世のなかは想定通りにはしてくれない
- ★★★ Excellent!!!
先ず三話、読ませていただきました。
長くはなりますがご了承ください。
感想から述べさせていただくと、世のなかは想定通りにはしてくれない、である。
これ以降、私の感じた話になりますので面倒であれば読み飛ばして下さい。
題名を見る限りに私はホラーSFを創造した。いじめられることを苦にした主人公が身代わりとして一体のロボットにその苦痛を肩代わりさせる。現実逃避に成功した主人公だったが、学校では思わぬ方向に事が運んでいき……という感じの道筋であると勝手な想像をしていた。
が、ちがう。すべてを読んだうえで言わせてもらうけれど、結末は斜め上な描き方である。変な意味ではなく、好印象な意味で。
さて本作は全体一万文字弱で読めるショートな物語である。後味も悪くなく、さっぱりしていていやな風味を残さない。しかししっかり、予想だにしない結び方をした稀有な作品だ。
レビューと共に一話ごとの感想とさせていただきたい。
いじめられロボット・ 上
物語はいじめられっ子な主人公の独白から始まる。
とある企業がいじめられロボットなる商品を作り出したらしい。序盤からすでに闇の深い話である。だが取り付けてある機能を鑑みると全国の学生からすれば喉から手が出るほど欲しいものじゃあないだろうか。特にクラスという鳥かごに似た狭窄的な空間の中で、とりわけ弱者の烙印を押されてしまった少年少女らからすれば地獄の底での蜘蛛の糸ともいえる。縋ってでも手中にしたい物品だろう。
主人公もこのロボットに縋った一人だった。このロボット単価は高いらしいが、両親の承諾を得てなんとか手にすることに成功。桃色とは言えないが淡い青春に影が落ちる生活からは抜け出せそうな予感である。もともといじめられてしまい青春はおろか色づきのない生活だったからこの点は救いだろう。
ロボットはなんと見た目を完全模倣することが出来るようだ。つまるところ見た目はおろか、頭脳や体力も本人に倣ったレベルにできる模様。これは確かに高価な匂いがする。ちなみに主人公は勿論だが両親も結構ノリノリでこのロボットに期待しているようである。大方こういった子供関係のいざこざにはしかめっ面な親が多い印象だがこの主人公の両親はちゃんと良心を持っている様子。
完璧な模造品を垣間見た主人公の第一声が「うわっ、ださっ」である。身も蓋もない。身も蓋もないが鏡より質感を持った己の分身を見て身体を絞ることを決意する。まさかいい方向に作用するとは思わなんだ。
いじめを肩代わりしてもらえる。というところ、この物語の本質をとらえたところだろう。
今回はロボットであるから実質は無害だが、治安の悪い学校に通った人間であれば、一度はいじられる対象が自分から他者に変わった時の安堵感を味わったことがあるんじゃないだろうか。目をつけられた対象が自分ではなくなった。これからは弊害なく暮らせる。そんな安堵である。
抱くことはまちがえてはいない。実際自分が嫌がっていた行為がある時を境に矛先を変えるのである。翌日からは気にしなくてよい、これは心地が良いだろう。が、やはりそれは、矛先を変えただけである。即ち、鋭利な先端が破壊されたわけではない。悪戯が消えたわけではなく、狙う先端が他を向いただけである。
根本を摘んだという話ならめでたしめでたしで終わるものの、この物語の趣旨同様、根元の大事を根絶するわけではなくただ野放しにすることで、所謂臭いものに蓋の要領で見て見ぬふりを続けるわけだ。そうするために、新しい贄をささげることも辞さない。
いじめられるものがいじめる側に回りやすい図がよくわかったろう。
いじめはいじめる側が端を発し、その後の犠牲者はいじめられる側が作るのである。
之をもって学級という鳥かごは日に日に狭く鋭くなるわけだ。
いじめられロボット・中
二話は大方、主人公が二面性の中で有意義な生活を送れていることが語られる。
思えば、学校は出席したことになるし、オリジナルは自宅でほかのことが出来るわけだ。めちゃくちゃほしいなこのロボット。ロボットに仕事行かせて私は終日小説にだけ注力したいぞ。
さても便利なロボットじゃああるものの、さすがにテストに出させるわけにはいかなかった。まあそりゃあそうである。替え玉の非じゃない気がしてくる。問題になってくるのが主人公の身体つきである。一念発起した主人公は所謂コピーのロボットとは違い若干引き締まったボディになっているはずだ。ともすれば今度は主人公が替え玉役のような状況になるのではとも考じれる。雲行き怪しゅうなってきたな。ロボットと人間の逆転もあり得るか?? 男子三日会わざれば刮目せよとは言うけれど、昨日今日で腹筋が割れるのは流石にない。今の主人公は俯瞰するとコピーよりも主人公らしくないわけである。ロボットのほうがその人らしい。
この問題は主人公がコピーの髪型を変えるというやり方で何とか手を打った。まあ確かに髪型は大事である。さわやかな印象を与えれば腹の贅肉はちょっとばかり主張を抑えるし、逆にもさもさの髪型だといくら虚弱体質でも普通より肥えて見えてしまう。結局のところ人の印象は大半が面で決められるものである。
さて、世のなかは新しい発展が広がっているらしい。というのもこのイジメられロボットの廉価版が発売されたというのである。電子タバコもそうだけれど一度世にそういう発明が轟けば事態が収拾できんくなるほど同じような商品がはびこる時代となった。
まずもって目新しいものだから最初は高値のものが出回るが、情報は鄙びてくれば人々はより安さを求め始める。この流れを汲んでの廉価版の政策だったのかもしれない。
