幸村の海賊旗 〜戦せず手に入れる。戦国で世界をしる帆船海賊団を。人質時代の少年・真田源次郎、海の口伝〜 

ゆうつむぎ

1章:帆船の棲家(すみか)

第1話「乱れた国にせかいの粒」



 信濃の大名・真田昌幸さなだまさゆきは、徳川から上杉へ、さらっと寝返った。

 小柄な少年の影を小さく、乗せた丘ごと青く切り抜き、夜空いっぱいの満月が照っている。


 クレーターや水の痕跡を暖かな色味にした巨大な円を背景に、ぽっつんと丘にあぐらをかいた源次郎げんじろうは、灰白に深黒の色段替わり伊賀袴に肘をつき頬杖で眼下を見ていた。

 片顔面に青あざ、引き結んだ口のはしは切れ、白ひも瑠璃紺るりこん紐で重ね結んだ小姓結の黒髪くしゃくしゃ、両方の鼻の穴から垂れてきた鼻血を拳で拭う


 天正一〇年、真田源次郎さなだげんじろうは十三歳。

 身長148cm、まだ細身の少年の姿。


 品の良い少女のような顔立ちに月光がさすと、深栗色にきらつく黒いエッジきれいな瞳、片目から頬までぱんぱんに腫れたまま青白く照らされ、声は変声期中で掠れるが静かに強く


