第8話 神気功術
正式な夢幻戦士を目指す訓練生全員が集まる試験会場は、ドリーム・クラッシャー隊の本部前に設置された円形闘技場を彷彿とさせる広場。
この場所で試験に臨むためのチーム編成が発表された。
全てのチーム編成がアナウンスされた後に、それぞれが自分のパートナーと顔を合わせて喜んだり、落ち込んだりと一喜一憂する様はまるでクラス替え発表の現場のようである。
しかし、そんなことよりも担当試験官から告げられる試験に関する注意事項の方が大切であることは、皆が承知している。
それぞれの受験チームには、それぞれに先輩クラッシャーである担当試験官がつき、チーム毎にそのミッションについてレクチャーが行われている。
担当試験官は、そのミッション内容と合格基準、そして自身の存在が消滅しないための注意事項などを淡々と説明する。どのチームの訓練生達もそれを真剣に聞き入っている。
真剣さがマックスに達したかのような圧の高い緊張感が重たい空気となって会場全体に充満しているかのようである。
そもそも夢幻戦士になるためには、ドリーム・クラッシャーの戦闘に絶対不可欠な戦闘術である“
ここに集まった訓練生達は、そのレベル到達のために厳しい訓練と鍛錬に取り組んできたわけである。
この
神気功を練り上げ、練り上げた神気功を自らの身体内外や得意とする得物に纏わせる。これが戦闘におけるベースとなる。
つまり、それぞれ自分の得意とする格闘術に付与することで自身の戦闘スタイルを構築出来るのである。
サンタの場合は練り上げた神気功を身体全身に纏って闘うスタイル。
ダンサーであれば、練り上げた神気功を剣にまとわせて闘う。
また、この
この神気功砲はキューピッドが得意としている。
神が与えた神のエネルギーを練り出す術式、それこそが“神気功術”なのである。
各試験官は、戦闘における“神気功術”の扱いや重要性、いざという時の想像力と冷静な判断力、神気の乱れによる不具合への注意など、手厚いアドバイスとも取れるような説明を訓練生達に伝えている。
今回の試験は二人一組のチームが基本形式であったが、各クラスの成績上位メンバーのみ四人編成となっていた。サンタ達レッドだけでなく、ブルー、グリーン、イエローの各チームからも同じように四人一組のチームが編成された。
この四人編成チームは、それぞれのファーストチーム(代表チーム)と位置付けられる。
しかし、ファーストチームへの任務がかなりレベルの高い過酷な試練になることは、ダッシャーが語っていた通りであり、サンタ達レッドチームの四名は選抜されたことに自惚れたり、自慢げに鼻高々になったりする余裕などはなかった。
対して、ブルー、グリーン、イエローのファーストチーム選抜メンバーの中には、指名された嬉しさを態度に表す者、自慢げに自らを誇示する者、他の訓練生を見下す者もいる。
しかし、その余裕は長く続くことはなかった。
その後の担当試験官からのレクチャーを受けると、ファースト選抜メンバーのほとんどが無口になっていた。
それは、自分達の力量を超えるレベルの任務を与えられるという極めて危険で困難な試験内容を命じられたからである。
中でもイエロー・ファーストチームの四人の有様はドイヒーであった。
少し前までイエローのリーダー格であるハーシーが「祭りだあああぁぁ!」と言わんばかりにはしゃぎまくっていたのがかなり痛かった。
「俺がNO.1だぜ!」
「お前ら見てろよ! 俺たちがトップでミッションをコンプリートしてやるぜー!」
などと、始まる前から鬼の首をとってきたかのように吠えるだけ吠えていた。
しかし、担当試験官から試験内容を言い渡されると、ハーシー以下四人全員が俯いたまま放心状態にでもなったのかと思うほど静まり返ってしまった。
このイエロー・ファーストチームは、イタ〜イ男ハーシー、無口だが観察力に優れたシュナイダー、本来のイエローチームの成績トップの絵に描いたような優等生の女剣士アイミー、学問と神気功術ではトップクラスのセンスをもつチェルシー、以上四名のチーム編成。
しばらくして、偉そうなリーダー格のハーシーが試験官に訂正を求めるべく進言する。
