第10話 魔神ナイトメアメーカー卿 〜アレスとルイデス〜
地獄に巣食う魔神、魔人、悪魔、堕天使どもの王として君臨する闇の貴公子ルシファー。
ルシファーは神の座を狙って反乱を起こした天界大戦で、天使の三分の一を率いて戦った。
しかし反乱は失敗し、付き従った天使たちと共に地獄へ堕とされた。
その時、地獄に堕ちた者たちの中にルイデスという名の欲望と夢を操る堕天使がいた。
ルイデスは、先の天界大戦で天使長ミカエルを裏切って窮地へ陥れたことから“裏切りの堕天使”と異名を持つ。
ルシファーと共に地獄に落ちた際、地獄の業火に焼かれたのだが、そのことで天界の神々への恨みと憎しみは増大し、歪んだ復讐心の権化となった。
神が創造した下界の全ての人間を闇堕ちさせ、混沌の世へ逆戻りさせることで復讐を成し遂げようと企む。
ルイデスは夢と欲望を融合させた『非望』というダークマターを生産し蓄積することで、再び混沌の世を取り戻すことをルシファーに進言した。
更にダークマターである『非望』は、下界の人間が創り出せるということに着目する。非望因子に分類される人を家畜化し、餌を与えて肥大化させ『非望』に成就したところを取り込んで、ルシファーの野望に貢献してきた。
やがてルイデスは、決して抱いてはいけない不届きで歪んだ夢=『非望』を肥大化させるために非望因子を操る者として、魔神ナイトメア
ルイデスと共にルシファーの側近となったもう一体の魔神。
かつて天界にいた頃、粗暴でしかも残酷、暴力の限りを尽くしたことで破壊神と異名をとったアレス。あまりのドイヒーさに全知全能の神の怒りをまともに喰らったアレスは地獄へと叩き堕とされた。
粗暴で残酷ではあるが、神の世界でも屈指の戦闘力と抜群の攻撃センスを持ち、地獄でルシファーが闇の貴公子となった同時期に魔神へと進化を遂げた。
アレスは、狡猾で悪虐なルイデスとは全く反りが合わず、決して行動を共にすることはしない。
闇の王であるルシファーの命令であれば、渋々ルイデスと顔を合わせるくらいはするのだが、根本的にルイデスを毛嫌いしているアレスは、ルイデスに対して口を開くことは決してない。
そのくらい我が道を行く頑固さが特徴的であった。
王の臣下が顔を揃えなければならない場面では、副官のノウエーという魔人を代理に立て自らは参列しないということもしばしばであった。
アレスとルイデス、この二体の魔神こそがナイトメアメーカーの頂点に君臨する者。
アレスとルイデスの配下には、共に天界に復讐を誓った堕天使たちの成れの果て、
この魔人どもこそがナイトメアメーカーなのである。
そして、
ナイトメアメーカーは、下界を混沌に導く無数の悪夢を創り出す。
ダークマターである『非望』を大量に蓄積するため、人の心の隙間に滑り込んでは非望の増殖行為を繰り返すことを繰り返す。
なの非望因子に分類される非道を厭わない人間どもには、彼らが望む不届きで歪んだ欲望を叶えるため殺戮欲や蹂躙欲などの歪んだ欲望という餌を与え続ける。
またある時は、人の挫折感などの負の感情につけ入って絶望を抱いた者に狡猾さと怨念を与え、非望因子を生み出すための種を蒔く。
世の中に戦争、紛争、侵略をもたらす悪虐非道で狡猾さと巧みな嘘を武器に罪のない者や弱者を痛ぶるロクでもない国家のリーダー達、圧政によって己の欲望の為に民を苦しめる国家のリーダー達、こいつらこそがナイトメアメーカーに操られ、最も強大な非望を生み出している。つまり、ナイトメアメーカーにとっての家畜なのである。
こうして下界を混沌へ誘うことこそが、天界の神々への復讐と考え、ナイトメアメーカーに成り下がった堕天使たちの歪んだ正義なのである。
そして、徐々にその勢力は拡大し、ダークマターは肥大化している。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
魔神アレスは直属の配下である『幻魔衆』と呼ばれる魔人級ナイトメアメーカー十体を招集し、天界の夢幻戦士との戦いに備えていた。