「売られていく者たちがナワにつながれ、死体の腐った敗戦の泥上を

 臓物踏みながら歩いていく、もう何日目だ」


 森を抜けた断崖の先にいる、樹林をぬけた蒼い香りを背に

 朝日まぶしく眼下いっぱいの戦場跡、腐った死体もまぜた赤黒い汚泥の広がりを見つめていた。

 手足に紐をかけ敗戦の地べたを渡らせられていく人々が小さくてんてんと連なる、何重にも


「敗戦国から逃げ遅れた落武者、雑兵

 戦のたびに繰り返し馬に兵に田畑を踏み壊され、食えなくなる農民たちの妻に子供

 ――――あーぁあ、また売りに来た

 先頭で綱をひく奴隷商人に、子を売り渡して金の交渉してる、子の親たちだ」


 きちきちと白い犬歯を噛んで、ほとんどあいてない腫れた片目をひそめて続ける


「二度目の伊賀の乱で国を捨てるまでずっと

 これを見ていたお前が、大人のはずだよ

 才蔵さいぞう


  冬の冷たい朝日が陽差すなか、ふわり黒い鳥が、桜色からラベンダーへ変化する空に現れる。

 伸び盛りの同い年で十三歳。身長165㎝の筋肉綺麗に巻き始めた姿体美しく

 真っ黒の着流しに、すこしクセのある黒髪を首の後で紫紺の下緒にくくって垂らし

 武装は腰帯にさした黒鋼鉄鞘の備前長船びぜんおさふねの打刀ひとつ、折れて治療中の右腕を藍布で下げて

 才蔵は、源次郎少年の頬杖ふてくされたあぐらの横に降りた。

 通った鼻梁の分けた左右対称の綺麗な顔は、腕のいい彫刻家が繊細に堀り描いたような美男への成長過程、

 やさしい二重の双眸に、蒼く朝日をはらんで

 横合いに姿立ち上げた才蔵を見もせず源次郎は


「これで戦国だ、なぁにが下克上だ

 中枢に出なくては、天下人のそばでなくては、どの国もこのようなものだ

 領地国民の安堵さえあればいい、なんでもしていい

 乱獲らんどりと銘打めいうって人狩りし、人を売って儲けた金もたくわえ、長い閉ざされた冬を越す」


 太くこよった懐紙を鼻血どめに突っ込んで、あぐらの膝に肘付きまたほおづえ、鼻声で


「狩られ、二束三文で売られる者たちはどこへゆく

 命など使い捨ての乱世日本の、いくらでもある戦地か

 外洋渡って異国の奴隷か」


 一年前の天正伊賀の乱で、十二歳の才蔵は失った、妻を、声を。

 その日からずっと喋れない、だから所作で示す


 見ろ。


 才蔵が指さした方向に川面のゆらぎ

 源次郎が


「見えてるよ、買った人たちを川くだって海へ運ぶ小早船ども―――

 海沖に待たせているキャラック船の船倉に、ぎゅうっぎゅうに詰め込んで

 異国へ渡り、売りさばくんだ」


 不機嫌顔あげる目の前に、軽く握った右手差し出す才蔵。

 源次郎は

「ん? 受け取るのか?」

 両手を広げるとキラキラっ

 円形3㎝ほどの金色が才蔵の指先から回転して落ち、源次郎の手のひらに倒れ異国の貨幣が一枚いびつな円描く。

 弧四つでクローバーのように囲まれた十字に見える文字面と、国を表す旗が刻印された面

 見て息を飲んで、大切に声にする源次郎


「イスパニアの4エスクード金貨」


 そのスペイン貨幣の上にチャチと音立てて

 ひとまわり大きな金貨を才蔵の指先が重ねると、源次郎の双眸がさらに見開かれ


「イングレスのゾブリン金貨」


 エリザベス女王が玉座に在る刻印面を見つめたまま問う


「日本海賊の船にこれが」


 うん。


 うなづいて才蔵は、二枚の異国金貨乗る源次郎の揃えた手のひらに、爪先でゆっくりと文字を書く


〈 帆 船 〉


 源次郎は目を細めて肩に息をくりかえして「こほはっ」むせて、きらきらの笑顔で

 たちあがる。

 出会った頃はたいしてかわらなかったのに、もう頭ひとつぶん背が高くなった才蔵を見上げ


「見つけ出したか

 外洋航路をもつ、まだ誰も手に入れていない

 日本の帆船団を」


 源次郎は小柄な胸いっぱいに息をすいこんで

 大きく叫びたいのに気持ちが詰まって声が震えて

「ありがとう」

 才蔵はうなづく

 左指先曲げ、こんこんと源次郎の額をノック、また海に目を戻す。

 源次郎が嬉しさに高揚する息をすすって


「まだまだ理解する、手に入れる手段を考える

 この国で、異国へ渡る帆船を数あつかう連中だ

 口説きおとすには智慧ちえでは足りない」


 才蔵はすらりと姿美しく立っている

 その静かな横顔に源次郎は熱く告げる


「みような、せかいを」


 才蔵は夜色の瞳だけを目尻にすべらせ源次郎を眺めた。


 奴隷積んだ和船・小早船が連なり川を海へと滑る、人力こぎの櫓声が風にのり聞こえ、この時代にはない概念をふくむ言葉で決意を告げる

 源次郎の声


「まずわたしは次の天下人に最も近い、秀吉の元へゆく

 わたしに自由を手に入れる、そこから」





  天正十年、六月。織田信長死去から発した壬午じんごらん

 木曾義昌きそ よしまさが滝川一益の通行を拒否したために木曽に人質として差し出されていた真田の源次郎が

 徳川のとりなしで真田領へ帰還したのは、九月。

 すぐに父親・真田昌幸は強国上杉の景勝かげかつの元へ、源次郎を人質に贈った。

 天正十三年

 上杉景勝に命令がある。


「真田源次郎を大坂へ」


 上杉家で千石を受け、軍の一端をになっていた源次郎を、景勝は手中の玉を奪われるような心境だったのだろうか、真田の人質としてたらい回される十六歳の源次郎へ美装と隊列をあたえ名残惜しく見送ったという


 関白かんぱく秀吉ひでよしの元へ。


( ようやくだ )


