主人公・高戸和也の一人称視点で、丁寧な文体で語られる本作。
高戸は自称するクズであるが、自身を客観視しており、どこか達観した印象を持つ。それでいて、煙草や麻雀、読書や大学の講義など、自身の嗜好について自分や他人を嘲笑しながら語るため、そこに人間味を感じ、嫌いになれない性格を持つ。
特に『Moon Light』編での幼馴染・鉄平の死に対する何気ない仕草や彼との思い出が、高戸の人情深さを物語っており、人間臭いところが非常にリアリティを生んでいる。
そんな高戸の前に現れた久留主佳蘭(くるすからん)。鉄平の形見である書籍『月光』をきっかけに接触したことで、『月光』の謎に迫ることとなる。
『Moon Light』編以降、『月光』という共通項を持った二人は、かの書物に関する理由から一緒に行動することとなる。
なんだかんだと、高戸と佳蘭の相性がいいのか、ハーブティーやサンドイッチ、お香など高戸は佳蘭の嗜好を肯定的に受け止めている。そうした日常的な部分を丁寧に書いているため、呪いに関する非現実性がリアリティを生み、余計に本作の怖さを際立たせている。
言うならば、静かに怖いのだ。
よくあるホラーものでは、視覚的に怖いナニカ、死に繋がるナニカの存在によって恐怖心を煽るが、本作は人の心性から恐怖に迫る。その心性が赤裸々に語られ、血が流れないまま静かにコトが進行する。夜中に街灯のない道を歩く時に、ふと後ろに何か気配を感じるような恐怖心とでも言うべきか。
『月光』の謎に迫ることは、同時に幼馴染・鉄平の死の真相に近づくことだった。
何故、死ななければならなかったのか。『月光』という書籍はどこで手に入れたのか。そして、『月光』の作者が見たアレは……?
静かに進行する恐怖へ潜行する覚悟がある人だけ、読んでください。
全15話完結済みのホラー短編です。コワイ!
大学生の高戸和也にいきなり声を掛けたのは、噂の美少女女子大生、金髪碧眼の来栖佳蘭。
和也の親友の自殺の原因がその本にあると言う彼女は自らを魔女と名乗り、怪異の謎を解き明かすためにふたりは「月光」というその本を読むことに……。というお話です。
特筆すべきは「見え過ぎてしまう」佳蘭に変わって本を読んだ和也が、月光という本の内容に引き込まれるシーン。
その物語に引き込まれた和也を佳蘭が引き戻すのを見て、読者たる自分も現実に引き戻される感覚を味わった時は、作者にまんまとしてやられた気分になりました。
一応ネタバレ無しのレビューにしたいので多くは書きませんが、最後がコワイ!
しかし怖いだけでなく、少しだけクスリとさせてくれる部分があるのには、作者の良心感じました。ありがたや!
このネタ一本では惜しい、できれば長編化かシリーズ化して欲しい。その祈りを込めてレビューしました。
皆さんも是非、ご一読下さい!