第12話 裏切りに染まった夢
サンタ達のチームが与えられた昇進試験のミッションは、東オーシャンカンパニーを卑劣な手口で簒奪したコーツキーとペイペイという二体の非望因子が増幅させている歪んだ不届きな夢=非望をクラッシュすることであった。
ドリーム・クラッシャーが非望をクラッシュアウト(完全破壊)するには二通りの方法がある。
ひとつは、非望因子の夢の中(夢幻空間)にダイブしてその非望構造を消去(クラッシュ)すること。
この場合、厄介なのは夢の世界に巣食うナイトメアメーカーもろともクラッシュしなければならない。これを実行しなければ、非望の生産構造そのものはクラッシュアウト出来ない。
更にナイトメアメーカーの中には瞬間空間移動するタイプのナイトメアメーカーも存在する。
このタイプがかなり厄介な魔人で、無限空間(夢の中A)から無限空間(夢の中B)へと人の夢を渡り歩くかのように空間移動してしまうため、放っておけばその存在を眩ましてしまい、例えダークマターである非望をクラッシュしても逃げ隠れたナイトメアメーカーがその後に再生させてしまうこともある。
だから、非望をクラッシュアウト(完全破壊)するには、ナイトメアメーカーもろともクラッシュアウトしなければならないのがセオリーなのだ。
もうひとつの方法は、非望因子本人の存在を消去、つまり肉体と精神の両方を完全破壊(クラッシュアウト)することであるが、これを実行するには全知全能の神の許可が必要となる。
しかし、非望が成就する前の段階では、人類を創造した全知全能の神としては、自らが創造した下界の人間に対して愛情を注ぐことで改心させる方法を優先するため、そうした許可を下すことが少ない。許可されるのは非望が成就してしまった後になることが多いため、ランクの高いドリーム・クラッシャーでなければ対応が困難になる。
また、天界人であるドリーム・クラッシャーが直接人間を攻撃する場合は、ドリーム・クラッシャーが有機体化し実体を持つ人の姿となって下界に降臨し、任務を遂行する必要がある。
それには神気功闘術と呼ばれる有機体格闘術を最大限に操ることが必須で、並のドリーム・クラッシャーにはハードルの高い方法である。
ちなみに、半神であるサンタは本来であれば、半分は人種族の生体を持っていたためこの方法は容易に出来るはずであったが、運び屋時代に人としての存在(有機体)をナイトメアメーカーに消滅させられてしまった。
そのため、現在は下界の人間に対して直接攻撃が出来ない状態であった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
島国イーストエンドで非望を増幅させるコーツキーとペイペイの非望因子二体。その二体の夢幻空間が試験のステージ。
サンタとダンサーは、コーツキーサイドの無限空間(夢の中)へダイブし、ダッシャーとキューピッドはペイペイサイドの夢幻空間(夢の中)にダイブしていた。
「おい、サンタ、ダンサー、二人とも無事にダイブ出来たか?」ダッシャーの声が直接脳内に伝わってきた。
“脳内伝心”という一種のテレパシーを使って、ダッシャーはサンタとダンサーの脳内に直接語りかけている。
“脳内伝心”は夢幻戦士の通常連絡手段となっている。
予め、チーム内のメンバー同士が精神共有することによって、サンタ達は離れていても連絡を取ることが出来る。
「こっちはダンサーと共にコーツキーって奴の夢幻空間に入ったぜ。そっちも入ったんだろう?」
「こっちは問題ない。それよりお前らわかっているな。ターゲットの精神体に遭遇しても、いきなりクラッシュしようとするなよ。先ずは非望のエネルギー量の把握とナイトメアメーカーの存在有無を確認するんだぞ! 万が一、魔神どもの威圧を感知したらすぐにこっちに知らせるんだぞ!」
「お前は俺の母ちゃんかよ! んなこたあ、言われなくてもわかってるっつーの! ダッシャー、お前の方こそダサいんだから気をつけろよ!」
「誰がお前の母ちゃんだよ! サンタ、ダンサー、猪突猛進型のお前らの性格を心配して注意しているんだぞ。わかっていると思うが俺達四人は一蓮托生だ。ひとりでも足並みを乱したら全てがダメになるんだって肝に命じてくれよな!」
「はいはい、お前は心配性だからうるせーけどよ、仰せの通りにしてやるぜ」
「なんか引っ掛かる言い方だなあ……まあ、いい! じゃあ先ずは探索からだ」
「じゃあ、そっちも何かあったら知らせろよ!」
そう伝え終わって、サンタとダンサーはコーツキーの夢幻空間を探索を開始した。
二人が入った夢幻空間は、あたり一面が真っ黄色に染まっている。よく見ると黄色い壁の回廊になっており、少し先に庭園のような場所が見える。
二人がそこまで進んで行くと、開けた辺り一面に黄色いカサブランカの花が咲き誇っている。
まるで広大な花畑のようである。
「おい、サンタ、ここは全てが黄色く染まっちまっていて、目がチカチカするぜ。なんだよ、この気狂いじみた空間は、この因子野郎の精神構造はどうなってやがんだよ」