 源次郎は秀吉の前に平伏しながら微笑する唇に犬歯を噛む。

 黄金張りキラっキラの、大坂城天守閣が完成してすぐのことだ。






 ◆◇◆ 幸村の海賊旗 ◇◆◆







 天正十四年

 真田源次郎信繁は、十七歳。

 馬上、神域に霧氷そそぐ熊野の冬にいる。


 十四歳の子供の見た目をした甲賀の三雲佐助みくもさすけは、一四〇cmの小柄な体にミノ笠にふわふわの雪つもらせて

 笠に半分隠れた小さな顔に瞳おおきなどんぐり目で子リスの風情

 ふはーとシワく息を吐き、声は七〇超えた老爺のしゃがれ


「若とのの阿呆は治らぬのう」


 一文字に結んだ口がぱくと開いて子供姿の佐助はまた老人の声で


「夢は眠ってみることじゃ」


 源次郎は、華奢だが戦う筋肉しなやかな青年の体に仕上がってきた、166㎝、笑うと目尻のたれる公家が出自の母親譲りの品のいい顔に、父親譲りの深みある低い声で


「覚めてみるから夢だろう」


 子供が残った可愛い言い草。


 源次郎の瑠璃紺るりこんの小袖には、背から右袖へ羽根を広げた蜻蛉、可憐な姿と相容れない肉食性と一直線に進む強さが流行り絵柄の羽先に、背の六文銭(ろくもんせん)が銀色にまたたく。

 後頭部で浅葱あさぎと紺色違い紐に結えた髪先、さらっと揺らして振り返り


「だよ、なあ? 由利ゆり


 呼ばれて大樹の影から顔だした明るい色彩の長身の若者が新緑色の双眸キラキラ

 夏日射しみたいな明るい声をかえす


「ポケーっと寝てても殺されねぇ、ンな楽園の世の中があるならなぁ」


 胸にじだじだする冬毛真っ白なうさぎを抱いたまま


「おいらぁ美人抱いてずうっとごろごろしててぇってのは、あれッ?

