第2話 生徒会活動中でも、先輩は二人きりになろうとしてくる。
「それでは、今月の予算についてだが――」
ホワイトボードの前で書類を見ながら、双葉先輩は凛とした声を生徒会室に響かせる。ちなみに、俺は隣で彼女の声を堪能している。一番近い特等席。書記だからこその特権だ。
二人きりの勉強会は終わり、ついに生徒会活動の時間。
総勢10名ほどが在籍しているこの生徒会は、毎日放課後に会議が行われている。
会議の内容は日によって違うが、今日は部活動の予算についてだった。
「大会で実績を出している部活の予算を増やすというのはどうでしょう」
「大切なのは結果よりも過程では? それに、予算が少ないと部員たちのモチベーションも下がる気がします」
「そもそも運動部の予算が多すぎるかと。文化部にももっと予算を割り振っていいと思います」
生徒会役員たちから次々と挙がる意見を、俺はホワイトボードに書き連ねていく。お金という分かりやすい議題だからか、普段よりも意見が多い。
皆からの意見を眺め、双葉先輩は吐息を漏らす。
「全ての部活の予算を無条件に増やすのは難しい。しかし、だからといって結果次第で予算を決めるのもナンセンスだ。結果が出せるように、十分な努力ができる設備投資をすること。それが最も重要な事であると、私は考えている」
この人、本当に俺の一個上なのか?
どこぞの会社でインターン生として働いていると言われても納得するレベルだぞ。
「というわけで、これより、部活動の臨時視察を行う。予算を増やすに値する活動を行っているかを見極め、今後の予算の振り分けを決める。こういう方針でいこうと思うのだが……異論のある者は?」
反対する者はただのひとりもいなかった。
双葉先輩は「ありがとう」と優しい笑みとともに言い放ち、役員たちの見廻り先を割り振っていく。さてさて、俺はどこの部活に割り振られることやら……。
「北斗くんは私と二人で調理部の視察だ」
「え、双葉先輩と二人で?」
思ってもみなかった提案をされ、つい疑問をそのまま口にしてしまう。
反射的に口にした故にかなり失礼な物言いとなってしまったせいか、双葉先輩は頬を引きつらせていた。
「も、もしかして、嫌だっただろうか……?」
「い、嫌だなんて、そんな! むしろ俺なんかで大丈夫ですかね、って意味でし――ぐわぁっ!」
「オイコラ近衛、柊木さん泣かせてんじゃねえぞ!」
「生徒会長から誘っていただけたんだから、二つ返事でオーケーしとけばいいのよこの鈍感野郎!」
「くそっ! どうして会長はこんなクソ鈍感男のことを……っ!」
「ま、待って待って! 分かったから、俺が悪かったから役員総出で蹴らないで!」
失礼なのは俺だけども、全員で蹴りに来るのは流石に理不尽すぎやしねえか? ちゃんと上履きを脱いでいる誠実さには感心するけど、そもそも蹴らないでくれ。
俺を蹴って満足したのか、役員たちはぞろぞろと視察のために生徒会室を後にしていく。
もしかしてストレス発散のために蹴られたのでは? という疑惑を抱きつつ、俺はその場に立ち上がる。
「だ、大丈夫か? 目を疑うほどに袋叩きにされていたが……」
「いつものじゃれ合いなんで大丈夫っす。ちゃんと加減してくれてますし」
失礼な言動をとった後輩を心配してくれる優しい先輩に、俺は笑顔を見せる。
「さっきも言いかけましたけど、嫌だなんてことは絶対にありません。むしろ、先輩に頼りにされているみたいで光栄です」
「う、うむ。そうだ、私は君を頼りにしているぞ。……一番、信用していると言っても過言ではない」
「あはは。そう言ってもらえると嬉しいです」
「(むぅ……これはちゃんと伝わっていないような気がするのだが……)」
「先輩?」
「何でもない。それでは早速、視察に向かうとしよう」
そう言って、先輩は俺の手を握る――何故か顔を真っ赤にしながら。
「さ、さぁ、いざ調理部へ!(北斗くんの手、思っていたより大きいな!?)」
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