前編と後編で物語の見方が変わる。短い中で洗練された優しい物語です。

医大の受験に落ちた主人公。母親からの期待で押しつぶされそうなほどつらかった受験期間。不合格の連絡を入れることに躊躇していたら、とある喫茶店に辿り着いた。そこは過去の自分と会話ができる喫茶店で――。

あらすじを読んで、前編を拝読した時には「本当になりたい自分を思い出して、毒親と決別するお話なのかな」と思っていました。でも、後編はまるで答え合わせのように、ピースが次々と嵌るような感覚になります。

自分が本当になりたかったもの、そしてそれを叶えようと奮闘する親。そこには愛や優しさという柔らかいものしか存在していませんでした。喫茶店での『対話』は、そんな大切な記憶と向き合うための時間でした。

全速力で走って疲れてしまったら、一度立ち止まって振り返ってみましょう。そこには自分でも忘れてしまった大切な記憶があるかもしれません。

読者に優しく提唱する、素敵な短編小説でした。ぜひご一読ください。

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