第16話 見捨てられし数多なる記憶
エルスたちがカルビヨンの〝海賊島〟を訪れていた頃。勇者ロイマンと四人の仲間は、最後の目的地へ向けて、アルティリア王国北部の雪山地帯を進み続けていた。
「サスガに寒くなってきちまっタゼ。魔剣の炎が
「うぅ……。半裸のバカでも寒いんじゃ、あだじなんて凍っちゃいそう……。さっきの
いつもの軽口を叩きながら、ゲルセイルとアイエルが前後に並んで進む。彼らの前方にはハツネの背中が見え、最前列からは炎と蒸気が絶え間なく上がっている。
「ロイマン、大丈夫? いくら
「この程度、問題にならん。最強の〝魔剣ヴェルブレイズ〟と、最高の仲間。すべてのカードが
ハツネの心配をよそに、ロイマンは絶え間なく魔剣を振るう。
体力と
「〝記憶の遺跡〟か……」
まだ日中にもかかわらず、周囲は暗闇に包まれている。上空は分厚い
*
変わらぬ景色と陰湿な暗闇の中、どれほどの進行を続けたのか。いつしか空を覆い尽くす雲にも、
「方角、よし……。もう少しのはずよ」
手にした
これは世界の中心点である〝ノインディア皇国〟の位置を指し示す、一般的な
「オイ、アイエル。本当にコンナトコに〝記憶の遺跡〟が在んのカヨ?」
「えー? 今さら
「心配いらん、ゲルセイル。あの〝
ロイマンは魔剣を振るいながら、後方に続く若い仲間に声を掛ける。
「それに、アイエルの情報がなければ、
「やっぱしボスはわかってるぅー! ゲルっちと違って、大人の男って感じよね!」
アイエルは得意げな笑みを浮かべ、続いてゲルセイルに向かって舌を出す。
「ケッ、黙ってリャ可愛いのにヨ! 一言、余計なんだヨナ」
「ふぅーん? ゲルセイルって、
「アァン?」
なにか違和感を覚え、再度アイエルの顔へと視線を移す。そこに一切の表情は無く、見開かれた
「ナッ……。ナンダヨ……。いきなり変な顔するンジャネェ……!」
「あっはっは! いまのゲルっちの方が、よっぽど面白かったかも!?」
「フッ。お前たち、そこまでだ。――到着したぞ」
硬く締まった雪に魔剣を突き立て、ロイマンが額の汗を
*
その一角、入口であると思われる箇所には、鎖で
「ナンダコリャ? 氷じゃネエナ。……
「ええ……。それに、これほど
「
目の前の
「ボス」
「ラァテル。下がっていろ。――ぬぅん!」
振り下ろされた炎の魔剣によって、低温に曝され続けていた鉄扉が、ガラスのように砕け散る。そこに開かれた
「うわっ。なーんか、
「ただの〝霧〟じゃネェナ。中からは
「ここが知識の海……。
吸い寄せられるかのように〝入口〟へ近づくハツネを、ロイマンの腕が制止する。
「そうだ。〝世界を変える力〟を得られる場所だ」
冒険者らの間で
「ギャッハッハ! スゲェナ、アイエル! ついに俺っちも、オマエを見直したゼ」
「今さら遅い遅いー! ほらねっ? ちゃーんと〝あった〟でしょ!」
「ああ。どこで得た情報であるのかは、――
アイエルが仲間に加わる際に
「先に入るぞ。
「はぁーい! 力を得たからって、あたしたちを〝消す〟なんてのはナシねっ!?」
「フッ。俺は、絶対に仲間を裏切らん。――いくぞ」
仲間たちが見守る中、ロイマンが青く透き通った
入口は大男のロイマンが立って入れるほどの大きさがあり、穴の周囲には大小のヒビ割れが確認できる。彼は前方に
「うっ……。グッ……! グオォ……!?」
虹色の霧の中。短い通路を抜け、小規模な空間に立ち入った矢先。ロイマンが額を押さえながら、激しく
「
「ボス! ナンダヨ、あれは
ロイマンは自身の頭を押さえ、
「ロイマン……! ラァテル、待ちなさい!」
「クッ。……なんだ、これは?
ここに渦巻くのは、
喜び、悲しみ、
「フン、くだらん。……俺の
記憶の
「オシッ! いいぞ、ラァテル! オマエも早く戻ってコイ!」
ロイマンの手当をハツネに任せ、ゲルセイルが仲間へ退避を
「クソッ、ヤベェナ。すぐに引っ張り出してヤル! ウォォォ――ッ!」
「あっ、ちょっとゲルっち! ダメだってば!」
「ぐおッ!? ナンダ、オメェら! 俺っちに
子供の無邪気な笑い声に、何気ない日常会話の一部。それらを断片的に、極めて無秩序に発しながら、記憶の群れが
「あー、もうっ! 仕方ないんだから」
ラァテルの
「さてっ。――ダウンロード、開始っと!」
倒れた二人に駆け寄りながら、アイエルが不敵な笑みを浮かべる。そんな彼女の余裕の表情も崩れ、
「うぅっ、これは予想以上。
二人の状態を確かめながら、アイエルが遺跡の外へと視線を
「わりと楽しかったかも。〝愉快な仲間たち〟ごっこ。――
そうアイエルが唱えた
「くぅ……。なに、この光……? まさかカレンと同じ……!?」
その突然の光に、ハツネが再び視線を向けるも――。すでに、遺跡の中に三人の姿はなく、虹色の〝霧〟が
ミストリアンクエスト 幸崎 亮 @ZakiTheLucky
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