闇の王であるルシファーの復讐と野望を成し遂げるための大きな戦力である幻魔衆は、何れもアレスに引けをとらない戦闘力を有している。
そして、他のナイトメアメーカー達にはないアレスへの高い忠誠心が、その強大なパワーの源でもある。
その幻魔衆が勢揃いする中、闇の王ルシファーの使い魔が現れ、アレスの足元にひざまづいた。
「魔神アレス様、我君ルシファー様からの招聘命令が下っております」
「呼び出しをくったのは俺ひとりだけか?」
古代ギリシャの彫刻のように均整の取れた筋肉質の肉体を持つアレスが、いつものように問う。
「此度はアレス様お一方だけでございます」
「――――承知した! すぐに参る」
― 闇の王の間 ―
天界の神殿を模写したかのような造りの王の間。
その一番奥にある王の玉座にルシファーが座している。
「我、王よ! アレスが参りました」
魔神アレスは、片膝をついて頭を垂れる。
「アレスよ、参ったか。単刀直入に述べるが、貴様のところの幻魔衆はダークマターの回収効率が悪いのではないかとルイデスが進言してきおったのだが、貴様はどう考えておるのだ? 何か異論はあるか?」
アレスはルシファーの言葉に顔を顰めながら口を開いた。
「あのゴミクズごときに効率がどうのこうのと言われるのは、怒髪天を突くかのような怒りしか覚えませんな! だいたい、カス並の悪知恵しか脳のないルイデスのところの貧弱な戦闘力を補っておるのは我ら幻魔衆ですぞ! 我らがいなければチンピラ風情のルイデスごときは、一瞬で天界の夢幻戦士どもに消滅させられておりますぞ」
「貴様がルイデスを毛嫌いしておることは承知しておったが、そこまで嫌っておるとはのう………」
「奴ごときカスが、我が王の片腕などと烏滸がましいことを吹いておること自体が腹立たしい限りですぞ!」
「そこまで言うでないぞ! あやつはあれでダークマターの採取にかけては右に出る者はいないのだ。それに、あの狡猾さと陰湿さはこの地獄の闇によく似合うのだよ! 貴様も戦闘力や暴力だけでなく、あやつの小狡さを見習うが善いぞ」
(クッ………)
「お許しください! 口が過ぎましたことお詫びいたします」
アレスは、顔を歪めながら恭しく非礼を詫びた。
「まあ、善い! 貴様の今後の働きを大いに期待しておるのだから……ちょうどお誂え向きの命があるのだ。貴様のところの幻魔衆を遣わして下界の極東の島国をターゲットに膨大な量の非望を創り上げてみせよ!」
「我が王よ! 汚名返上の機会をいただき感謝致します……では早速我が自ら赴きましょう」
「まあ、待て! 貴様はドッシリと構えておれ。この手の仕事は幻魔衆どもに任せておけばよい。貴様の副官のノウエーに指揮を取らせて見事成し遂げてみせよ」
ルシファーはそう言って、右手の挙げて指を鳴らす。
すると、魔神アレスの背後に副官ノウエーが姿を現す。
「闇の王ルシファー様、お呼びでしょうか!」
「ノウエー、貴様がアレスに変わって極東の島を非望で覆い尽くすのだ!」
「御意!」
ルシファーの下知にノウエーは顔を上げることなく承知すると姿を消した。
それを尻目にアレスが口を開いた。
「それでは、私は王の指示通りに致しましょう」
「では、下がるがよいぞ」
「ハッ!」
アレスも頭を上げることなく、王の間から姿を消した。
アレスは、自身の神殿に戻ると怒りを露わにして、周囲の装飾品や彫像を手当たり次第に破壊する。
ルイデスに辱められたことへの怒りが収まらず、怒気を放出しまくる。
更に自分の出番を却下されたことについても内心穏やかではない。
(王は、俺に汚名返上の機会を与えるかのようにおっしゃった割に、俺ではなくノウエーに現場の指揮権を与えるとは………わからんな。どのようなお考えなのであろうか……)
一方、ノウエーはルシファーからの命を受けて不敵な笑みを浮かべていた。
幻魔衆を3体選りすぐり、下界の島国であるイーストエンドへ降り立っていた。
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