第9話 試着室と裏話

 ヒビキはライトとカナデに何着かおしゃれな服を見繕い、試着室へといざなう。

 まず、カナデに試着をさせるライト。


「せんぱーい。カナデさんの服の紐をむやみにきつく縛っておいたので、少しおはないしましょー」

「それは、カナデがいない場で話がしたいという意味でいいのか?」

「それで構いませんよー。にしてもカナデさん美人ですよね。闇ふーぞくでもナンバーワンになれそうだー」

 ライトはその言葉に驚きを隠しきれない。


「闇……風俗……?」

「闇ふーぞくの意味が、子ちゃまの先輩には分かりませんかねー。闇ふーぞくっていうのは、違法でなんでもアリなえっちなお店でーす」

「いや意味はなんとなくわかってた。でもそんな危険な店に高校生ぐらいの歳のやつがいていいのか?」

「そこがミソじゃないですかー。ガチこーこーせいとエロいことできるのがロマンですよー」

 ライトは戦慄した。あの時自分が助けなかったら、今頃カナデは……。ということが頭によぎったからだ。


「しかもひどいんですよー? その店買取制があって、気に入った店の子金で買って奴隷にできちゃうんですよー?」

「は? ドレイ?」

「文字どーりです。気に入った子を永遠にテイクオフできるシステムです。家で根性焼きされたり、髪を剃られたり、ひどい時だと四肢もがれちゃったりするみたいですー?」

 ライトは一瞬、「それはテイクアウトだろ」とつっこもうと思った。しかしやめた。


「は? え?」

 いとも容易く行われるえげつない行為に、ライトは言葉を失った。しかも鳥嶋(父)を見ているライトはそれが事実だとしか受け取れなかった。


「しかも胸糞悪いのがー、カナデさんの借金は彼女のじゃなく両親の会社のものなんですよー」

「!? じゃあ両親は……」

「あ、違いますよー? あなたが考えるよりもっと酷いでーす。カナデさんのご両親は今、ドバイにいます」

「え? 殺されたとかじゃ……」

「違います。見事な高飛びです」

 ライトは足が震えていた。この世の深淵を覗き込んだような気がして。


「そして借金はまだ子供のカナデさんにー、というわけですねー」

「そんなのひどすぎるだろ……」

「でもこれが現実でーす。さて、本題。お父さんから伝言を預かってまーす。コホン、「カナデは本来10日で五割の利子がついてるから借金は2000万じゃ足りねえ。だが、お前の顔があまりにも冴えないから許してやる。カナデはちっちゃい時から愛されて育ってない。お前が精一杯愛してやれ」とのことでーす」

 ヒビキの口から出るあまりにもリアルな鳥嶋(父)ボイスにビビりつつ、話を理解したライト。


「そうか……そうなのか……」

「あと私からも一つアドバイスでーす。カナデさんは別れた時からずっとあなたのこと嫌いになったことないと思いますよー? あと、あなたもそれは同じですよねー?」

「……」

「黙っててもその冴えない顔は変わりませんよー? お父さんが言ってた通り、彼女を幸せにする義務があなたにはありまーす。だから、あなたは彼女を幸せにしてあげてくださーい。それに、やる気あるんですよねー?」

「わかった」

 ライトはそれだけ答えた。

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