第9話 天界の中心で“打倒ナイトメアメーカー”を叫ぶ
ドリーム・クラッシャー部隊への正式編成を目指す訓練生達の昇進試験が始まろうとしている。
各受験者がチーム分けされて、それぞれにそのミッションが告げられた。
どのチームも試験官である先輩クラッシャーの説明を真剣に聞き入っている。そのせいか会場である広場全体に訓練生達の緊張感が集積されて巨大で重たい空気を生み出していた。
通常の訓練生達の試験内容は、実践形式の場合Dランク相当の任務を遂行することになる。
Dランクの主な任務は、下界の人々の中から非望因子やそれに近い性質を持つ者を見つけ出して、その不届きで歪んだ夢が成就する前にクラッシュすることである。
今回の試験では、その任務をクリアすることが試験合格の条件となる。
一方、Cランク以上の任務は、Dランクと比べるとそのレベルが極端に上がる。
ドリーム・クラッシャー隊の第一の任務である『非望のクラッシュ』を遂行することになる。
そのためには『ナイトメアメーカーの排除』という危険度の高い戦闘を強いられる。つまり、Cランク以上の任務では、避けて通れないのがナイトメアメーカーとの戦闘という訳である。
ナイトメアメーカーと呼ばれる魔人達に打ち勝つには、高いレベルの“
だからこそ、従来はDランクのミッションやCランクのサポートなどで経験値を積み上げて行くのがセオリー。
それだけに経験値の浅い訓練生がCランクのミッションに挑むということは、受験する訓練生達にとっては相当レベルの高い任務になる。
当然、そんなレベルの任務がこの試験に採用されるなどということは誰もが予想だにしなかった。
サンタ達四人を除いては………。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
サンタ、ダンサー、ダッシャー、キューピッドの四名は、レッドグループのファーストチームに選抜された。
そのレッド・ファーストチームの試験官は、ドリーム・クラッシャー隊の大隊長ミカエルであった。
大隊長ミカエルは、レッド・ファーストチームを従えて、試験会場奥にある神殿の中へと進んで行く。
この神殿は
ドリーム・クラッシャー隊の夢幻戦士たちがターゲットの夢の中へダイブするためのゲートである。
空間が渦巻きのように捻れたゲートが床に面しているため『スパイラルフォール』と呼ばれている。
「さて今回の試験だが、お前ら四人に与えられる任務は、島国イーストエンドに巣喰い始めたナイトメアメーカーの排除である。しかし、その任務中に『非望』の成就が認められてしまった場合は、その『非望』をクラッシュするまでが任務となる」
スパイラルフォールの前に立ち止まった大隊長ミカエルが徐に言い放つ。
「やはり、非望が成就するような危険度の高い現場に行くってことなのか」
ダッシャーが小さな声を漏らす。
そのダッシャーを横目で見ながらキューピッドが小さく右手を挙げた。
「あの〜、ひとつ質問はよろしいでしょうかあ?」
「……善いぞ」
「今回の試験は、私の勝手な知見から判断すると、今までにない高いレベルの任務になると思われるのですが、更にその上を行くような想定外の敵に遭遇した場合は、試験官である大隊長のヘルプなどはあるのでしょうか?」
「お前達四人が挑む今回の試験だが、かなりレベルの高い任務となる。正直なところ、訓練生のお前達にこのような任務を与えるのは非常に酷だとは思うのだが、これは神々の決定でもあることだ。しかし、万が一、想定以上の状況や敵が発現した場合は即刻、試験は中断させる。そして、その場合のみ我等
「それを聞いて安心しました......」
「その状況判断は試験官である私が下すことになる。しかーし! それはあくまでも想定外の場合のみである。それ以外はお前達が窮地に立たされようが、手を貸すことはないから心してかかるように!」
「へへへ……、眩しいオッサンが良――く言うぜ! オッサンに借りなんか作るかよ!」
突然、サンタがミカエルに暴言を吐くと、それを聞いたダッシャーが目を点にしながらサンタを羽交締めにしつつ小声で叱責する。
「バカ! お前、大隊長に向かってなんてこと言ってんだよ! 口を慎めって」
「だってよー! あのオッサン、俺の存在が半分なくなったのを助けてくれなかったんだぜーー。そのくせ、なんだか妙に眩しいんだよなー」
「いいから、黙れって、このバカ!」
どう考えてもサンタの台詞が聞こえていたはずであるが、ミカエルはそれを咎めようとせず、四人の訓練生に言葉を手向ける。
「まあ、聞きなさい! お前達四人は、今期の訓練生の中でも戦闘能力にかけては上位にランクされておる。当然、お前達のチームは他チームに比べてその戦闘力は群を抜いている。上位ランク四人が同じチームになるということは、当然それだけの技量を併せ持つ訳であるから、任務もそれなりにハイレベルになる。そのくらいのことは理解しておろう」
「もちろん、それは理解しております」
羽交締めにしたサンタの口を両手で押さえながらダッシャーが答える。
「ならば、今回、お前達の任務が難易度の高いものとなることは当然であると理解出来るであろう。例え、そのレベルがお前達が考えるよりも高いものであったとしてものう」
「はぁああ?? ちょっと、何言ってんだよ、大隊長さんよお……」
「おいおい、ダンサー、お前までなんちゅー口を聞いてんだよ。ややこしくなるから黙っていてくれよ」ダッシャーが血相を変える。
「お前はすっこんでいろよ!」
「いやいや、これから大事な試験が始まるんだぞ! お前こそ、わかってるのかよ!」
「んなこたあ、言われなくてもわかってるんだよ。だから、大隊長さんに訊こうとしてるんじゃないか」
「お前の訊きたいことは、俺が訊くから黙っててくれよ」
ダッシャーは、羽交締めにしていたサンタの身体を無理やりにダンサーに預けるとミカエルに向き直る。
「大隊長、我々が考えるよりもハイレベルになるというのは、それは任務のレベルがCランク以上のものになる…ということでしょうか?」
「この試験はお前達四人の総合力に見合ったランクの任務を与えることになっておるのだよ。お前達四人の力は、お前達が考えているよりも遥かに高いのではないのか? ということだ。お前達がその意味をしっかり理解すれば、どのような任務であろうがコンプリートすることは容易いのではないのか」
「あっ! そういうことなのかよ! つまりは俺たちのレベルはメチャメチャ高いから、すげえ強い魔人が出てこようが、ダークマターが充満しまくった場所で戦闘になろうが、俺たちは強えから問題ないっつうことだろ!」
サンタの目が輝き出して、ダンサーの肩をポンポンと叩きまくる。
そのサンタの腕を捻りながら、ダンサーは冷静な口調になる。
「なんだよ! そういうことかよ! 最初からそう言ってくれたらいいのによ」
「では、最後にひとつ、この試験中にギブアップしたい場合は、この“光の指輪”を擦ってギブアップと叫ぶのだ。
そうすれば我等
ミカエルは少しも表情を変えることなく、そう言って“光の指輪”をダッシャーに渡した。
「大隊長! 勿体無いお言葉、ありがとうございます! 我等四名、これまでの数倍もの神の気を練り続けて試験に臨みます! 例えナイトメアメーカーと戦闘になろうとも、それを退け、非望因子の歪んだ夢を打ち砕き、ダークマターとなる『非望』であってもそれをクラッシュすることを誓います!」
ダッシャーが恭しく述べた。
それを見ていたサンタも羨ましくなり、スウ〜っと息を吸い込んだ。
「打倒! ナイトメアメーカー!! 冥界の果てまでぶっ飛ばしてやるぜーー!!」
心の叫びを天界全域に轟かせる勢いであった。
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