三と話す
チャリを押してくれたお陰で、結構早く帰って来れた。
僕が、降りるときも
「ありがとう」
「別に」
アパートの鍵を開けて、三をいれる。
【サンキューは、いつも距離感おかしいやろ?】
【それ、ゲイのポジション。わかる?】
高校に入って、先輩が言った言葉を思い出した。
「ビール飲む?」
「嫌、朝4時に出発やからいいわ」
「じゃあ、温かいお茶いれるわ」
「うん」
僕は、やかんで水を沸かす。
「なぁー。
「なに?」
「俺等、死ぬまでに全部の顔知れるかな?」
「無理やろ」
ピーって、やかんが鳴いて止める。
僕は、急須にお湯を注いだ。
「やっぱり、無理よな」
「さっき、竹君とも話してたけど…。竹君も、兄ちゃんが彼女といる時の顔もどんな風に彼女抱くとかもわからんってさ」
僕は、急須と湯呑みをお盆に乗せて、三の前に持っていく。
「確かに、俺も九のそんな顔知らん。」
「見たいんか?」
湯呑みにお茶をいれる。
「見たって、その顔は女に見せるのと一緒やないよ。」
三は、湯呑みを手に取って自分の前に引き寄せた。
「ヤキモチ妬いてる?」
「妬いてへんけど?あー。違う。妬いてるわ!確かに」
三は、そう言って首をふる。
「えっ?」
「あのな、変な想像すんなよ。九の知らん顔があるのが、嫌やなってヤキモチ」
「なんで?嫌なん」
「だって、何かずっと一緒やったから…。九の事で知らん事なんかないって俺、信じてたわ。」
「確かに、そう言われたら。僕も、昔、兄ちゃんにヤキモチ妬いたわ。三にもやけど。」
「そやろ?俺も今、九が言った言葉に妬いたわ。俺が知らん顔なんて、絶対ないと勝手に思い込んでたわ」
三は、そう言って笑った。
「何か、それってちょっと寂しいよな?」
「まあな。でも、盗撮するわけにもいかんからな。仕方ないやろ」
「そうやな。女に見せる顔なんて見れんよな。」
「当たり前や」
三は、お茶をフーフーしながら飲んでいた。
「なあ。三。死ぬまでに、出来るだけ色んな顔見せるからな」
「九が、たつくんみたいにいなくなるんは、いややな。」
「わからんで。兄弟やしな」
「そんな悲しい事言うなや。」
「三と僕は、距離感おかしいんやろ?」
僕は、思い出した話を三にした。
「あー。よう言われたな。距離感おかしい。ホモサンキューとかな。」
「確かに、距離感おかしかったよな。」
「それは、さっきも言ったけど。ヤキモチ妬いてたんやと思う。ってか、たつ君にはバレてたわ。「三、独占欲強いな」ってよく言われたからな」
「それって、僕が恋愛対象やったって事?」
「なわけあるか。」
そう言って、三は手を左右にふる。
「一瞬、俺もそうなんかなーって思った事あってん。散々周りにおちょくられてたから…。そしたらたつくんが、「三、それは恋ちゃうで」って教えてくれてん。」
「兄ちゃんが?」
「うん。小さい世界にいるから、そうやと思ってるだけやって。もし、大人になってもそうやった時は気持ち伝えたらいいって」
「で、違ったん?」
「違った。そもそも、九とキスしたいとか思った事ないしな。あのドキドキは、恋じゃなかったわ」
「ドキドキしてたん?」
「してたよ。だから、そっちかって真剣に悩んだ。そしたら、たつくんが誰でも悩む事やって教えてくれた。俺は、今、九にくっつかれてもドキドキせーへんで。もし、九がするなら勘違いしてるだけやで。」
「せーへんよ。でも、僕も学生の頃は三が誰かに笑いかけるだけでヤキモチ妬いてたわ」
「せやろ。」
友達と好きな人の境目が、曖昧だったあの頃。
「きっとそれで、そっちの道にいった人もいるんやで」
三は、そう言って笑った。
感情と思考がこんがらがっていたんだと思う。
全部を好きだから=《イコール》でくくりつけていた時代だった。
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