第4話 女神アンドロメダ

 天使長ミカエルのテレポートで|天界門≪ヘブンズゲート≫に跳ね返されることもなく、天界に入ったサンタはミカエルと共に謁見の間にいた。

 |天界門≪ヘブンズゲート≫とは、神々をはじめとする天界人以外の生きる者を通すことのない聖なるパワーの結界である。


「初めて|天界門≪ヘブンズゲート≫の中に入れたけど、思っていたのとなんか違うぞ」

サンタはキョロキョロと辺りを見回す。


 ミカエルと共にサンタが佇む謁見の間、そこは辺り一面が真っ白に染まる影一つない空間で、何か寂しげな殺風景な空間。


「いいか、今回お前は特別にここへ入ることを許されたのだ。キョロキョロせず、姿勢を正して静かにしておれ」

ミカエルが子供を諭すかのように注意を促した。


 しばらくすると、厳かで清らかな雰囲気が周囲に満ちて、ひとりの女神が姿を現した。

白く柔らかな衣装に身を包み、長く煌びやかな髪の毛に端正で可憐な顔立ちの万人が、まさに女神と称えるであろう神々しい姿に見える。


 ミカエルは片膝をついて恭しくこうべを垂れる。


おもてを上げなさい、ミカエル」

女神の言葉で立ち上がり再び敬礼するミカエルを一瞥すると、女神は徐にサンタに尋ねる。


「我は天界の“隣のお姉さん”的女神と謳われるアンドロメダである。其方そなたが半分存在を消されてしまったという半神の少年であるか?」


「隣のお姉さん?? ってことは、あの思春期の青少年達をたらし込んではダメ人間に落とし入れてしまうというあの有名な!? そのエッチなお姉さんが俺に一体何の用なんだい?」


「誰がエッチなお姉さんだっちゅーーの! それよりも貴様、我の話を聞いておるのか? 其方は幻魔に半分存在を消された少年なのかな? と聞いておるのだ」


「あっ、それは失礼しました。そう! そうなんですよ! 俺はサンタっていいます。正直自分でもイマイチよくわかっていないんだけど、このままだと仕事に支障が出るから困ってるんすよ。お姉さんのエッチな力で何とかならないもんですかねー?」


「エッチな力とな? 其方、何故にそれを.........ふっふっふ、それについては、またの機会にみっちり、ムッチリと教えてやろうぞ。しかしのう、被害者の其方を元通りにしてあげたいのは山々なのだが、我が力だけではそれを叶えるのが困難なのじゃよ」


 下ネタには多少なりの理解がありそうな女神が、身も蓋も無いことを伝える。


「ええ〜〜! そんな殺生なー! 突然出てきてNGを突きつけるなんて、あんたそれでも神なのかよ!」


「こらっ! 先程から女神様に向かってなんて失礼なことを言うのだ。口を慎め!!」

怒りを堪えつつ後ろに控えていたミカエルが慌ててサンタを叱咤する。


「だって、神様なのに元に戻せないなんてひどい話じゃあないか! これじゃあ本当に神様なのかどうか疑わしくなるでしょーが。実はただのエロいお姉さんなんじゃあないのかな。まあ、それはそれで嬉しくもあるんだけど」


「お前はまだ言うのか!! 控えなさい、馬鹿者が!!」


 ミカエルの怒りが強くなるが、それを遮るように女神が口を開く。


「善いのじゃ、ミカエル。この半神の少年を元に戻す方法が全くない訳ではない。我は“隣のお姉さん”的女神じゃからなあ! どうだ少年、凄いじゃろう~!」


「えっ! ホントっすか? なーんだ、俺はもうてっきりいろいろダメかと思っちゃったよ。方法があるならあると早く言ってくれよー、もう焦らすのが上手いなあ」


「焦らされるのがよほど好きと見えるのお〜、よしよし、では、その方法を教えてあげましょう。但し、その方法が其方にとって最善といえるのかどうかはわかりませんよ」


「こんな状態だからな、それに賭けるしかないぜ! よろしくお願いしますぜー!」


 女神は優しいオーラを放ちながらその方法を告げる。


「不届きなナイトメア・メーカーによって其方の存在が半分消滅したのであれば、逆にその幻魔衆(ナイトメア・メーカー)を其方が消滅させるしかない。恐らく消滅したというより、魔界のエネルギー源としてダークマターにでも吸収されてしまったのであろう。だから、その吸収された其方の生体エネルギーを取り戻しに行けば良いのじゃ」


「う〜ん、なんかよくわからないんだけど、ようするに、俺の存在を取り戻すことは可能ってことだな! やってやるぜ。女神様、で、そのダークなんとかってのはどこにあるんだい?」


「うむ。それはだな、魔界の王ルシフェルの統治エリアのどこかであろうな! とにかく、ルシフェルの野望を打ち壊すことが出来れば其方の存在は元に戻るはずじゃ」


女神は偉そうな割には、詳しい場所までは特定できていなかった。しかも偉そうに語った方法は、自分で何とかしろと言わんばかりの無茶な方法である。


「魔界の王っすか?……そいつの野望を……俺がっすか? いやいや、冗談キツイっすよ! いくら俺が地元じゃ負け知らずの韋駄天だからって、それはないでしょー」


「冗談などではないぞ! まあ、嫌なら無理にとは言わんが、其方が本来の存在に戻るにはそれしか方法がないということなのじゃよ」


 女神の無茶振りに、単純で単細胞、更に生まれついてのスーパー・ポジティブな性質のサンタは迷わず即決する。


「チッ!! だったら仕方ないぜ。俺が魔界の王って野郎をブっ飛ばすしかないんだろう。んじゃあ、男らしくビシッっと覚悟を決めてやってやろうじゃあないの!」


 サンタの色良い返答を聞いた女神はご満悦の表情でミカエルに目線を移す。


「よろしい! では、ミカエルよ、この少年をそなたのドリーム・クラッシャー部隊に編入させなさい!」


「御意!」


「それから半神の少年よ! 其方に私の加護を授けます。きっと其方の助けとなるでしょう」


女神アンドロメダは、そう告げると唇に両手をあててサンタへ投げキッス、更におまけとばかりにウインクをひとつ与えた。



「おおーーっ! やっぱりエロいお姉さん女神だけのことはあるなー、なんて心地良くて清々しくて、幸せな気分なんだろう」


 優しく柔らかな光がサンタの全身を包み込んで、“女神の加護”が付与された。



 サンタはミカエルに向き直って問いかける。

「眩しいおっさーん、ところでそのドリームなんちゃらっていう、ぶたい・・・ってやつだけどさあ、なんか劇とか歌ったりとかする舞台ってやつなんだろう!? 面白いのかなあ? 喜劇とか笑えるやつだといいなあ! 『しむ◯、後ろーー!!』とか叫んだりしたいよなー。あれ叫ぶの、憧れていたんだよな、俺ってばさあ」


「…………………………………」


 ミカエルは返す言葉を失っていた。


 当然のことだが、サンタはドリームクラッシャー部隊を知っているわけがなかった。

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