンも安心する。
数少ない味方で血縁だ。どれ程心強いだろうか。
ティタンもこっそりと耳打ちをする。
「パルシファル卿、ちなみにミューズの実家とはお話になられましたか?」
「挨拶には来たが、礼儀もなっておらん。すっかりスフォリア領地を自分たちの物だと思っている。あれは私の功績を娘に継がせたのだから、あいつらは関係ないのだがな。ティタン殿、パルシファル卿とは他人行儀だ。ぜひシグルドと呼んでくれ、君は大事な婿になるのだからな」
気さくな口調で肩に手を置かれた。
「ミューズをくれぐれもよろしく頼む」
「…武勇伝だらけのシグルド殿にそう言われたら勿論としか言えませんね」
ギリギリと強い力で肩を抑えられている。
表情は変わらず笑顔なので、ミューズは気づいていない。
やっと会えた孫娘が則他の男のもとに行くのだ。
ヤキモチということなのだろうなと、ティタンも甘んじて受けるしかなかった。
魔物や隣国との小競り合いが起きやすい辺境地に住むため、シグルドはとても強く、私兵団も取り揃えている。
今回の戦の際も王国の守りのため、準備をお願いしていた。
スフォリア公爵領は本来ミューズの祖母が受け継ぐ所だった。
王妹であった彼女に用意されたが、シグルドが大人しく籠もっていられないと辺境伯領を希望しそちらを下賜された。
スフォリア領は王都に近い場所であり、王妹のため用意されたものだから、どうするかしばし考えられたが、シグルド達の子どもに継がせようと王家管理の地になった。
だから正統な跡継ぎはミューズしかいない。
あらかた挨拶がおわり、いよいよ目的の人物と対面を果たす。
「此度はおめでとうございます、ティタン殿下」
逃げるわけにはいかない確執。
「お久しぶりです、ラドン=スフォリア公爵殿。本日は私の婚約パーティに来ていただきありがとうございます」
ミューズも促され前に出る。
「はじめまして、いえ、久しぶりですね。お父様」
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