大切なものほど簡単に忘れてしまう

母親から医師になることを期待させられていたみやこは、聖凛医科大学の受験に落ちてしまう。
失望のあまり母親に連絡も取らずに、逃げ込むように見知らぬ喫茶店に入るが、そこは『過去の自分と対話できる』喫茶店だった。
そこで、彼女は本当になりたかった夢を思い出す――。

あらすじとして書けばこのようになりますが、この流れが丁寧な文体で書かれているため、さらりと読み進めることができました。
目の前の現実と格闘することに邁進するあまり、本来の夢・目的を見失うことは、現実でもままあることです。
本作は、読者を一旦立ち止まらせて、後ろ(過去)を振りかえさせるような作品といえるでしょう。

そして、何より、最後の母親との対話。
喫茶店で「過去の自分」と対話すること。
逃げていた母親と本音で対話すること。

もしかしたら、本作の一番のテーマは、『対話』なのかもしれません。
それを通じてこそ、本当に大切なことを思い出せるというメッセージだと感じました。

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