第2話 メイドと冥土

 段ボールの中身はメイド服だった。

「やっぱりそういうことじゃない」

「違うわ! それを着てお前はこれから俺のメイドとして働くんだよ」

「ライト。童貞だからわからないかもしれないけど、メイドっていうのはそういう行為の対象じゃなくて、家政婦さんよ?」

 カナデはそう言いながらエプロンだけを身につける。


「いやちゃんと着ろよ!」

「童貞はこういうのが好きなんでしょ?」

 エプロンには弾けるような胸が浮き上がっていた。

 ライトは正直好きだった。


「……好きじゃねえし!」

「答えが濁ったわよ? ほら、ご主人様に忠実なメイド下僕の私の胸揉み放題よ?」

「お前も実はメイドのことそういう対象として見てるじゃねえか!」

「ほらほら、胸揉みなさいよ」

 ライトはどんどん近づいてくるカナデの胸部を、意を決して揉んだ。


「やめてください。私は胸も見放題って言ったのよ?」

「……いや、あの、すいませんでした」

「どーげーざ、どーげーざ」

 ライトは土下座させられてしまった。


「もういい! 早く服着ろ!」

「はぁ、仕方ないわね」

 カナデは黒いフリフリのメイド服を見に纏う。


「さて、サービス終わりよ。くそ童貞。早く金をよこしなさい」

「お前まじかよ……」

「あんたのことは嫌いよ。私本当は松永君のが好きなんだから」

 ライトはとてもムカついた。昔を思い出したからだ。


「お前は今日から俺のメイドだ。いうことは全部聞いてもらうし、俺を敬ってもらう。でなきゃ金は払わない」

 カナデの表情が曇る。


「……言いすぎたわ。謝る」

「まずは口調から直してもらおうかな。俺には敬語だ」

 ライトはめちゃくちゃニヤニヤしてた。もうニチャァって感じだった。


「はい、わかりました」

「次はそうだな……正座しろ」

 カナデには逆らうことができない。


「さて、質問しようか。まずなんで俺なんかに縋ったんだ?」

「……借金2000万あるからです。闇金です」

「親の借金そんなにあんのかよ……借金取りとか来る?」

「来ます。あと1ヶ月で私は怖い人の肉便器にされるところでした」

 ライトは思った。やべえ拾うやつミスった、と。

 そして後悔した。元カノへの2mm程度の温情で2000万の借金を事実上背負ってしまったことに。

 そして決意した。明日払おうと。


「だからあんなにサービス精神旺盛だったのかよ……。じゃあ次の質問、俺のメイドになってどんな気分だ?」

 ライトはこの質問を楽しみにしていた。

 なぜなら自分を手ひどく振った女が、自分の下僕になり、屈辱を感じていることを本人の口から聞きたかったからだ。


「本音と建前、どっちが聞きたいですか?」

「両方だな」

「建前では、屈辱的で今にも逃げ出したい、本音で言えば、自分が下に見ていた相手に絶対服従を強いられて興奮しています」

 ライトは改めて思った。拾うやつミスった、と。

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