第5話 仲間
女神アンドロメダの加護を受けたサンタ・クルーズは、天使長ミカエル率いるドリーム・クラッシャー部隊に所属することになった。
ドリーム・クラッシャー部隊とは、別名を夢幻戦士と呼ばれる天界の戦士たちで構成される特殊部隊。まさに神の軍隊である。
部隊の目的は、下界の人間たちが生み出す不届きで
ナイトメアメーカーによって自分の存在を半分消失してしまったサンタは、失った存在を取り戻すためにドリーム・クラッシャーを目指すことを決意する。
そうしてミカエルに付き従って歩いていると、沸々と心の中で決意したものが込み上げてくる。
「てめえのケツは、てめえで拭けってやつだよな」
そう呟いてから、大きく息を吸い込んだ。
「やられた分はキッチリ、トイチ(※1)の利子つけて返してやるぜー! 待ってろよー、ナイトメアメーカーどもーー!!」
※1:10日で1割の高い金利の略称
「うわーーっ!!! ビックリしたあああ!! アーンド、耳がキーーン!」
不意を突かれて、耳元でサンタの絶叫シャウトを喰らってしまい、驚きのあまりクワトロアクセルレベルの回転ジャンプを決めるミカエル。
着地と同時にサンタを小突く。
「くぉぉおおらああ! このたわけがー! 人の耳元で急にデカい声張り上げるんじゃなーーい!! 」
更にお返しとばかりにミカエルのデカい拳が、怒りの鉄拳となってサンタの頭にクリーンヒット。
ボッコッ!!
「痛ってえ!! くっそおおー! 何すんだよお、オッサン!! 」
「誰がオッサンだ! お前が可哀想だから天界まで連れて来てやったのだぞ! その私にオッサンオッサン
「チッ! この痛みの借りはいつか返してやるからなあー!」
サンタの三下奴な捨て台詞が虚しく響き渡った。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ドリーム・クラッシャーには7つの階級がある。
階級順は、最上級が
その下に位置付けられた訓練生(見習い)は、戦士になるための学生のようなもので、正式な戦士ではない。
新参者のサンタは当然のことながら一番下の『訓練生(見習いランク)』に配属された。
訓練生達は、“ホワイトチーム” “レッドチーム” “ブルーチーム” “イエローチーム”の4つのチームの何れかに編入され、すべての訓練、研修はチームごとに行われる。
サンタはレッドチームの所属となり、訓練生として毎日厳しいトレーニングを受けることとなる。
ドリーム・クラッシャーとなって戦うために必要な知識、スキルを習得し、心・技・体すべての能力を磨き上げなければならない。
サンタは、持ち前のポジティブで明るい性格に、負けん気の強さが
更に生まれつき、俊敏さ、跳躍といったスピード能力に関してはズバ抜けた天性の才に恵まれていたことに加え、体術のセンスも抜群で型に嵌まった格闘術とは違い、我流の自由奔放な体術を編み出すようになった。
そして日々の激しく厳しい鍛練によって、体力はもちろん、技量、力量の向上は目覚ましいものがあった。
こうしてドリーム・クラッシャーとしての任務を遂行するために必要なあらゆるスキルを習得してゆくのであった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
それから一年が経過した頃。
サンタは同じレッドチームで厳しい鍛錬に励む仲間たちと共にいた。
訓練生は戦闘訓練を受ける際はツーマンセル(二人一組)で行動する。非望を操るナイトメアメーカーとの戦闘では小隊もしくは中隊で臨むケースが多く、最低でもツーマンセル(二人一組)で挑むことを義務付けられるからである。
サンタのパートナーは、ダンサー・ゼロという名の女剣士。かなりレベルの高い剣術を習得している頼もしい存在だ。
彼女は、容姿端麗だが男勝りの上、口が悪かった。しかし気持ち良いほど真っ直ぐな性格だから、多少の口の悪さなどは気にならないし、不思議と憎めないタイプだ。
そんな真っ直ぐな性格だからなのかサンタとは不思議と馬が合い、連携技や合体技といった二人のツープラトン攻撃は、ハイクラスのドリーム・クラッシャー並みの破壊力を誇り、仲間内からは一目置かれるほどであった。
相棒のダンサーがよく口にする言葉がある。
訓練生が学ぶほぼ全てのメニューを終えたこの日も、ダンサーはいつもの言葉をサンタに言い放つ。
「あたしが最強のドリーム・クラッシャーになって、この世界の狡猾な悪党どもを根絶やしにしてやるのさ。だからサンタ、私の足を引っ張るんじゃあないよ!」
自分の強さに絶対的な自信を持つダンサーの台詞に、サンタも言い返す。
「何を言ってやがる! 確かにお前は女にしてはスゲエけどさ、最強ってのは違うな! 何故なら、最強になるのはこのサンタ様なんだからなあ! ワーッハッハッハ、ワーッハッハッハーー!!」
「バカヤロー! その笑い方はやめろよ! それはあたしが大嫌いなクソ悪党どもの典型的なゲスな笑い方そのものだろうがー!」
「そんなに怒んなよ! ちょっと揶揄っただけだっつーの!」
「てめえー、サンターー! おちょくってんのかー!!」
