第6話 お前ら、俺の話を聞けぇい!
サンタの相棒である女剣士ダンサー・ゼロは、訓練生とは思えない見事な剣技に加えて負けん気が強く、しかも勘が鋭かった。
でも口が悪い。
そんなダンサーに一番言いたかった台詞を奪われたダッシャー・ライノットが早口でクレームをつける。
「おいおいダンサー、何でそれを先に言っちゃうわけえ!? それ、俺が言おうとしてたネタだぞー! お前らが聞いてビックリなマヌケ顔を見るのを楽しみにしてたんだぞお!」
ダンサーにおいしいところを持っていかれた年上のチームリーダーであるダッシャーが小学生のようなことを口走ってしまう。
こう見えても優等生なのだが、どこかピンボケしていて憎めない奴である。
「ああん! そんなもん、あれだよ、お前みたいな奴がわざわざ、ここへ来るってことは話の流れからしても、オチがそんな話になるってことはバカでもわかるってもんだろう」
「参ったな、おい! しっかし随分と察しが良いな。お前らと組むチームが俺たちってニュースは結構な激震力があると思ったんだがなー」
ダンサーの横から妙に瞳を輝かしたサンタが躍り出ると、徐にダッシャーの両肩を掴む。
「それって本当なのかよー! マジですかああ! なんか凄えやべえチームになるんじゃあねえのお、俺たちってばさあ」
意外にもサンタはこのニュースにガッツリと乗っかってきたので、ダッシャーの目の色に輝きが戻る。
「おおお―! やっぱりサンタ、お前はそういうリアクションをしてくれる奴だと思っていたんだぜー。そうだよなあ、驚いたよなあ! ナイスなニュースをいち早く届けてやったこのダッシャー様に感謝するよなー」
「いやいや、お前になんか1ミリも感謝しないけどさあ、チーム編成がわかったのは嬉しいんだよなあ」
「おいおい、感謝しないとか言うなよ。ここは嘘でもナイスなネタをありがとう! とかなんとか言うところだぞ、お前、空気読めよな」
再び気落ちして残念そうな顔のダッシャーに、何故か若干のドヤ顔でサンタが続ける。
「だけどさ……ってことはだよ、あともう一人のメンバーはキューピッドってことだよな」
「もちろんだよ! キューピッドは俺の相棒なんだから当然だろう。お前ら、俺たちと同じチームでラッキーだぜ……と言いたいところだがな......実は今回ばかりは俺たち受験者全員が不運なのかもしれないぜ!」
「「はあ? それって、どういう意味だよ」」サンタとダンサーが同時に反応。
「それなんだがな……さっき試験スタイルが実戦形式だって話はしただろう。何故そうなったのか不思議だったんで伝手を使って調べたんだよ」
「実戦って言うけど、どうせこれから先は、全てが実戦になるんだからなあ。怖がってどうすんだよ」
「まあ、聞けよ! それはサンタの言う通りなんだがな、最近噂されてる非望因子の急増問題ってやつのせいで、ドリーム・クラッシャー部隊が深刻な戦士不足なんだとよ」
「なんだそりゃあ? そんなに不足してるんだったら、さっさと俺たちを正式に部隊に編入すりゃあいいのに。そう思うよなあ、ダンサー、お前だってこんなつまんねえ試験とかどうでもいいから、さっさと幻魔どもを月の向こう側までぶっ飛ばしに行きたいだろう」
「サンタ! お前はバカだなあ。物事はそんな簡単にはいかねえんだよ! お前は単細胞だし、他人の忠告とかも聞かずに猪突猛進して、さっさとおっ死ぬのがオチだからいいけどよ、他の奴等はお前とは違うんだからな。まあ、あたしは強えから、今すぐにでもそこそこのランクのミッションくらいはこなせるがな!」
「ダンサー! 俺はそんなにバカじゃあねえぞー!」
「おーーい! ちょっと待てよ。お前らは、マジで俺の話を聞く気があるのかよ」
ダッシャーが内輪揉めする二人を宥める。
「なんだよダッシャー、まだ続きがあるなら、さっさと話せよ! お前が間髪入れずに話そうとしないから俺がバカ呼ばわりされてんだぞお」
サンタが涙目で訴える。
「どうして俺が悪いみたいなことになってんだよ……まあいいや、続けるからお前ら黙って聞けよ。でな、今期の優秀な訓練生の場合は、実戦は実戦でもかなりのハイレベルミッションになるって話なんだぜ」
「だから、そんなもんは望むところだろうが!」
「サンタは黙ってろよ! で、そのレベルってどのくらいなんだよ」
「それがよお、成績優秀者への試験はCランクのクラッシャーが与えられるミッションと同等のレベルだって話だぜ」
「――――!!!!!」
サンタとダンサーは一瞬驚愕したかのように見えた………が、全くそうではなかった。むしろ、サンタが嬉しそうに口を開いた。
「こっちは最下級の見習いだってのに、試験がCランクレベルのミッションかよ!……上等じゃあねえか! こうなりゃあAランクだって受けてやるぜー!! っつうか、むしろアレだ、Aランクのミッションが俺の標準だってことを分からせてやるぜ!」
「おう、サンタ! お前にしちゃあ、なかなか良いこと言うじゃあねえか! だけどお前はバカだからな、大事なところでチビったりして、あたしの足を引っ張るなよ!!」
ニヤッと笑ってダンサーがサンタの心意気を茶化す。
そのやり取りを見ていたダッシャーは、先程よりも少し表情が和らいでいるが、後頭部を摩りながら二人を呆れたように見つめる。
「いやいや、お前らさー、ホント、本物のバカだな! 俺はなあ、訓練生の中でも