「ああ、ここは裏切り野郎の夢の中だからな。こいつの腐った精神構造がそのまま夢幻空間に反映しちゃってるんだろうぜ! しっかし、花は綺麗なのに、なんだか禍々しい妙な気を感じるよな」
この空間内で目に映る景観は、全てコーツキーの精神が生み出している。
コーツキーの夢の中は、自分の裏切り行為の歴史を象徴するカラー、つまり黄色一色に染まり、裏切りを象徴する黄色いカサブランカの花で覆われている。
サンタが言うように辺り一面のカサブランカの花々は美しく咲き誇っているのだが、禍々しい香りのような、或いはオーラのような何かを放っているように感じられた。
そのカサブランカ群を見渡していたダンサーが声を上げる。
「おい! サンタ、あれみてみろよ! あの左の奥の方にある花、あの親分みたいにデカい花、ありゃあ一体なんだ? あのデカいのって、何かがありそうだぞ」
サンタはダンサーが指差す方向に視線を移して、目玉が飛び出るくらいに凝視する。
「ん? なんだあ? 確かにあの一輪だけが妙にデカいなあ……おいおい、しかもあの花から異常なほどの何か得体の知れない花粉の霧みたいなもんが噴き出てないか?」
「ホントだ! あれ、ヤバいやつなんじゃあねえの? まさか、あの霧みたいなやつは猛毒とかじゃあねえだろうなあ、あんなもの吸い込んだりするとあたしら二人とも消滅しちまうんじゃあないのか!?」
「だよなあ、ちょっとこの庭から離れようぜ」
と、二人が踵を返そうとしたその時!
「―――!!」
例のヤバイ一輪だけやたらと巨大な花の陰から、これまたその花に比例した大きさのカラスアゲハのような巨大な蝶が羽ばたいて、宙を舞い出した。
「―――!!」
二人は、これまた異常な程にデカく、そして黒々と黒光りする蝶を目の当たりにして一瞬だが怯んでしまう。
一瞬でも怯んだ自分に腹が立ったダンサーの眼光が鋭く光る。
「あんの、タコがあーー! あたしを驚かすたあ100万年
苛立ちを発散させるように声を張り上げて剣を抜いた。
そのまま剣を振りかざして花々の中に飛び込もうとするダンサー。
咄嗟に不味いと判断したサンタは、前へ飛び出ようとするダンサーを背後から羽交締めにして動きを封じる。
「バカ野郎! 勝手に突っ込もうとするなよ! しかも、あれはタコじゃあなくて蝶だぞ! 」
「んなことはわかってるよ! タコってのは口癖なんだよ! 変なところをツッコミ入れてんじゃあねえよ。あと、勝手にしがみついてんじゃあねえよ、離せよタコ!!」
「ダンサー、あの蝶をよーーく見てみろよ、あいつ蝶のくせにダサいっつうか、えらい不気味な感じだぜ。なんかよー、蝶のくせにブッサイクな顔がついてるしよー! 仕舞いには生意気に黒光りなんかしちゃってるぜ」
「だから、ブッサイクなくせに生意気に蝶みたいな格好して粋がってやがるから、あたしが切り刻んでやるんだよ! 早く離せよ!」
「ちょっと待てって、あの不細工な蝶をよく見てみろよ! あいつ、あのデカい花に液体みたいなもんを振りかけてんだろう」
「なにい!! あの蝶は不細工なのにも関わらず、得体の知れない変態チックなものを振りかけているだとお! 不細工なくせしやがってぇーー!」
巨大カラスアゲハの存在そのものに怪しさを感じ取ってはいるものの、二人の会話のそれは焦点がズレまくり、カラスアゲハの顔が不細工だということに
そしてダンサーはサンタに言われて、巨大なカラスアゲハ的なくせに不細工な蝶をよく観察すると、確かに花の周りを旋回しながら、何かの液体を花弁全体にかけているのがわかった。
まるで、巨大な花に養分を与えているかのように見える。
「わかったぞ! あのブッサイクな顔した蝶みたいな奴の正体!」
「お前もわかったみたいだな、ダンサー」
「おう! あれはまさしくナイトメアメーカーだな!!」
正体の根拠が“ブッサイク”ということだけなのだが、強ち間違ってはいなかった。
「あの野郎は、何かエゲツない液体みたいなもんを散布しちゃってるけど、あれは何なんだ? サンタ、お前は知っているのかよ」
「あれはだな、その…なんだ、なんかイケナイ感じの液体だろうな」
巨大なカラスアゲハが散布している液体について、サンタは全然理解していなかった。
しかし、その液体こそが第3話に登場したあの魔界のレアドリンク“スゴイナージュース、略してスゴジュー”と同じ性質を持つ非望を成就させるための滋養強壮剤なのであった。
「どうするよ! あの蝶の姿のブッサイクな魔人、このまま放っておくのかよ!」
「ダンサー、ちょっと待て……あのデカい花だけど、あれってダークマターなんじゃあないのかな?」
「―――! それってまさか! あのデカさからして、もう出来上がってやがるのか……よ」
二人は、この周辺に漂う禍々しい異様な気配が、黄色いデカい花の中から放たれていることを確信した。
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