ダンサーはニヤケ顔のサンタの尻を蹴り上げた。
と、そこへひとりの男が横槍を入れてくる。
「おい、お前ら! お取込み中のようだが、ちょっといいかー!」
男は爽やかな面構えで続ける。
「相変わらずお前らは大口ばかり叩いているようだな〜。まあ、そういう軽率な発言をする単細胞ぶりが似たもの同士といったところかな。しかし、だからこそお前らは見事なコンビネーションを生むんだろうなあ。それもまた善しということかな」
頼みもしないのに、見事な解説っぷりを聞かせる彼の名は、ダッシャー・ライノット。サンタ達と同じレッドチームに所属し、しかもレッドチームのリーダーである。
ダッシャーに気がついたサンタが声を掛けた。
「おっ、どこの嫌味野郎かと思ったら、ダッシャーじゃあねえかよ」
「てめえ、ダッシャー! 誰が単細胞だよ!! 貴様如きに大口だの単細胞だの言われる筋合いはねえぞ!」
ダンサーが突っかかるが、ダッシャーは変わらず穏やかに対峙している。
「まあ、そんなにムキになるなよ。実は、お前らに超大事なことを伝えに来てやったんだぜ」
「おー、そうなのか? そいつあご苦労なことだな。で? 大事なことって何だよ?」
サンタが口を挟んだ。
「ついさっき、俺たちの昇進試験の詳細が決まったんだよ! どうだ、早く聞きたいだろ!」
「ホントかよ! 今回の試験ってばさあ、どんなスタイルでやるんだよ!?」
「確か、前回はチームトーナメント形式だったって聞いたけどなあ、今回もそうなるのか?」
つい先程まで罵声の飛ばし合いをしていた二人は、ダッシャーの話にグイグイ食いついた。
昇進試験ーーーー
それは、サンタ達訓練生にとって正式なドリーム・クラッシャー隊員、つまり“夢幻戦士”になるためにどうしても越えなければならないハードルだからである。
そして、訓練生の誰もがこの昇進試験のために日々の苦しい鍛練を重ねてきたから。
「そう、がっつくなよ! ・・・今回の試験は過去の試験と比べるとかなり難易度が上がるらしいぜ」
「どう上がるっつうんだよ」
「驚くなよ! それが、今回の試験は完全な実戦形式になるって話なんだ。非望因子の夢にダイブするらしい。つまり、試験なんて生易しいもんじゃあなく、本物の戦闘を行うってことなんだよ」
「マジかよ!! それって、ナイトメアメーカーをタコ殴りにしてこいってことじゃねえかあ! ワクワクすんぜーー!」
「流石に随分と強気な発言だな、サンタ。実はだな、今回はDC指令本部(※2)から発信される通常ミッションがこの試験にも与えられて、そのミッションをしっかりクリアさせることが合格条件ってことになるらしいぜ」
※2:ドリームクラッシャー指令本部
ダッシャーの話を聞いてサンタとダンサーは腕組みをしながら思案顔になる。
しばらくして二人は何か閃いたかのように拳を突き上げた。
「望むところじゃあねえかよ!!!」二人はほぼ同時にハモるように叫んだ。
叫びを聞いたダッシャーは一瞬目が点になるが、気を取り直して言う。
「簡単に言ってくれるぜ。お前らってホント楽しい奴らだよ………それか、ただのバカなのかもな」
「うるせえ! それより、今回のチーム編成がどーなるのか知ってるのかよ?」
サンタが疑問をぶつける。
「今回は|四人一組≪フォーマンセル≫になるようだ。俺たちレッドチームも3チームに別れて試験に臨むことになる」
「ほーう! じゃあ、メンバー次第で合否が決まっちまうかもしれねえってことだな。他のメンバーが気になるな」
「サンタ、お前は弱っちいから他のメンバーの後ろに隠れていやがれ! 私は一人でも全く問題ないからなあ。力の差ってものを見せてやるよ」
ダンサーが茶々を入れた。
「なんだとーっ! 俺だってなー、一騎当千の猛者と言われる男だぜ! 他の奴らなんか関係ねえっつうの!」
「お前如きが一騎当千だあ?? ふざけんなよ!」
二人のレベルの低い会話に呆れたダッシャーが間に入る。
「お前らよ〜、俺の話をちゃんと聞いているのかよ。この試験はそんなに甘くないんだぞ! ただでさえ実践経験に乏しいってのに、それに加えて高難度のミッションだぞ。もしナイトメアメーカーが上位種だったら俺たちはそれをクラッシュするどころか、下手をすれば俺たちの存在そのものが消滅ってことにもなるんだぜ!」
流石にダッシャーからの正論を聞かされた二人は、先ほどまでの威勢が消え失せ、黙りこくってしまう。
しかし、しばらく沈黙した後、サンタがダッシャーを見遣りながら口を開いた。
「チェッ! まあ、お前は優等生だから俺なんかとは思考が違うんだよなあ。ところで、その四人一組って話だけどメンバーの割り振りはもう決まってるのか?」
「それなんだよ! 俺がお前らのところにわざわざ出向いてきた理由はな!」
ダッシャーが『待ってました!』と言わんばかりのドヤ顔で言う。
そして勿体つけて、次の言葉を口にしようとしたその時!
「ってことは、まさかあーー! お前らとあたしらが同じチームってことなのかよ!」
口は悪いが勘は鋭いダンサーが答えた。
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