帰宅と三(さん)
竹君は、おでんの大根と玉子と熱燗を持ってきた大将にお会計を頼んでいた。
「これ、若が好きなやつ。最後に食べるやつな」
「ありがとう」
竹君と大将しか知らない兄貴を今日僕は、知った。
「熱燗なんか飲むんやな」
「せやで。めっちゃ、好きなんやで」
「僕、兄ちゃんの事何もしらんかったんかな」
「せやな。俺かて、若が女と二人になった時の顔しらんで。どんな風にするんかとかも」
「変態やな」
「ハハハ、せやな。まあ、知らん顔なんかようさんあるって話や」
僕は、竹君の顔をマジマジと見つめる。
「何や?」
「全部知るためには、短すぎやったな。兄ちゃんとの時間。竹君も僕も」
その言葉に、竹君は涙を流した。
「ほんまやで。俺を置いて先に死にやがって。俺は、もっと若とやりたい事いっぱいあったで。飲みたい酒も、行きたい国も」
竹君は、小さな時みたいに僕の頬をつねった。
「痛いなー」
「かわりに、
「約束は、できへんやろ?」
「できへんかったら、しばいたるわ」
「死んでんのに?」
「しんどってもしばいたる」
「無茶苦茶やな、竹君」
「せやろ」
竹君は、涙を拭って僕の頭をグシャグシャに撫でた。
「ほな、帰ろうか」
「うん」
大将が、お会計をしていた。
「竹ちゃん、またきいや」
「次は、弟とくるわ」
「そやな。それが、一番嬉しいわ。若ちゃんも」
竹君は、お金を払った。
「ほんならな、おっちゃんまたな」
「はいよ、気ぃつけや」
「おやすみ」
「おやすみ」
竹君と僕は、店を出る。
「お金…」
「フリーターからとらへんわ。それに、九は、俺の弟や」
「ご馳走さま」
「ええねん、ええねん。また、こよな?」
「何曜日とか決めてくれるか?」
竹君は、顎に手を当てて考える。
「せやな、毎週金曜日でどうや?毎週、会いたいんやろ?俺に」
「なっ、わけないやろ」
「まぁ、次は
「気ぃつけや」
「ああ、帰ったらLimeするわ」
そう言って、竹君は手を振ってくれた。
タクシーを見送って僕は、フワフワの体で歩く。
4時には出ないと桜子さんには会えない。
美味しくて、楽しくて、幸せやったなー。
タータタン、タタン
「はい」
『今、どこなん?』
「三か?駅前やで」
『なにしてんねん。何べんもLimeしたんやで』
「えっ?気づかんかったわ」
『明日、九ん家からのが現場近いから。泊めてもらおう思ったのに、23時やで!』
「おこんなや。今、帰ってるから」
「その足じゃ、一生無理やな」
駅前に、チャリを持った三が立っていた。
「何で、おるん?」
「竹君にLimeしてたから、もう帰るから九迎えにきたってって入ってたから」
「チャリ乗ったら、逮捕される」
「まあ、乗れや。押して歩くから」
三は、僕をサドルに座らせた。
落ちないように、支えながらハンドルを握る。
「なんか、意識せーへん。」
「せーへん」
僕の言葉に、三は前をジッと見てる。
「ドキドキせーへん?」
「なんかの見すぎやろ?漫画か?ドラマか?」
「あー。漫画や。兄ちゃんが読んでた。病室で」
「どんな漫画?」
「(好きなんかじゃない)ボーイズラブの漫画や!」
「何で?たつ君は、男好きやったん?」
「ちゃうちゃう。おかんと仲いい人の趣味で。おかんが、借りてきてて、自分が読むのに持ってきてたやつ」
「相変わらずおばちゃん、そんなん好きやなー。美少年やろ?その漫画」
「そうそう。綺麗な絵しとったわ。おかんが、好きなやつやわ」
「でも、何でたつ君が、読んでたん?」
「わからんけど、俺には死ぬから経験してもよかったなーってゆうてたで」
「興味あったんかな?」
「さあな?冗談言う時の顔してたから、よー。わからんわ」
三は、優しい。
僕の心配ばっかりしてくれる。
僕は、兄ちゃんがいなくなってから三に甘えてばかりやった。
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