第11話 島国イーストエンド

― 天界 夢幻廊ムゲンロウ ―


 サンタ、ダッシャー、ダンサー、キューピッドのレッド・ファーストチーム四名は、夢幻廊ムゲンロウと呼ばれる神殿内に移動すると、試験監督官である大隊長ミカエルから今回の試験内容についてレクチャーを受けていた。


 大隊長ミカエルは、レッド・ファーストチームの昇進試験はイーストエンドという島国の首都オイコットがそのステージだと告げた。


 その後に聞き分けの無いサンタとダンサーの悪態のせいで、ミカエルの説明が中途半端に終了してしまうという状況に陥っていた。

ミカエルがレクチャーを終えようかと思ったその寸前、再びキューピッドがミカエルに願い出た。


「ミカエル大隊長殿、試験のステージは理解しましたが、より詳細な情報を……つまり私たちがダイブするターゲットについての情報もいただけませんでしょうか〜」


 ミカエルはキューピッドの願いを無表情で聞き取った後、サンタとダンサーに視線を向ける。


「もっともな願いであるな……こやつら(サンタ&ダンサー)が五月蝿いので、このまま説明なしに夢幻空間にダイブさせてしまおうかと思ったのだが……」


その台詞を聞いたダッシャーが血相をかえてキューピッドに親指を立てる。


「あぶなかったーー、セーーフ!! キューピッド、マジでグッジョブ!!」


キューピッドはダッシャーの親指に鬱陶しさを感じる......が耐え忍んでいる。


 その様子を見届けながらミカエルがレクチャーを続ける。


「今回のミッションは、イーストエンドで確認された二体の非望因子が持つ歪んだ夢を木っ端微塵に打ち砕くことである。一体は、コーツキーという名のチンピラスーツがよく似合う狡猾さに長けたズル賢い男。もう一体は名をペイペイという小物のくせに、偉そうな態度だけは天下一品の男。しかも10歳以上も年下のコーツキーに『貴方様に一生ついて行きます』と宣言してしまうというカッコ悪さが半端ないドイヒーな男だ……」


「うわっ! きっつーー!! そいつ最低最悪のカスだな!」ミカエルの話が途中だというのにダンサーが吐き捨てるように言い放つ。


「本当ですわね。なんだか話を聞くだけで不細工極まりない男の臭いが漂ってきますわ」


キューピッドも苦々しい顔つきで同調すると、続いてサンタも外野から野次を飛ばすようにミカエルの話に茶々を入れる。


「おいおい、眩しいオッサン! そーんなカス以下の男なんてのは、この世にいるはずないってーの!! まったく冗談はこいつの顔だけにしておくれよー、マジで!」


そう言って、ダッシャーの顔辺りを指差す。


「サンタ、てめえー!」

指を差されたダッシャーがサンタに掴みかかるが、それを静止するかのようにミカエルが伝説の『やめなさい!よしなさい!』流のツッコミを入れる。


「貴様ら、そのくらいで勘弁してやらんか! それ以上本当のことを言うでない!!」


 どうしようもないカス人間の非望因子を皆でディスったところで、再びミカエルが本題に戻す。


「ひとつ注意しなければならないのは、すでにナイトメアメーカーどもが此奴らにコンタクトした可能性があるということだ。万が一、奴等と接触しそうになった場合は、戦闘に入る前に極力奴等の力量を見極めることを忘れるな。そのレベルによって、攻めるか退くか、相応の判断を下すのだぞ」


ミカエルの話を聞いたキューピッドは安堵した様子で礼を述べる。

「詳細まで、ご教示いただき感謝致します。相手の力を見極めるのは私の得意とするところですので、決して油断することなくこのチーム全員が無事に試験を終えられるように精進する所存です」


「よろしい! それでは貴様らは、これよりスパイラルフォールから夢幻空間へ急降下せよ! 幸運を祈る!!」


 『スパイラルフォール』は、夢幻空間への転移装置である。

ドリーム・クラッシャー隊の夢幻戦士たちが、ターゲットの夢の中へダイブするためのゲートだが、下界の人間からすれば、正に“夢の扉”といったところだろう。


 サンタ達レッド・ファーストチーム四名は、ゲートの前に並んだ。


 ゲート周辺には、ゲートの展開座標を設定するゲート・オペレーターが配置されている。

そのゲート・オペレーター達が“夢幻座標軸”をプログラムし、いよいよゲート展開までのカウントダウンに入る。


 しばらくして、オペレーターからのGOOD LUCK!(準備完了)の合図と共に四名は、スパイラルフォールへ飛び込んだ。



― 島国イーストエンド〜首都オイコット ー


 イーストエンドは下界(人間界)の極東にある小さな島国。

小さな国ではあるが様々な産業が発達し、平和な国家社会を形成している。


 この国の首都オイコットに東オーシャンカンパニーという中堅企業があり、この会社のプレジデントはナカジーという人望の厚い人間味溢れる男である。


 プレジデントのナカジーには、二人の腹心がいた。


 先のミカエルの説明にも上がったが、その一人はコーツキーという元はチンピラ同然だった男。

コーツキーは若い頃にナカジーに喧嘩を売って逆に完膚なきまでに圧倒されたが、ナカジーからその心意気を買われて拾われた。そして、男としての真っ当な生き様や仕事のノウハウを叩き込まれて、一人前のビジネスマンに成長した。


 もう一人は、ギャンブル好きが祟って仕事にも金にも困って泣きついてきたナカジーの幼馴染でペイペイという小狡い小物っぷり満載のゲス男。


チンピラ上がりのくせに異常なほどに狡猾なコーツキーは、年齢が10歳も年上のペイペイを飼い犬のように扱い操っていた。


 二人は、表面上は会社のためと大義を盾にして周囲の人間を蹴落とし、狡猾な手口でのし上がってきた。他人の功績を自分の功績のように仕組んで横取りすることは日常茶飯事、卑怯で小狡い実績を積み上げて現在の地位を確保した。


 この二人の腹心を取り立ててしまったことで、ナカジーは非常に残念な結果を自ら招くことになってしまう。


当然、この企業にいた心ある者達や無力な一般社員は排除され、また自ら会社を去ってしまい、ナカジーが二人の狡猾さや卑怯でドイヒーなやり方に気がついた時には取り返しの付かない状況に陥っていた。


 ある程度の権力を有したコーツキーは裏の稼業として麻薬や拳銃の密輸を行い、闇の組織と関わり合いを持つまでになってしまう。

東オーションカンパニーは最早、ナカジーが築き上げてきた真っ当な企業ではなくなっていた。


 そして、とうとうナカジーまでもが騙された挙句に罠に嵌められて、ついには会社を乗っ取られてしまう。


 何故、こんなことになったのか? 

 ナカジーの人を見る目の無さもあるのだが、その本当の要因は?……… 

それはこの二体、コーツキーとペイペイこそが、心の底に不届きで歪な野望と闇を抱えた非望因子であったからである。


 そして、コーツキーとペイペイは、すでにナイトメアメーカーに寄生されていた。

サンタ達が奴等二体の夢の中へダイブする直前のことであった。


 サンタ達に傷だらけの明日が待ち受ける。

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