 寝てみる夢か? めてみる夢か?」 


 この由利鎌之助は一目でわかる混血、これも十七歳。

 彼は紅蓮の腰まである髪に新緑色の双眸、手足が長く筋骨阿吽の彫像のような体躯は六尺二寸三分 (約一八九㎝)もある

 鼻筋のとおった鷲鼻がにあう男っぽい風情は、長身も顔立ちも異国の筋骨頑強に似合い、少年の優しいライン残る輪郭やすこし目尻が垂れた顔に愛嬌も明るい。

 銀色に凍った川面に緑の雪竹が萌える絵柄に猩々緋しょうじょうひの帯、防寒具の黒熊毛皮がやたら派手

 女物の打ち掛け小袖着流す悪党なしゃれ気も、知性を損なわないのは彼の暖かい空気感のせいか。

 そこへ低い男の声がわりこむ

「上様への口の利き方を覚えよ築城屋、山賊あがり」


 源次郎の横に馬首が並ぶと、由利の腕から白兎がぽろりと逃げて雪の上をてーんてんてんとはねていった。

 四尺九寸(約一五〇㎝)小姓結いの黒髪を細い背に長くたらした、雛人形のような少年が由利を馬上から見下ろしている。

 紺地袴に小袖白練と黒色半身、翡翠色半月で雪輪柄、藍下染めの墨色半身に銀の文様重ね、背中に血色の六文銭

 海野六郎、十五歳。

 海野のちいさなお雛様姿の、大きな態度に笑い出しながら由利は


「お前ぇさあ」

 陽射し受けると新緑色に透き通る双眸を、海野へあげ

「だからおいらが気に入られてるからッて嫉妬りんきしてんじゃ無ぇって

 文句ならお前ぇの大事なうえさまに言いな

 帰雲山かえりくもやまで築城してたおいらなんざ、はんぶん山賊に決まってンだ、だってのに

 どうしてもっておいらを欲しがったンは、お前ぇのうえさまだろうが」


 海野は切れ上がった一重の双眸きらつかせ息をスっ

「私が言うておるのは、お前の行儀悪さと礼儀の無さだ

 悋気りんきなどやくものか、真田源次郎は私の親兄弟を殺した仇敵

 いずれかならずや殺す

 今は時期でないゆえ、小姓として命をゆずっておるだけだ」

「なあ!?ほらわっかンねえや、海野って、おンもしれぇなぁ」

 夏陽射しみたいな笑顔の由利を睨みこむ海野。


 彼らを横目にして佐助は少年の顔に老爺ろうやの声で飽きたくちぶり、一四・五歳の小さな子供の姿に七〇過ぎたしゃがれ声

 冬星座満天から目をはずし指す


「ほうれ、見えたのう

 帆船団総大将・弁慶丸べんけいまること根津甚八ねずじんぱち

 帆船団副大将・望月六郎もちづきろくろう

 南蛮帆船あやつる海の魔物どもの棲家すみかぞ」


 山頂ちかく、雪にたわんだ樹影のしなだれかかる朱色の大伽藍が見える

 その奥にひっそりと城はあった。

 佐助は横顔いっぱいおおきな瞳にどろりと血色の苦笑い、しわい老爺の乾いた声で


「熊野灘から外洋への海路掌握に独自交易

 六百人越える海賊衆と一五隻ものキャラック船、キャラベル船

 束ね率いるのは城主・恩威院おんいいんなにがしではなく

 この、根津・望月のふたり」


 佐助の編み笠から下半分のぞいたどんぐり目は、まばたきもなく見上げ


「じゃがつねに根津は外洋を馳せ日本にはおらぬ

 船団の日の本の要は

 当年二〇歳の望月六郎

 銃火器をも製造し、強国超える武装船団を海の城壁としつらえて

 熊野の勢力で最大級誇る海賊大名・堀内氏善ほりうち うじよし

 前天下人・織田からの水軍大将・鳥羽の九鬼嘉隆くき よしたか

 手出ししかねておる ―――――怪物よ

 四年越しの求愛がとどくとよいがのう、若との」


 源次郎はため息するように見下ろし

「くどいてもくどいてもくどいても見向きされないから、どれほどかと見にきた」

 佐助は深いどんぐり色の瞳に源次郎をうつし

「言うておくぞ

 わしのあるじはお前ではない、真田のご当主(昌幸)さまじゃ

 いまの儂の任務は、真田の子殺しよ」

 しわい声怖く佐助は、子供の顔にくるんと大きな目を三日月型に細めて


「望月の主君は

 関白をかんした秀吉にすら、面倒な高貴の血筋

 源次郎めが交渉に下手をうち、真田に危害のきざしあれば

 その場で殺し、首差し出して収めよ、と儂は

 お前の父君におおせつかって、ともをしておる」


 源次郎は可愛い目つき、小春日和の風情で


「それは安心」



 真田源次郎は、ここより三十年後、歴史に名を刻む

 慶長十九年に大坂でおこる最終戦争、敗戦必至の大坂城

 夏の陣のくだりでは数々の武将の死に様が伝説となる。

 その一人が真田源次郎信繁(さなだ げんじろう のぶしげ)

 後世これより有名な名前で呼ばれた

 戦国末期から江戸期の人々へと口伝され、彼は物語となり、名は、変幻した。


 真田幸村(さなだゆきむら)


