第1話 不幸せの青い鳥【2/3】

「身代わり……? 」


 ミチルが聞き返すと、チルチルは微笑んで

「味方が攻撃を受けたとき、身代わりになってダメージを受けるスキルのようです」


 ミチルは呆れながら

「そんなの自虐スキルじゃないか! 他にはないの」

「そっ……それだけです」

 すまなそうに言うチルチルに、ミチルは詰め寄り


「それだけって。剣や攻撃魔法はないの! 」

 詰問されるチルチルは泣きそうな表情で


「ありません……でも……その人に合ったスキルのはずです……」しどろもどろのチルチルは小声で

「もしかして、ミチルさんはボッチですか」


「うっ……」

 痛いところを臆面もなく言われ「まあ、そんなことは、ないこともないけど……」

 憮然としながら言うと、チルチルはあわてて


「ああ、ごめんなさい! そんなつもりではないです。このスキルで、すてきなお友達ができる、ということですよ。みんなの身代わりをすれば、喜ばれます」


(すてきなお友達ね……そりゃそうだ。学校の僕そのままじゃないか)と思うと、こみ上げてくるものがある

「そんなので、パーティー組んだら、みんなのダメージを一身に受けてボロボロになるじゃないか! 」

 怒ったように言うと


「そういえば……ごめんなさい」 

 チルチルがしょんぼりすると、ミチルは少し言い過ぎたと思い


「まあ、チルチルのせいではないようだし。とにかく、最少人数にするしかない。チルチルは外れないから、二人で戦うしかないか……」

 とりあえず納得した(?)ミチルに、チルチルはホッとして涙目になりながら


「わかりました。私は慈愛に満ちた光の精、私がミチルさんのために戦います。弱いですが、がんばります! 」

 両手に力を込めて言うが、正直たよりない。ミチルは、ため息をついたあと


「それじゃあ。まずは、試しに手近の初級ダンッジョンに行こう」

「はい! 」


 こうして、チルチルとミチルは家を出て、近くの洞窟ダンジョンに向うことにしたが、武器がないため台所から出刃包丁や、ホークとナイフを持って出発した。


◇初ダンジョン


「強盗か、恨みのある人の寝込みを襲いにいく感じですね」

「そう言うなよ、他に武器になるもの思いつかない」


 チルチルは新聞紙にくるんだ出刃包丁を抱えて森を歩いている。ミチルは、ホークとナイフを手に持って、バーベキューにいく感じだ。


 ダンジョンに入ると、出てくるのはスライムや魔ネズミ程度の、雑魚モンスターが襲ってくる。


「出刃包丁って意外と威力がありますね!」

 チルチルは相手の攻撃をもろともせず(ミチルが身代わりになっているのだが)、闇雲に突っ込んで、出刃包丁を適当に振り回すだけだが、当たると結構な威力でスライム程度なら一撃で消えていく。ミチルは、ホークとナイフでなんとか敵の攻撃を防いで、あわよくば迎撃している。


「すごいすごい! わたし、鈍臭どんくさいので、敵の攻撃を全然回避できませんが、ミチルさんが身代わりになってくれるので、大丈夫ですよ! 」 

 チルチルは攻撃を受けても痛くもかゆくもなく、おもしろいように敵を倒せるので、楽しそうにずいずいと進んでいく。


 一方、ミチルはチルチルの受ける攻撃で瀕死になるが、その都度チルチルがヒールして回復する。

「勘弁してよ、僕は痛いだけで、なにもできない」


「ごめんなさい。ミチルも戦いたいよね………でも、ミチルが前に出ると何もしない間に殺されるから」

「わかっているさ、敵を攻撃するには、僕が身代わりになるしかないってこと。そうでないと、お互い瞬殺される」

 チルチルは申し訳なさそうに下を向くが、一瞬、口もとが緩んでいた。


 しかし、いずれチルチルも力尽きてダンジョンの入り口に戻るが、経験値などが溜りレベルアップもするようだ。

 この先、チルチルは攻撃力特化型、ミチルは不本意ながら防御力と耐久力に全振りといったコンビになる。


 こうして、チルチルとミチルは、幾度も死んで入り口に戻されながら、最後の部屋にたどり着いた


「いよいよラスボスです! 」

 チルチルが前に立って、ワクワクしながら言う。


「そうだな、でもチルチル楽しそうだな」

「はい。相手を倒した時の爽快感、たまらないです。これまで怖くて、一度も戦ったことはないのですが、ミチルさんが身代わりになってくださるので、思いきって戦えて楽しいです! 」


「思い切ってというより、好き放題だろ」ミチルは、肩を落として。

「いくぞ」

 そう言って、扉を開けると


「青い鳥! 」


 しかし、ただの青い鳥ではない、体長五メートルはありそうだ。

「巨大青い鳥! デカー」


 光の精は

「いきますよー! ミチルさんのために頑張ります!」

 と言いながら、自分が楽しいだけのようだ。すぐにチルチルは突撃し、相手の攻撃をもろともせず、青い鳥に肉薄し翼でひっぱたかれる……


「ぎひゃーーー」

 ミチルが悲鳴をあげる。チルチルのダメージはすべてミチルに反映されているのだ。


「やめろー! これまでとは違う、桁違いに強烈だ」

「わたしはノーダメです。もう少しです」


 チルチルは相手の攻撃をモロに受けながらも、ゴリ押しで青い鳥に肉薄し、腹に渾身の出刃の一撃を入れると、青い鳥はうめき声を上げて倒れた。


「やったー! 」

 チルチルが飛び上がって喜ぶ。


 討ち取って眼の前に横たわり、動かない青い鳥。

 後ろでミチルも横たわって、動かない。

 

 すぐにチルチルはミチルの頭に手をあててヒール魔法をかけ、復活する。


 頭がクラクラしながらもミチルは

「やったじゃないか。でも、こんな大きな青い鳥、かごに入らないし、とても幸せの青い鳥とは思えない、不幸の巨大鳥だよ」

「そうですね。これは、あなたが追っている青い鳥ではないようです」


 見ると死んだ青い鳥は、しばらくすると黒くなった。

 ミチルが落胆していると


「でも、きっと青い鳥はいます。いっしょに探しましょう」

 励ますチルチルは、それよりもバトルをしたいようだ。


「そうだな。でも、疲れたし、とりあえず一度自分の世界に帰るよ、母さんも心配しているだろう。そういえばチルチル、どうすれば帰れるんだ」


「ダイヤルの番号をあわせれば」

「番号って? 」

「説明書に書いてある最初の世界の番号に合わせるのです」


 見ると、帽子のダイヤルに小さく番号がうってある。

 ただし、説明書は部屋に置いたままだ。


「ええー! 説明書読んでないし。適当に回しただけだよ」

「ほんとですか! 最初は私に会うために、どこを回してもここに来るのですが、そのあとは番号をあわせた場所の異世界に行くのです」

「そうなのか……」

 ミチルが絶句し、チルチルも蒼白な表情で少し考えると


「こうなったら、1から順番にまわして、もとの場所に戻るまでトライアルするしかありません………」


 気の遠くなる話だが、他に方法はない。

 ミチルがガックリしていると


「大丈夫です、私も頑張ります」

 チルチルはバトルができるためか、嬉しそうだ


 こうして、チルチルとミチルは数々の異世界を放浪し、その間にレベルは限界を突破した。


そして、3,899回目の世界で……


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