第3話 龍神の笛(1/2) 

 今回は、拙作の『ひもろぎの骨董市』のメインキャラ(猫娘)を登場させています。似たような題ですが違う世界感なので、そちらも覗いていただければ幸いです。

 ちょっとステマ(^_^;)。


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 ラルクがアンヌ王女の世界に行っている頃、弥生姫が店番を探していることを聴いたアマテラスは、『ひもろぎの骨董市』の猫娘を手伝いに派遣した。 


 ひもろぎの骨董市とは、天界のアマテラスが主催する骨董市で、無くなったもの、捨てたものなど、今は存在しない品物を出品している骨董市で、やよい姫の異世界骨董店と趣向は違うが、ある意味商売敵ともいえる。


 あきらかに下心ありありで、弥生姫に恩を売り、最近出店した異世界骨董店の敵情視察、さらに異世界や並行世界の情報を収集して、営業不振のひもろぎ系列の立て直しを目論んでのことだが、用心深い弥生姫もあっさり受け入れた。


 それは、前から目をつけていた猫娘を、ヘッドハンティングしようと企んでのことだった。

 そんな、双方の混沌とした思惑を知らない小柄な猫娘は、せわしなく真面目に仕事に励んでいる。


「ところで弥生姫さま、アマテラス様からこの店で売ってもらえないかと、品物をいくつか持って来ました。値段は弥生姫様が好きに決めてくれればいいと」

 猫娘はミカン箱ほどの箱を持ってきた。


「どうせ、異世界での需要があるかを探るためでしょ」

「そっ……それは、知りませんニャ……」

 図星のようで、目をそらして口ごもる猫娘に、弥生姫は少し怪訝な表情で


「でも最近のアマテラス、今は味わえない亡き人や幻の料理が味わえる『ひもろぎ食堂』。往年の名俳優や演奏家、名選手も出てくるコンサートや、競技会を主催する『ひもろぎ興行』。思い出の過去や異世界に連れて行ってくれる『ひもろぎタクシー』、『ひもろぎ旅行』とか、手広く事業を展開しているけど大丈夫なの。そんなに商売の才能はないと思うのだけど」

 それには猫娘も同感なようで頷いた。


 弥生姫は面倒くさそうに箱の中を見ると、雑貨、おもちゃ、子供の楽器などが詰め込まれていた。

「なにこれ! ガラクタじゃない、こんなの置けないわ。私の店にはそれなりに、由緒ある物ばかり。どこのだれが使ったかわからない中古品は、だーめ! 」

 箱を投げ出さんばかりに、そっぽを向いて


「それより休憩にしましょう。甘いラスクがあるわよ」

 猫娘も最初から無理な話だと思っていたので

「まあ、確かにそうですね」


 あっさり引き下がり、箱はさっさと奥に置いて、砂糖たっぷりのラスクに引き寄せられた。


 二人はテーブルに座ると。薫り高いコーヒーと甘いラスクを食べながら

「花柄のスエットにフレアスカート、カジュアルな猫娘ちゃんも可愛いわね」


 猫娘も女の子、うれしそうに照れ笑いする。

 こうして、お菓子を出し、服を褒めて、なんとか気を引こうとする弥生姫だった。  


 一方、猫娘は気になることがあり

「ところで弥生姫は、どこかのお姫様なのですか」

「うーん、本当は姫と言うわけではないのだけど……まあ、神に近いかな」


「へえー。何の神様ですか」

 それには、含みのある微笑みで

「うふふ、それはこの物語の最後に話しましょう」


 もったいぶって話そうとしない弥生姫に、猫娘は不満なようで、横を向いて

「そして、その真実は! と言って、コマーシャルになるTV番組の常套手段。へっぽこ作者が、つまらない話をなんとか最後まで読んでもらおうという姑息な伏線。そんな場合、たいてい、たいした話じゃないニャ」


 つぶやきが聞こえていた弥生姫は、図星のようで青ざめた。

 そのとき、店の扉の鈴がなり、お客様のご来店!



 ◇エルフの兄妹


 さて、今日の最初の客は……


 来店したのは、エスキモーが着るような分厚いコートを着た少年と少女。なぜか、

 雪にまみれ、よく見ると耳が尖っている


(やはり来たか、エルフ)

 異世界といえばエルフ………へっぽこ作者の知識と、想像力はこの程度かと、猫娘はため息をついた。


 ただ、様子が変だ。ふたりとも、ふらふらで店に入ったとたん倒れ込んだ。

「どうしたんだニャ! 」


 猫娘が駆け寄ると、子供のエルフは凍えているようで体が冷たい。すぐに、弥生姫が奥のソファーに毛布を敷いて、服を着替えさせて寝かせた。


「どうして凍えているのニャ。店の外は異世界で、冒険者や獣人がうろついている、西欧の中世のような石畳にレンガ作りの街………のはず」


 そう思って、玄関の上に、この店の場所が示されている、丸いダーツの的のような表示盤を見ると。


 そこには【異世界】【人間界】【高天ケ原】【弥生の部屋】と書かれ、表示版の真ん中に矢印の針があり、横の紐を引っ張ると針が回る仕組みで、今は【異世界】を指している(これも、どこかで見たシチュエーション)


