兄のかわり?

はちは、もどってくると僕の隣に座った。


「ボタンとめんと風邪ひくで、ほら、袖通して」


パシンと、その手を振り払った。


「どないしたん?きゅう


「兄ちゃんのかわりにしてるんやろ?」


「えっ?何をゆうてんの?」


「兄ちゃんが、死んだから。もうれられへんから、僕を代用品につこてるんやろ?」


「九どないしたん?何で、そんな事ゆうん?」


八は、どうしていいかわからないようで、目を白黒させて眉間に皺を寄せる。


「九、嫌やったんやったら、ゆうてくれたらせんかったんやで」


僕は、立ち上がって八にカッターシャツを投げ捨てた。


「帰るわ」


「待って、まだ服」


「いらん、これにある」


紙袋の中から、サクラ色のセーターを着る。


「九、待って話ししよう。ちゃんと」


「何も話す事なんかあらへんよ」


僕は、バタバタと鞄の中に物をつめる。


「九、待って。俺は、話したいで」


八は、困った顔をしながら僕を見つめる。


「僕は、話す事なんかあれへん」


「九、待ってや。ほんまに」


腕を掴まれた。


「離せ。死んだ兄ちゃんの代用品にしようなんて最低なことすんなや」


僕は、八の手を振り払って外に出た。


たくさん、八にお金を使わせたので、ここぐらいは払っておこう。


僕は、鞄から財布を探す。


ない………………………。


今、取りに戻る勇気もなかった。


「あの、スマホで払えますか?」


「いけますよ」


さっきの部屋を告げる。


今の料金までを出してもらった。


僕は、スマホで料金を支払った。


「ありがとうございました。」


僕は、ラブホテルから出た。


八に舐められた左手と連動するように、胸もジンジンとしていた。


熱を持った下半身は、すっかり冷えきっていた。


あのまま流されたくなかった気持ちと流されたかった気持ちが、押し寄せては引いていく。


涙が、頬を伝うのを感じていた。


桜並木に戻り、チャリを拾った。


チャリを漕ぎながら、あふれでる涙を押さえられなかった。


アパートの下についた時、竹君が立っていた。


「なんで、おるん?」


「九が、ネタバラシに行ったって、めいがきざに言って、きざから俺にかかってきてん」


「そうか。あがる?」


「うん」


僕は、涙を拭ってアパートに竹君を入れた。


「お茶いれるわ」


「九、飲酒やったやろ?」


「あっ!!」


頭がテンパっていて、ビールを飲んだ事すら忘れていた。


「アカンで、アホ」


パチンと頭を竹君に叩かれた。


「次やったら、通報したるからな」


「はい、すみません」


「お茶飲むわ」


竹君は、飲酒運転の車にひかれて同僚が事故にあって足をひきずっているから、絶対に飲酒運転は許さない人だ。


僕もいつもなら絶対に乗らないのに…。


今日は、八の事で動揺していた。


ピーとやかんが鳴いた。


急須にお湯を注ぐ。


お盆に湯呑みと急須を乗せて、竹君の元に行った。


才等八角さいとうはっかく、ええやつやったんやろう?」


竹君の言葉に、首を縦にふる。


急須で蒸らしたお茶を湯呑みに注いだ。


「若もゆうとったわ。八をこれ以上騙すのは辛いって」


「そうやな」


僕は、湯呑みを竹君の前に置いた。


「なぁー。九」


「うん?」


「もし、八を好きになったんやったら、九はちゃんと告白するんやで」


「はっ?何、ゆうてんの?」


竹君は、お茶をフーフーして、飲んだ。


「男も女も関係あらへんぐらい、素敵な奴なんやろ?八は」


「だから、さっきから何ゆうてんの?」


僕は、お茶を飲んだ。


「あっつー。」


「ハハハ、火傷するで。」


竹君は、俺を見つめる。


「若からの最後のLimeで、八への気持ちを告げられてん。俺は、だいぶ前から気づいてたけどな。だって、若とは小さい頃から一緒やで。恋した顔ぐらい、俺かてわかる。せやけど、若は気ぃついてへんフリしとった。」


竹君の目から涙が流れてくる。


「若は、会いたいゆうたんや。八に最後に会いたいって…。俺は、きざに頼んで調べてもうたんや。ほんで、見つけた日に若、死んでもうた」


「竹君…」


僕は、竹君にティッシュを差し出した。






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