完全無欠の美人生徒会長が、事あるごとに俺と二人きりになろうとしてくるんだが。

秋月月日

第1話 面倒見のいい生徒会長さん。


 完全無欠。


 柊木双葉という少女を言い表すのに、この言葉ほどお似合いなものはないだろう。


 全国模試では堂々の一位、体力測定においても全国一位。誰に対しても愛想が良く、休日にはボランティア活動もしている。


 教師からの信頼も厚く、生徒たちからも慕われている、まさに文句のつけどころのない存在だ。そりゃあ、学校の生徒会長だって任せられるというもの。


 内申点欲しさに生徒会入りした俺みたいな凡人にも笑顔を見せてくれるし、もうほんと、完璧以外の何物でもない。


「北斗くん。そこの問題だが、答えは12じゃなくて11だよ」

「え、そうなんすか? どっか計算間違えたかな……」

「ふふっ。実はだね、公式の使い方が違うんだよ」


 今もこうして、生徒会活動が始まるまでの放課後の短いスキマ時間に勉強を教えてくれている。もう受験生なのに、受験勉強よりも優先して、俺のために時間を作ってくれているのだ。優しすぎて好きになってしまうぜ。


「簡単な数列の問題だから、難しく考えなくていい。大丈夫、ちゃんと解けるようになるまで私が付きっきりで教えてあげるから」


 前世が女神か何かだったと思われる生徒会長の柔らかな笑みを見て、俺は思わずドキッとしてしまう。


 黒曜石のような瞳に、鴉の濡れ羽を彷彿とさせる長い髪。そういう風に整えてあるのか、前髪が左目を隠している。


 スラリとしたモデル体型で、胸の大きさもかなりのもの。今も長机の上にどたぷんと乗っているし、一度でいいから下から支えてあげたい。


 美しさと可愛さが奇跡的な割合で組み合わさった双葉先輩を前にして、照れずに済む男などただのひとりも存在しないだろう。それほどまでに、柊木双葉という女性は魅力にあふれている。


「ん? どうしたんだ、北斗くん。私の顔に何かついているか?」


 俺の視線に気づいたのか、可愛らしく首を傾げる双葉先輩。


 誤魔化しても意味がないので、俺は正直に伝えることにした。


「すいません。双葉先輩が可愛すぎて、つい見てしまいました」

「か、かわっ……! そ、そうか。私が可愛すぎたか……じ、自分ではそうは思わないが、き、君がそう言うなら、そうなのかもしれないな……(やったっ)」


 初めて褒められたわけでもなかろうに、双葉先輩の顔は真っ赤っか。完全無欠の生徒会長は、意外と自己評価が低いらしい。


 双葉先輩はコホンと咳払いすると、


「そ、そろそろ、生徒会活動の時間だ。勉強の続きは明日にしよう」

「すいません、いつもいつも俺なんかのために時間を割いてもらっちゃって。先輩はもう受験生なのに……邪魔しちゃってますよね」

「気にするな。私がやりたくてやっていることだ」


 どうしてそこでさらに優しい言葉までかけてくれるんだこの人は。生徒会長として尊敬しているのに、異性としても好きになってしまいそうだ。


「そ、そういえば」


 勉強道具を鞄にしまっていると、何故か声を上ずらせながら、双葉先輩が声をかけてきた。


「生徒会活動の後の話なんだが……君は、その、何か予定などはあるのだろうか?」

「予定っすか? いや、普通に家に帰ってゲームしようと思ってたぐらいなんで、暇と言えば暇ですけど……」

「っ! そ、そうか! 暇か! そうかそうか。えへへー」


 何がそんなに嬉しいのか、子どものような笑みを浮かべる双葉先輩。こういう子どもらしいところも彼女の魅力の一つだと思っているのだが、俺の前以外で彼女がこういう態度をとることはほとんどない。どうしてだろう、不思議だね。


 そんな実は可愛らしい双葉先輩はお腹のあたりで人差し指をちょんちょんと突き合わせながら、頬を仄かに赤くしつつ、こう言った。


「君さえよければ……私と一緒に、駅前の喫茶店に行ってくれないか?」






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