かけ違えたボタンをかけ直す物語

設定はとてつもなく重いはずなのに、里帆の底抜けな前向きさと積極的な言動が、物語をポジティブな方向へと突き動かしていきます。
里帆と優弥のやり取りは、最初から教師と生徒の垣根を越えており、それがタイトルにもある「タイムスリップ」してきたことに、説得力を持たせています。

第1話は物語が進むにつれて、辛い話が続くものの、二人の軽快なやり取りのお陰で気分が落ち込むことなくスラスラと読めて良かったです。
そして、その下敷きがあったからこそ、第2話の冒頭シーンが強く印象づけられます。
悲惨な最期を辿ったはずの里帆が、やけに前向きなのは、最期のこのやり取りがあったからこそだと思えます。

短編でありながらも、人間関係が濃密に描かれているのは、設定が濃いだけではなく、里帆という人間性と行動力、そして何より彼女を突き動かす動機が堅固に構築されているためだと思われます。

壊れやすい人間関係。ひとつボタンを掛け違えただけで、凄惨へと変わる一方で、幸福へとも変わることができる。
そんな希望を見いだしてくれる一作でした。