「ちょっと待ってください! なんで俺たちのミッションがCランクレベルなのですか? 俺たちにそんなレベルのミッションがこなせる訳がないじゃあないですかあ! 何かの間違いですよね? ちょっと調べてもらってください」
続いて、隣にいたアイミーという女剣士も懇願するように前に出る。
「そうですよ! 何かの間違いなのではありませんか? 私たちは訓練生で実戦経験も乏しいのが実情です。それが昇進試験だからといって、いきなりCランクレベルなんておかしくないですか!?」
このチームの担当試験官は、大隊長ミカエルの副官であるハンニバルという“智の神気功術”においては叶う者無しと言われた猛者。
そのハンニバルが諭すように答える。
「間違いなどはある訳がないのだよ。貴様たち四名は仮にもイエローの中ではトップの成績を誇るのだ。であれば、当然のことなのだよ……そして、貴様は“実戦経験が乏しい”と述べたが、誰であれ初めて実戦に挑む者に実戦経験などがある訳はないのだ。誰しもが一戦一戦、場数を踏んで経験値を積むのだ。それが当然なのだよ。つまり貴様達は、その初めの一歩を今、踏み出すだけのこと」
「はい、それはごもっともです………ですが、私たちには上位ランクのミッションをこなす術など持っていないに等しいのです。ぶっつけ本番で臨んだ結果、私たちの存在が消滅するということは明らかではないでしょうか」
「やる前から、諦めてどうする! 力量不足だ、技量不足だと喚く前に四人の力を結集すること、知力と想像力を極限まで高めて考えることが最善なのだよ。そうすれば、自ずと未来は開けるのだぞ」
「…………」
アイミーは返す言葉がなくなり、ハンニバルの言葉の意味を深く理解しようとした。
そのアイミーに代わって、もう一人のメンバーであるチェルシーが反論する。
「でも、失敗しないとも限らないではないですか! というより成功する確率の方がとても低いはずです………私、消滅するのは嫌です」
チェルシーの切実な言葉の重さが、場の空気までも重くする。
「全く問題ない! そのために私が試験官として貴様ら四人に同行するのだからな」
ハンニバルの言葉が一筋の希望となり、この場の空気は一転した。
「同行するんですか!? 本当ですかあ!! 良かったあー―! それじゃあ、万が一、失敗しても消滅することはないってことだな」
気が楽になったハーシーが能天気なことを口にすると、アイミーが透かさず檄を飛ばす。
「あなたは馬鹿なのかしら? 逆に、万が一にも失敗するようなことを考えないようにするのよ! いいわね、この馬鹿以外のみんな!!」
「いや、あの、ちょっと待てよ。俺だって、失敗することなんか考えてないんだって!」
「こいつ、イエローで一番最弱なんじゃあないかしら。メンバー替えてもらった方が良いかもしれないわね」
「あら、彼って根性無しで有名なのよ。知らなかったの?」
同じように気を取り直したチェルシーが笑いを誘った。
崩壊寸前だったイエローの面々に闘志が蘇る。
そんな彼らの顔つきを確認したハンニバルが再び口を開いた。
「但し!! 同行するには......同行するが、私はただの傍観者であって手助けをすることは一切ないということだけ覚えておけ」
「はい! 問題ありません!!」
メンバー全員が顔色を変えることなく二つ返事で返答した。
本末転倒するかのようなハンニバルの台詞であったが、先ほどと違い、全員が下を向くことはなくなっていた。
「あの、ひとつ質問よろしいでしょうか?」
今まで無言を貫いていた四人目の男、シュナイダーがハンニバルに問いかけた。
「……申してみよ」
「我々のようにファーストチームに選抜された各チームの奴等は同じようにCランクのミッションが与えられているのですか?」
「ふふふ、貴様らのミッションなどはまだまだ甘いのだよ……」
「それは……
「今回の試験で過去にない程のハイレベルで過酷なミッションに挑むのは、今期生において最大最高戦力であるあの連中なのだよ」
ハンニバルがそう言って、向けた視線の先には、サンタ達四人の姿があった。
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