 猫娘が来た時の表示版は高天ケ原になっていて、そのあと弥生姫は異世界に矢印を変更した。ただ、そのあと猫娘は外に出ていない。


 猫娘は嫌な予感がして、エルフの兄妹が入ってきた骨董店の玄関の扉を開けると


「ええーーーー! 」

 外は吹雪の冬山の山頂、周りに町や人はおろか、道もない


「弥生姫は何を考えているニャ! こんなところ、お客が来るわけない」

 振り返ると、弥生姫は


「大丈夫よ、この骨董店は動くから」


「動くって……弥生姫の動く骨董店、とでも言うのですかニャ」

「そのとおり、今は山越えの最中みたい」


 釈然としない猫娘は、なんとも言えなかった。

 しばらくして、エルフの兄妹が目を覚ますと、弥生姫は暖かいスープを飲ませて、少し元気の出てきたエルフの兄妹に


「こんな吹雪のなか。道に迷ったの」


 すると、エルフの兄の方が首を横に振り

「雪山の奥に、幻の骨董店があると聞いて、来たのです」

「この店を目指していたの」

 エルフの兄がうなずくと


「僕たちの村の水源の守り神の水竜が洞窟の奥に隠れて姿を見せなくなり、そこから流れる地下水が枯れたのです。普段は竜を呼び覚ます曲を笛で奏でると、再び地下水が湧くのですが、村にある古くからある笛を、妹が壊してしまったので……」


「妹エルフちゃんは、その曲の奏者なの」

 猫娘が聞くと、兄エルフはうなずいて


「妹は小さな頃から笛が上手くて、村の竜神を操る笛の奏者になったのです。笛も、とても大事にしていたのですが、音が出なくなったのです」


 そこで、責任を感じた妹に、兄が一緒に決死の覚悟で、魔法の笛があるという、冬山の山頂にある骨董店に来た、ということらしい。


「そうですか、優しいお兄さんだニャ。でも、大変だったでしょう」

 猫娘が同情するように言って、弥生姫に振り向くと。目があった弥生姫は


「……それは、お気の毒に」と、他人事のようだ。

 そんな冷たい態度に猫娘は


「弥生姫。この兄妹は決死の思いで、ここに来たのニャ。何か霊力のある笛はありませんか」

 弥生姫は面倒くさそうに


「まあ、猫娘ちゃんがそう言うなら。あることはあるけど……」

 弥生姫は、奥の古い家具の引き出しを開けて、いくつか笛もってきた


「魔の力を宿す笛といえば、このファーメルンの笛、でもこれは子供にしか効かないし、魔笛のマルシュアスの笛もあるわよ。 


 それと、日本製では……」さらに別の棚から

「これは、青葉の笛と言って、源平の戦いでの若き武将で、笛の名手の平(たいらの)敦(あつ)盛(もり)の笛。それと……これは京の五条の橋の上で、弁慶と対峙した、女装の牛若丸が吹いていた笛よ」


 次々と出てくる、超超レアなアイテムに、猫娘は唖然とし、エルフの兄も目を輝かせ、妹エルフは身震いしている。


「なんで、こんなすごい品物を持っているニャ。アマテラスの高天ヶ原の蔵にも、これほどのものは、そうそうない。これなら、絶対竜神様も目を覚ましますニャ! 」


「言ったでしょ、私の店の品は、由緒ある物ばかりなの」

 少し得意気な弥生姫。


 エルフの兄は、ここまで来たかいがあったという笑顔で

「売ってもらえるのですか」

「もちろんよ! 」


 買う、と言われると、弥生姫もさすがに営業スマイルになる。

「幾らになりますか。村から集めた銀貨五十枚と金貨二枚あります」


 兄エルフは、持ってきた村人が出し合った硬貨を見せた。金貨一枚でもエルフ一年分の給金に相当する。


 しかし、弥生姫はエルフの兄妹が持ってきたお金を見ると、突然、表情が一変した。


 さきほどの、営業スマイルから急に兄妹を見下したような雰囲気になり。

「猫娘ちゃん、この品物。なつかしの骨董市なら幾らで売る」


「そりゃー、億はくだらないニャ」

「億ねえー、金貨なら千枚ってとこかしら……」

 それを聞いて、エルフは愕然とした。


 小さな城が買える値段だ。

 値段を聞いたエルフの兄は、真っ青な表情で震えて泣き出しそうだ。

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