おかずは、なめろう


『あなたがたの夢は わたしの願いだ 世界の広さのさきにある』


 著者本人によるこのキャッチコピーにまさにキャッチされた。大望を抱く者たちの船出。海原に夢を抱く知的な指導者。そんな感じがひしひしとする。
 それで、戦国を舞台にした、尾田栄一郎「ONE PIECE」みたいなお話なのかな~と適当に想像しながら読み始めた。
 読み始めてすぐに口があいた。
 講談師、神田伯山にこの作品を語らせるなら張り扇で釈台をばちばち打ちながら、「語りにくいわ!」というところだろうか。
 なんとも変わった文章だ。
 たとえるなら、満艦飾のラッパーが受験会場に紛れ込んできたかのようなのだ。
 不思議な文体がびゅんびゅんとライトを付けてご機嫌に走り回っている。

 登場人物紹介からぶっ飛ばしていて、申し訳ないが何度読んでも全然あたまに入ってこない。
 入ってこないのだが、ただその勢いとかっとんだ語りには、ぴかぴかした元気が満ちている。
 わたしが常々、小説の魅力の一つに数え上げているところの、
 俺は
 これが
 書きたいの! という勢いの持つ力だ。
 こういう作品は強い。
 誰にも顧みられなくとも、この文体で俺はいく! と帆をはって、すくすくと育つ竹のように既成概念の青天井をぶち破るのだ。文章がすでに冒険を始めているではないか。


 そんな感じで、まあとにかく、真田源次郎、由利、望月の三名だけを最低限おさえて読み進めることにした。
 後の登場人物はそのうちお知り合いになれるだろう。
 正直、情報量の多すぎる特徴的な文章とキッチュすぎる世界観に慣れるのに精いっぱいで、他に気が回らない。
 望月は、美貌の軍師ね。
 由利は混血、緋色の髪でエメラルドの眸。
 そして、真田源次郎。
 真田。
 真田とは。
 もしや真田信繁(真田幸村)のことなのか……。


 このお話に真田信繁が出てくる必要、あるのだろうか?
 あ、彼がいることで秀吉や家康に自然にコネクトできるのね……そうか……。
 そうか?
 知らねえわ、もうなんだこれ。「cala-te!(うるさい)」じゃねえよ口調もうつるわ。
 外来語だの単位がセンチだの、そういう何でもありの世界なのねと醸しておいて、そこに初手からこんなのぶちこんできたよ先生。


「イスパニアの4エスクード金貨」


 か、かっこいいー!
 この未知の異次元小説に持っていかれた。作者の脳裏にどんな特異な物語が広がっているのだろう。
 我々が地を這う蟲ならば、この作品は蝶。
 舞い上がり、真っ青な海をこえて南蛮に飛ぶがいい。読者は下界からなめろうと炊き立てのご飯で見送ろう。
 47話で完結するそうだ。
「ゆうつむぎ」なんていう人畜無害な筆名に騙された。これは唯一無二の冒険。

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