ダンサーが突っかかる。
「……んだとおーーー!! ダッシャー、てめえはあたし達が落ちこぼれだとでも言いてえのかよ! 大体、戦闘訓練であたしらのチームに叶う奴らはそうはいねえんだぞっ!」
「戦闘訓練だーーけ、だろ!! それ以外はどっちかというと問題児扱いだろう。お前らも自分でわかってるはずだぜ、自分の胸に手を当てて、よ〜く聞いてみろよ」
「んなことは、どうでもいいんだよ! とにかくよ、一番強い俺たちが優秀じゃあねえとか言うならよ、誰が優秀な奴らなんだよ! 言ってみろよ、ダッシャー」
サンタも我慢ならないといった表情で問う。
「んじゃあ、俺が教えてやるよ。サンタ、お前はマジで馬鹿だから、よーーく覚えておけよ! 成績が優秀なのはなあ、腕力だけでなく知力や技能、そして権謀術数でもトップクラスの俺とキューピッドなんだよ!!」
ダッシャーは前髪を左手でなびかせながら、どうだあと言わんばかりのドヤ顔だ。
「…………………………………………」
「どうだ、ぐうの音もでないだろうが! お前らもこれでやーーっと、わかったようだな」
相変わらず、ドヤ顔で偉そうに腕組みをするダッシャーを白い目で見ながら、サンタとダンサーの二人は顔を突き合わせて話合う。
「おい、ダンサー、あいつさあ、ついに頭の方まで逝っちゃったんじゃあねえか??」
「ああ、残念だが、そうだろうな。あいつはいつも顔がニヤけてやがったけど、少しは骨のある良い奴だと思ったんだけどよー、残念だぜ」
「成績優秀なのは、俺だあ……って、なんか悪い物でも食べたのかな? まあ、キューピッドが優秀なのは知ってるけどよ、ダッシャーはないよなあ。あいつ、自分を自分で美化しはじめたら、もうおしまいだっての」
「確かにな。あれはもう手遅れだぜ、末期症状が顔にも出てるしな。あ〜あ、サンタ見てみろよ、ダッシャーのあのアホヅラをさあ、もう可哀想になっちまうよなあ」
二人は揃ってダッシャーを哀れみの瞳で見つめた。
「おい、コラーーー! なんで俺のことをそこまでバカにするんだよ! わかったよ! まあ、確かにお前らも戦闘能力に関してはかなりのレベルだからな。実は俺もその成績優秀者ってのにお前らが含まれてると思ってるんだよ」
二人の陰湿な連携攻撃によって、ダッシャーが折れる。
「俺達が凄えってことは、うちのチームリーダーのお前が一番わかってるはずだぜ」
「あんま認めたくはないけどよ、お前らはホントそっちの能力だけは凄えってのは認めるよ」
「じゃあよ! やっぱ試験のミッションってのはさあ、Cランクレベルの実戦になるんだよな」
ダンサーが嬉しそうにダッシャーの顔を見る。
「そこは嬉しそうに話すところじゃあねえだろう………全く、お前らはホント、本物のバカだな! まあ、予想通り…ってところだがな」
「あったり前だろ! どんな実戦でも勝つしかねえんだよ、俺は“韋駄天のサンタ”だぜ!!」サンタは力強くシャウトする。
「お前は人の耳元でうるせえんだよ! ボケがっ!!」
すぐにダンサーに小突かれた。
その小突いた右手拳をそのまま返して、ダッシャーに向ける。
「あとダッシャー、てめえ! あたしはバカじゃあねえぞ!! よーーーく覚えておけよ! 次にバカ呼ばわりしたら冥界の彼方までぶっ飛ばしてやるからな」
「ダンサー、怖い事は言いっこなしだぜーー。 お兄さんはこう見えて小心者だからさあ......あとさ、君のように美しいビジュアルを持った女性には、さっきの台詞は似合わないぜ」
「なあんだダッシャー、お前よーーーーっく! わかってんじゃあねえかよ。あたしの場合は強いだけじゃあなく、この世界屈指の美貌も武器だからなあ。美しく、そして超絶に強く。それこそが我が真の姿なのさ」
ダッシャーの言葉を真にうけて浮かれ調子になるダンサー。それをサンタが正気に戻そうと罵声を浴びせる。
「おいおい、お前は本当に、本物のバカ女なのかあ? ダッシャーの下手くそなおべっかにホイホイ乗っかっちゃってよー。そんなもん嘘に決まってんだろ!! そんなこともわかんねえのかよ、ったく、しょうがねえなあ」
サンタの罵声を浴びまくったダンサーは、怒りで覇気が全開になる。
「なんだとぉぉぉぉおおーう! てめえ、サンター!! 喧嘩売ってんのかよー!!」
少し前までの軽いどつきあいから、本気度MAXに近いダンサーの覇気に反応してサンタの覇気までが、天を突き上げるかのように上昇して行く。
「なにキレてんだよー!! 本当のことを言ったからって、勝手にキレてんじゃあねえぞ!!」
まさに一触即発、お互いがすぐにでもマッハで飛びかかりそうな状況。
そんな二人の間に入ったダッシャーが鬼のような形相になって、二人の間に割って入った。
「いい加減にしろよー! お前らああーー!! 俺の話をきけえーーーー!!」
日頃は温厚な表情を崩さないダッシャーが、毛むくじゃらな有名写真家ではない方の
その形相を見た二人は目が点になる。
「こいつ、こんな鬼みたいな顔になったりするのかよ……ちょっとひいちゃうよな……」
「おう、いつものニヤケ顔よりもドイヒーだよなあ……可哀想によお」
「だから、悪口はいいから、俺の話を最後まで聞いてくれって……」
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