第7話 キューピッド・アモル

 ―――――ドリーム・クラシャー昇進試験


 今回の試験が前代未聞のCランク任務に匹敵する実戦になる可能性があると伝えたレッドチームリーダーのダッシャー・ライノット。

さらに、ダッシャーは今回の試験は四人一組の編成で行われると告げる。


 その話を聞き、臆するどころか俄然やる気満々になってテンションを上げまくるサンタとダンサー。だが、そのテンションが暴走したためダッシャーが二人を怒鳴りつけた。


 二人の顔を交互に見ながらダッシャーが続ける。


「お前らのその余りあるパワーは本試験で使えって! お前らのクソパワーは実戦ミッションで使いたい放題だろ。こんなところで仲間割れするんじゃあなくてよ、試験で死ぬほどガッツリ使えよ! それまでは温存しておけよな」


「おっ、おうよ! そんなことわかってるよ......だいたい、こんなのは漫才の掛け合いみたいなもんなんだよ。なんつーのかな、互いのコンビネーションっつうのかな? そんなのを確認しあってただけだよ」


「.........そう、そうなんだよ、こんなのはいつものことなんだよ、ただの戯れ合いってやつさ、なあ、サンタ」


「ダッシャーはいつもの俺達の訓練を知らねえからな、きっと変に勘違いしたんだよ」


「あたしもさあ、そうだと思ったんだ。大体、ダッシャーあいつってムッツリだしな。ああいう奴が妙なフェチだったりするんだぜー。あ〜、怖い怖い」


「おいおい、誰がムッツリだよ! あと、“妙なフェチ”ってなんだよ」


 すでに怒りを通り越して呆れ顔のダッシャーが静かな調子で突っ込む。


 小学生レベルの二人の言い訳を聞いたダッシャーは、ツッコミを入れるといつものニヤケ顔に戻った。


「じゃあ、お前らが落ち着いたところで、もう一つ大事な情報があるからしっかり聞いてくれよ」


「「もちろん!!」」サンタとダンサーはまたも同時に返答する。


「実は少し懸念があってね。前回までの試験では、四人一組制の場合は各チームの総合力に格差が出ないようにチームを平均化していたらしい。ところが今回は違うのさ。知っての通り、俺とキューピッド、それからお前ら二人の攻撃力は全練習生の中でトップ10にランクインされている。その俺たち四人が同じチームになるなんて随分とおかしな話なんだよ。普通なら全員がバラバラに振り分けられてもおかしくない話なんだぜ。これってお前らはどう思う?」


 少し考え込んだ後、サンタが口を開く。

「.........ってことは、俺たち四人のチームだけはメチャメチャ総合力が高いから、もしかして本気でウルトラスーパーに難易度の高いミッションを与えてくるってことなのかな?」


「サンタ、よ〜くわかってるじゃあないか! お前にしちゃあ上出来の推察だな。まあ、そう考えるのが自然だよな。でも、そうだとしたら俺たちは普段の数倍の力を出し切る必要に迫られるということだぜ」


「だけど、いくら俺達が強いといっても、所詮は実戦経験の少ない訓練生だぞ? いくらなんでもそんな俺達にウルトラスーパーに難易度の高いミッションを与えたりするもんなのかなー?」


「おい、お前ら、まあ任せなよ! あたしが自分の潜在能力をガッツリ引き出して無双状態からのパーフェクトクラッシュを決めてやるからよ!」


 サンタとダッシャーは、ダンサーのその自慢げなドヤ顔に言葉を失くした。


 が、しばらくしてダッシャーが反撃とばかりに渾身の一撃をお見舞いする。


「おい、ダンサー! お前は、夢想で無双かよっ!!」


「!! うわっ………」

「……………キツっ!」


あまりのキツさにサンタとダンサーは気怠く呟いた。


 すると、どこからか続けてもう一人の罵声がダッシャーを貫く。


「ダッサーーーーーい!! あんたさあーー、人間界のお酒の銘柄みたいなことを私に言わせないでよお」


 その声の主は、ブルーの大きな瞳にアヒル口、そして少し尖った耳がエルフを想わせる顔立ち。グリーンを基調とした衣装に身を包み、やわらかな銀色の髪をなびかせながらダッシャーの背後に立っていた。


