第1話 幸せの青い鳥?【3/3】

◇戦闘精霊チルチル


 3,899回目の異世界転移をすると、チルチルとミチルは闇の世界の河原に立っていた。


 頭上を暗雲が覆い、光はささず、目の前にはどす黒い川が流れている。


 チルチルは、腰に手をあて

「これは三途さんずの川だな」


 ミチルもうなずいて

「ああ、対岸は以前に行った賽の河原だ。あのときのチルチルは鬼を皆殺しにする勢いだったぞ」


「親やより早く死んだ子供が一生懸命に積んでいる石を壊しやがるので、腹がたってな。六地蔵の奴らが助けに来てたが、鬼を殺さないと根本的な解決にならないだろうが! 」

 タメ口に、血走った目で話すチルチル。


 今のチルチルは片目に海賊のような眼帯をつけ、乱れる金髪、背中に大剣を背負い、両腰には関の孫六の出刃包丁を抜き身で太い皮の帯に挿している。

 さらに、へそ出し、短パンに足出しの露出の多い精悍な剣姫姿で、しとやかな妖精の面影は全くない。


 ミチルも、体中に傷があり、黄金の盾と片手斧トマホーク、さらに回復薬のポーションを詰めた大きな瓢箪ひょうたんの水筒を腰に下げ。背後に召喚獣のグリフォンを従えている。召喚獣が攻撃を受けてもミチルにダメージは返ってこないので、強力な魔獣を操る召喚術師ともなっていた。


 ふたりとも、数々の死線と修羅場をくぐり抜けた近寄り難い殺気をみなぎらせ、無双なる猛者の風格だ。


 そこで、ふとミチルが周囲を見わたすと、岩陰に見覚えのある扉が浮かんでいる。

「これは、もしかして」


 扉を開けて入ると、まず目に入る大きなのっぽの古時計……



 ミチルが店に入ると、骨董品を手入れしていたラルクが気がついて

「ひょとして、ミチルさんですか」

 様子の違うミチルと、後ろの戦闘狂のようなチルチルを見て

「どうしたのです、その姿に、お連れの方は。それに、ここは死者のくる彼岸ひがんですよ」

 

「そうみたいだな、帽子のダイヤルの番号を聞いていないので、これまで異世界を彷徨っていたのだ。後ろにいるのは光の精チルチルだ」


「光の精………」納得いかないラルクだが、とりあえず

「そうでしたか。それは大変でしたね」

 

 するとミチルの後ろから

「この、ぼんくらが説明書を読んでないために大変な思いをしたのだ」

 チルチルが睨むように言うとミチルも


「ふん! このクソ精霊が、俺に『身代わり』なんてスキルを与えやがって、いつも満身創痍だ」


「クソ精霊とはなんだ! 元は気の弱い、ヘタレ野郎にちょうどいいスキルだろうが。それより、私がいないと戦えないイモが」

「イモとはなんだ。いつもダメージ無視の突撃をしやがり、傷を負う俺の身にもなってみろ」

 さらに二人の罵り合いは続く


「そのあとヒールしてやっているだろ。その時私の胸元をチラ見してるくせに、この変態すけべ」

 ミチルは赤くなり

「なっ……何を、貧乳のくせに」


「実物を見たことないのに何を言いやがる! 十年も美女を前にしてるのに、まともに手もにぎらない童貞が! 」


 言い争の終わらない二人に弥生姫がきて

「まあまあ、こうして戻ってこられたのだし。この骨董店で、もとの世界に戻ることができますよ」

 ミチルは弥生姫の方に向いて

「ほんとうか!」


 弥生姫はうなずいて、玄関の上のダイヤルを【現世の日本】に合わせると、扉の外が明るくなる。


 外を見るとミチルが来た路地裏だった

「おお、確かに現世だ。しかし、俺たちは、すでに十年以上彷徨っていたから、街も変わっただろう」


 するとラルクは意外な表情で

「ええ、ミチルさんが帰ったのは、さっきのことですよ」


「………」

 ミチルはまじか、といった表情だ。


「まあ、家に帰って確かめればよいでしょう。十年経ったと言いますが、見た目は高校生のままですから。でもその姿では、帰れないですね」

 そう言って、ラルクは古着の中からミチルの高校の制服を貸してやった。


 着替えたミチルは、すっかりもとの高校生の姿に戻り、チルチルに向かい。


「チルチルはどうする。自分の世界にもどるか」

「どうするって。あんなおとぎ話の場所に帰ってもつまらん。それより、滅殺の人間要塞と言われるミチルが、現世のぬるい世界で耐えられるのか」


「そうかもな。だが、とりあえずは一度帰ってみる」

 帰る、と言うミチルに、チルチルは不機嫌な様子で


「帰るのか……青い鳥はどうする」

「青い鳥、そんなのどうでもいい。幸せが欲しければ、邪魔する奴は叩きのめし、自力で奪い取るものだ」


 過激な意見に、聞いていたラルクは息を飲んだ。

「なんか、へんに悟ったようですね。ちょっと、物語と違うような」


「男子3日合わずば刮目してみよ」

 弥生姫が横から言うとミチルに

「もう、青い鳥セットは不要ですね。お試し期間なので返却されてもいいですよ」 


 すると、あの強気なチルチルが寂しそうな表情でうつむいている。

 それを見たミチルは


「いや、もらっておく。青い鳥を探さない、とは言ってない。鳥など、どうでもいいが、途中で投げ出すのは俺の矜持が許さない。チルチルいいな」


 チルチルはハッと顔をあげ

「しゃーねーな。そこまで言うなら、付き合ってやるか」

 嬉しそうに笑顔になるチルチルを見たミチルは、弥生姫に向かい


「代金はリボ払いでいいのだな。とりあえず、今持っている物を渡すから、その後は、チルチルと異世界に行って稼いでくる。それでいいか」

「ええ、いいですよ」

 弥生姫は満面の笑顔で了承した。


 ミチルは、戦利品だと言って机に置いた物は

「こいつは、魔王ハデスから奪った大剣と賢者の石」

 ラルクは目を輝かせ

「すごいです。ハデスを倒したのですか! 」

「結構手こずったがな」


 戦利品に夢中なラルクとミチルの横で、弥生姫は

「そうだ、チルチルさんがここで生活するため、ミチルさんの高校への転校の手続きと、下宿も用意しましょう。一応、私が身元引受人とさせていただきます」


 チルチルが嬉しそうに微笑むと、弥生姫はチルチルに制服を渡して、髪を整え、着替えてくると


「さすが光の精、輝いてます、めちゃくちゃ可愛いです! 渋谷や秋葉原に行けば、速攻アイドルにスカウトされますよ! 」

 ラルクが目を輝かせ興奮して言うと、チルチルは恥ずかしそうに


「なんだ、このチャラいのは。出刃を挿せないぞ」と照れている 


 ミチルも、見違えるチルチルに見つめられ面映ゆい様子で

「いっ……いくぞ、チルチル」


「何を偉そうに。現世ではいじめられているのだろ、私が守ってやるぞー」

 ニタニタと笑いながら上目遣いですり寄るチルチルに、ミチルは真っ赤になりながら


「い……いらんわ、過去のことだ。それより、俺のクラスメイトに乱暴するなよ」

「ああ、可愛がってやるぜ」

 不敵に笑うチルチル。


 性格の豹変した二人に、ラルクはこの先どうなることか冷や汗をかいているが、弥生姫は


「これは、いいお得意さんになってもらえそうね。異世界の貴重な骨董品を持ってきてもらえそうだわ」

 と、思惑通りの展開にほくそ笑んだ。


※ 第一話 <了>

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