芳醇なる幻想世界

生贄として選ばれた、蛇に好かれ守られる少女。
蛇として生まれ、神の似姿として崇められる長兄と、その運命を憂う弟妹。

本作は過酷な運命の只中で生きる彼ら彼女がが織りなす物語であると同時に、彼ら彼女らが生きる世界そのもの、彼らを取り巻く運命を形作る世界の在り方を描き出そうとしているように感ぜられます。
そのおはなしを眺めるのは、たとえるなら何となしに電車を降りた先の、知らない駅で見渡す景色のようなもの。
肌に馴染んだ世界で繰り広げられる絢爛豪華な活劇に興ずるのとは趣を異にする、見知らぬ世界を手探りしながら地図の色を塗り分け歩んでゆくような、そうした楽しみ。それが、このおはなしの妙であると感じます。

『異世界』ファンタジーだからこその妙、そのひとつ。
時にはいつもと趣向を変えて、芳醇なる幻想世界に浸ってみるのはいかがでしょうか。

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