竹君の話

「ほら、からあげに、フライドポテトや。焼き鳥も、若スペシャル作ったるからな。これ、若が好きな焼酎」


「ありがとう」


そう言って大将は、焼酎ロックを二つ置いた。


そして、出ていった。


それを見届けて、竹君が僕に話し出した。


「俺もな、おかん時、後悔したわ」


竹君は、からあげを食べながら言う。


「叔母さん亡くなったの中3やったね」


「そうそう。思春期真っ只中やったから…。よう、喧嘩したわ。脳出血でポックリ逝ってもうた。」


「喧嘩してたん?」


「うん。倒れる日も、喧嘩した。おとんから、かかってきて。おかん、死んだ。って言われた。道端で倒れとるの発見されて、病院行ったけど助からんかったわ」


竹君は、ビールを飲み干した。


「兄ちゃんだけ、知ってる話やろ?」


「そうやな。きゅうは、小さかったしな。毎日、荒れたわ。そんな俺を若が支えてくれた。ラブレターまで、もうてな」


そう言って、竹君は財布から紙を取り出した。


【家に帰って、仏壇に手を合わせて、毎日謝る事。お父さんに、毎日感謝する事。出来なかったら、友達やめるから     若】


「しゃーないから、ずっと約束守ったってんねんで」


「このメモ、僕から取ったやつやわ」


「こんなメモ、さんに使ってたんか?」


「恥ずかしい事言うなや」


「だって、これハートやで」


「これは、三が僕にくれたやつ」


「そうか」


竹君は、そう言って笑った。


「ほら、焼き鳥。若スペシャルやで。水な」


「ありがとう」


「また、飲みもん持ってきたるわな。これ、キャベツのパリパリ。若が好きなやつな」


「ありがとう」


大将は、店内が忙しいようですぐに出ていった。


「九、俺との約束。毎日、若に感謝する事。できるか?」


「出来るわ」


「ええ子やな」


僕の頭をわしわし撫でてくれる。


僕と三は、ガキの頃からよく、竹君にええ事をしたらこうやって頭をわしわし撫でてもらっていた。


それが、何か照れ臭いけど大好きやった。


「もう、子供がきやないよ」


「いつまでたっても、さんきゅうは、クソガキや」


竹君は、そう言って笑った。


「何やそれ。」


「あんまり、おこんなや。ちゃんと、日記帳の情報持ってきたから」


そう言って、竹君は焼き鳥を食べる。


「情報って?」


「きざがな、今、中学の教師やってんねん。知ってたか?」


僕は、首を横にふった。


「そうか。真面目にやってんで。まあ、それは置いといてやな。今の中学にやってきてから、ずっと噂があるねんて」


「どんな、噂?」


「桜並木の桜子さんや」


「何や、それトイレの花子さんみたいな感じか?」


「そうらしいわ。まあ、桜子さんに会えるのは、4月4日の朝の4時44分らしいで。」


「明日やし、早ない?」


「早いなー。真っ暗闇やな。」


竹君は笑った。


「でも、中学生が、何でそんな話しってるん?」


「近所に住んでる楠君。今は、とっくに卒業した子が…。コンビニに朝御飯を買いに行った日に偶然見つけたらしい。まっピンクのワンピース着て、誰かを待っとるんやて。コンビニから戻ってきたらおらんかったらしい。死んでるか生きてるかもわからんって…。ただ、通りすぎた時に赤い日記帳って呟いたって話やで。夏目美なつめめいかもしれんやろ?」


「嫌々、お化けちゃうんか?そんなんに会わすなよ。」


「行くやろ?九」


「お化けやったらどうすんねん」


僕は、わざとガタガタと手を震わせる。


「ついていったろか?」


「ええよ、別に。兄ちゃんが、僕を守ってくれるから」


ニコって笑いかけたら、竹君が…


「何かあったら、すぐ電話するんやで。飛んで行くから」


「そんな怖い顔せんでも、お化けやったら走って帰る」


「ちゃんと、塩とか持っていきーや」


「にんにくもきくやろか?」


「何でも、もってけ」


竹君は、そう言うとポケットから何かを出した。


「まちごうて、健康のお守りうてもうた。ごめん」


「わざわざ、もらってきたん?」


「魔物封じで有名な國田神社行ってきたんやけど。隣の身代わり守りと間違ってもうたわ」


「ええよ。竹君の優しさで充分やで」


「守ってくれるはずやから、ちゃんと持っとけよ」


「わかった。」


僕は、竹君からお守りを受け取って握りしめた。


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