主人公のコピーは廉価のものとは違い高機能モデルである。その点主人公は損をしたのではと思い憂うが実際のところは得をしたところだろう。もしこの購入するという決断が遅ければ彼はただ学校から逃避するだけの存在になってしまっていたところだろう。今のような快適な勉強もできない。学力差が開き始めるともすれば、もはや救いようがない状況になっていたかもしれない。
何と言ってもこの状況、何となくいやな予感がするものである。
いじめられロボット、見方を考えれば、私が先だって述べたように苦痛や面倒ごとを押しつけることにも活躍できるのである。いや、出来てしまうのである。庶民の手に届くレベルにまでなったこの身代わりは、果たしてその目的通りの使われ方をされるのだろうか。
いじめられロボット・下
最終話。学校に向かった主人公は『上』の時よりも大分シュッとした印象になっている。コピーとの乖離具合も気になるところである。
主人公は教室に入るなり、違和感を覚えた。二か月ぶりの登校なわけだけれど、クラス中の人間からの興味関心がまるでない。ロボットに登校を任せる前まではおそらくは少しくらいの興味関心は受けていたことだろう。それを熱と例えれば、今主人公が感じたのは冷ややかさだったに違いない。まるでクラス全員の魂が抜け落ちてしまったかのような、そんな不気味さ、というのが伝わる。
主人公はロボットの行いがこういった雰囲気を作ったと考えた。そうなるのが妥当だろう。なんてったって生身の主人公が通っているときはこうではなかった。知らぬ間に、あのコピーが与えた影響というのは深いらしい、と。
主人公は俄然、登校意欲が沸いたらしい。裏取りはないけれど、もういじめは受けないという直観があった。重々両親は辛かったら逃げてもよいという訓告を行い、それを承諾した。両親としても決して安くない出費の結果、この顛末を迎えたなら冥利に尽きるだろう。数か月前までは昏くてやせっぽちな意識しか灯してなかった主人公が、自分の意志で登校する決意を固めるまでに成長したのだから。
テスト明けの登校で、主人公は在る推察をする。クラス全員、あるいはいじめられロボットになってしまっているのではないか、と。授業風景からすでに違和感の塊である。どいつもこいつも、書く『ふり』や聞く『ふり』をするけれどその動きに人間らしさがテンでないわけである。唯一、その中で人間らしい熱を持った奴がいた。いじめてきていた奴である。
いじめっ子のタカシもどうやらそのクラスの変化には気づいていたようである。急に自分を無視してくるようになった。それもお前の所為だろうと主人公をなじる。だが逆ねじを食わせて反撃するは主人公。ただの不登校ではない、実を伴った不登校を行った主人公はいじめっ子に後れを取るほど弱くなくなっていた。
主人公はタカシ君の暴政が収まればみんな元に戻るとした。ちなみにタカシ君はこのロボットとやらを手にしていないらしく、このように暇すぎるのが苦痛だから話し相手になってくれと主人公に頼むのだった。
今までの卑屈な主人公ならばどう答えたかは知る由もないが、今や身に自信を備えた主人公はたくましくも、イジメないことを条件にこの頼みを聞くことにした。
わたしとしては暴政がおさまろうと、きっとこのクラスで肉体を持った人影が顔を合わすことはもうないように思える。試験にすらロボットを起用した奴らが大半なのだ。心底で根付いた堕落性は一度張り付くとこびりついて落とせないものである。だからもうクラスの人間はもう戻っては来ないと考える。
唯一ずっと肉体であり続けたタカシ君。私的にはもっとも最初にロボット化するんじゃないかと思っていた。いじめを行うものは大抵は愉悦か快楽か、地続きの退屈への味変で行うものである。ロボットを使用することで自宅に居続けられるともなれば、こういったタイプは真っ先にこれを用いてサボりにサボり、引きこもった生活を行うものと考えやすいのである。
それをしなかったタカシ君。
彼は本当に、
本当に。
学校が楽しくって仕方が無かったに違いない。
統括しよう。
感想で結構書かれていた通りに、想像していたラストではなかった。私はもうちょっと生産暗転末になるのではと所々ハラハラした部分はあったけれど、わりかしなだらかな終わり方で、平和的な幕下ろしは大変胃にやさしいものと言える。
ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルも、もともとはダイナマイトは鉱山開発に役立てるために作ったとされるが、実際のところこの爆薬は固い鉱物を破壊するためではなく、もっと柔らかく、繊細な人の肉を引き裂き爆裂させるために最も使用されたとされている。このようにもともとの用途を明確にしていながらも、だが本来の使い方をされず世界のニーズに合った使用方法で消費されるのはママあることだ。
いじめられロボットもまた、上述の通り本来のものとは言えないやり口で消費されていくのだろう。
さて、私の感想は、世のなかは想定通りにはしてくれない、である。
上述したダイナマイトの話から引用した感想とさせてもらっている。結局なところ、発明家の想定なんぞ世の中の人間はくみ取りはしない。その当節に在った、もっともニーズに嵌った使いかたが戦争で使用する点だったからこそノーベルの悲劇があると言えよう。
ともかくこの物語のいじめられロボットというのも当初の目的から逸脱して、ただ面倒ごとのはけ口にされて終わった感がすごく在る。しかし現実にもあればこの終わり方はしっくりとくる気もするのがこの物語の面白いところ。人間結局、生きるというだけでもつらいものである。そのつらさを、もし片棒でも担いでくれる相手がいるとするなら。……たとえ相手が無機物でも縋りたくもなるだろう。
大変面白く読ませていただきました。
応援させていただきます。