しあわせな「うまいメシ」の隠し味

「うまいメシさえあればいい」
「先輩後輩、男ふたり暮らしのごはんといろいろ」
「それ以上でもそれ以下でもない」
と、非常に端的な謳い文句に嘘偽りなし。
官能的(※食欲)なごはん描写に、思わず腹の虫が騒いでしまいました。

でも、決してごはん描写だけの作品ではありません。
男ふたり――松橋と沢村は先輩後輩の仲。ふたりがルームシェアをするわけは、おいしいごはんをいっぱい食べるため。仲良くごはんを分け合うふたりの姿は、読んでいてとてもしあわせな気持ちになります。
令和を迎えたとはいえ、日本ではまだまだ成人男性ふたりの同居はめずらしいもの。
男ふたりで同居なんて、男が料理なんて――ひと昔前の価値観を持つ人間の目には訝しく映ることもあるけれど、そういう相手さえストーリー上「男ふたり」の劣位に置くのではなく、適切な距離感を保ちつつも思慮深いまなざしを向けているのが、「うまいメシ」を「うまいメシ」たらしめている真の隠し味です。

読み終わったとき、「うまいメシさえあればいい」という言葉は、彼らも、彼ら以外のあり方も、すべてひっくるめて肯定してくれる素敵なパワーワードになっているでしょう。

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