 ダッシャーは、罵声の射手が立つ背後を振り返る。


「うわっ!!! キューピッドじゃあないか、いつの間に!?」


「ま〜ったくセンスの欠片も感じられないギャグですわ」


身も蓋もない刺々しい言葉がダッシャーに追い打ちをかける。


 相棒であるダッシャーに毒づいたキューピッドはサンタとダンサーに視線を向ける。


「あなた達、あんなひどい口撃をよくぞ耐えたわねぇ。精神力の方もなかなかってことかしら。その根性なら今回の試験は問題なさそうだわ……あなた達が同じチームで良かったわ。良い“仲間”になれそうね」


 サンタとダンサーは同時に親指を立てながら声を上げる。


「「まあな!!!」」


「おーーい! ちょっと待ってくれよ、俺の立場がないだろうがー! 俺はレッドチームのリーダーなんだぜ! っていうか、さっきの“無双”つながりのギャグは、かなりイケてると思っただろう!? 本当は大笑いしたいところをお前らお得意の忍耐力で我慢しているんじゃあないのかーー?」


 ダッシャーの悔しさにまみれた悲壮な叫びが辺りに響き渡った。


 ダッシャーを手玉に取るこのキューピッド・アモルは、毎日の訓練でダッシャーとコンビを組むエリート訓練生。


 彼女がエリートであるとされるのは、遠い昔にハイエルフが神に神化したと伝えられる一族の末裔だからと噂される有名人でもある。

青く、大きく、愛くるしい瞳から放つ幻惑魔術を得意としており、この幻惑魔術を付与した弓攻撃に加えて、防御、治癒といった幅広い能力を発揮する女射手。


 現在の訓練生の中で、この幻惑系魔術を扱える者は、キューピッドただ一人である。

キューピッドのこの能力はナイトメアメーカーとの闘いにおいては、かなり有効になるため、ドリーム・クラッシャー部隊を束ねるミカエルからも一目置かれる存在でもある。


 しかし、そんな超エリートであれば、飛び級は勿論、自分の優れた能力をひけらかし、他者を見下し差別するような性質に成りがちなのだが、彼女=キューピッド・アモルはそれとは正反対、弱き者を慈しむ。つまりは“徳”を持った存在であった。


 但し、つまらないダジャレやギャグには容赦しないという恐ろしい部分も併せ持っていた。



 ダッシャーの渾身のギャグが滑りに滑りまくって、キューピッドの攻撃の的になった姿を哀れに感じ、そっとしておいてやろうと思ったサンタたちは、再び談話し始めた。


「だけどキューピッドまで、俺たちのところへ来るってことは、やっぱり俺たちの試験って超ハイレベルのミッションをコンプリートするってやつになるんだよな!?」



「それは間違いなさそうよ。さすがの私も同じチームになるあなた達の精神面だけは、しっかりこの目で確かめておきたかったのよ」


「おい、キューピッド! あたしもサンタも、こんなチンケな試験如きで心を取り乱すことなんてないから安心しなよ。むしろ、こっちは待ち遠しいってのが本音だよ」

ダンサーは、キューピッドの真意を見抜いて答える。


「さすがはダンサーね。その燃えるような瞳を見れば、あなたの闘志がどれほどのものかは明白よね!」

そう云って、今度はサンタの顔を見つめる。

「まあ、あんたの場合はわざわざ確認する必要はないと思っていたんだけど……」


「おう、まあな!」


 サンタのドヤ顔がなんだか腹立たしく思えるのだが、更にもっと腹立たしい男の方へ向き直る。


「はあ〜あ、一番心配なのは、あそこのニヤけた顔の私の相棒だったってことねえ。灯台下暗しっていうのかな〜、シャレにもなってないわ」


 キューピッドは溜息混じりにそう言葉にすると、自分の滑稽さに笑ってしまうのであった。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 数日後―――――


 昇進試験のチーム編成が発表された。


訓練生であるレッド、ブルー、グリーン、イエローの4つのチームの訓練生達が整列する中で行われた。

試験官となるのは、ドリームクラッシャー部隊の大隊長であるミカエルをはじめとしたCランク以上の戦士達。


 そして、試験のチーム編成の発表はミカエルから全訓練生に伝えられた。


 レッドチーム注目のファーストチームは、

 ダッシャー・ライノット

 キューピッド・アモル

 ダンサー・ゼロ

 サンタ・クルーズ

以上の4名。


 ダッシャーとキューピッドが述べていた通りとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る