 史書にこの名はない、彼自身死ぬまで一度も名乗ったこともない

 本人すらが知らない、語り継がれた伝説の英雄の名前「幸村」とは

 歴史が彼に与えた、名というカタチをした栄冠なのかもしれない。






 だが


 その晩。

 望月六郎と真田源次郎との謁見交渉は、瞬時に、決裂した。

 ひとり残された由利は

 その翌日のまだ夜明けまえに、

 望月から決裂の原因を見せつけられることになったのだ。


 牟婁崎と鷺ノ巣崎の合間が太平洋への出口となる

 まるでコンパスで描いた半円に海をくりぬいたような入り江は

 夜の海原は黒いビロードの光沢でうねり、天空高くからの月光を一条の光の帯にして揺らめかせている。

 目を射る光点で煌めく空一杯の冬星座を

 望月の神官衣装のシルエットが切り抜いて

 その背景に漆黒の船影がそそり上がった。複数。


「護衛役にと残されたが、貴殿きでん

 わたくしの何を護衛する気だ」

 波打ち際に望月の細い神官衣装、膝裏まで流水のように流れる黒髪に波濤の海粒をまたたかせ、水平を見据えた双眸の闇に点と炎の粒が過ぎ

 その瞬間、望月の背景を覆った巨大な船影達の重なりが光り浮かんだ


 「見るがいい」


 男にも女にも聞こえない望月の声に

 落雷のような音が重なり、光を両舷側にずらり並べた戦艦たちが

 由利の眼前にせりあがる。


 船と船が近距離をすれ違い、二隻の舷側間で押しつぶされた波涛が爆音あげて破裂し上空に吹き上がり、火粒と飛沫があふれ注ぐ波打ち際が照らし出され

 望月は、腕を海沖へと開く


「我らの船団のこれで半数

 本隊は総大将の弁慶丸べんけいまるがひきいて

 外洋にある」


 波濤おさえる風の轟音。

 由利の新緑色の双眸が見開かれ見上げていく、言葉が出ない。

 船首・中央・船尾、三本の帆柱がそそりあがり、横柱がそれぞれにうなりあげて帆布に風を張る


 帆船。


 海中に船の背骨である竜骨で軸ぶらさず、竜骨から張り上がった肋骨で強化された舷側をもつ、正面から見るとV字の形だがこの船型はやや丸みがあってどっしりしている。

 次に望月の唇が形にしはじめた言葉は、それぞれの船の名前のようだ


「鵜萱(うかや)」


 日本人にはナウ船と呼ばれるが、これはポルトガルから買い入れたからポルトガルの呼び名で

 英名はキャラック。


 一四九二年にコロンブスが新大陸に到達した際に乗船していた複数の布帆で遠洋航海する戦艦だ。

 大砲の射出口のある舷側に、三本帆柱の横柱それぞれに斜めにかけられた帆布は長大な長方形で風をまるくはらみ

 真ん中の帆柱頂点近くにある物見台から網が斜めに舷側まで広がった綱、船首にも船尾から斜め上に突きだした柱に布帆など、三角形で風にうなっている

 横柱のある真鍮塗りした船首柱から前帆に支えられた太い綱を駆け上がっていく海賊、甲板に立ち働き動く海賊達の頭が、舷側防弾壁ごしに、由利に見えた

 船を前へ進める指揮の号笛、細かな操船指示する船太鼓のリズムが海上に響き

 望月はまた船の名を告げる


「黒麟(こくりん)」


 どっしりした大型が牟婁崎の島影から帆を張り下げながら現れる、三本帆柱の高い二本に四角を綴った布帆が大きくかけられ、船尾・船首に突き出す柱にも大きな四角帆

 風を掴んでぐうんと回頭するV字の船倉が鯨のように海を押しわけたむこう

 船速と船形が変わった


「 洛陽(らくよう)」


 細身の船体を包めるほどの三角帆を連ね広げ、二本帆柱に船首の帆布を横柱傾け風で方向を切って、速度あげる、水すべる鳥のような操船

 一隻目・二隻目が丸みある胴もつクジラだとしたら、これはシャープで攻撃性に優れたシャチ

 キャラベル船。

 その船首のむこうからわき上がったのは

 紅色船尾の細身の帆船、船尾に海へと突き出した三本目の柱の三角帆が風なりあげて、急旋回の離れ業を披露した、しゃちの群れだ、攻撃的だが安定した船足

 望月はつぎつぎにキャラベル船達を呼ぶ 


「虹花(にじばな)、アトイ、塩槌(しおつち)、一葉(ひとつば)」


 近接してすれ違うから、波も高く各船大将の操船命令も混ざるはずだ、だが乱れがない

 舷側に垣間見える海賊達は、篝火の火粒あびながら、誇らしく船を操る


 号鐘・号笛・船太鼓


 指揮船キャラック鵜萱からの音、それが船達の動きを調律していた。

 由利の屈強でしなやか、若い長身は黒い海原水平線を切ったように上がる夜空の星座切り抜く

 きらつく新緑色の双眸明るく、帆船達の滑る波と飛沫と船に灯るカンテラの光の流れを

 望月の華奢なシルエットごしに、見あげていく由利


「 ……、…… 」


 半開きになった口に声がない、息を飲んでいる。

 すでに一目惚れをしてしまったその人の、存在の大きさにも。
















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