盛大なネタバラシ

「あの頃の若に、ソックリやん」


そう言って、写真を渡される。


「ほんとやね」


俺は、兄の写真を見ていた。


「ほんなら、行こか」


「うん、行こう」


俺は、才等八角さいとうはっかくの元へ、夏目さんと向かった。


「頑張るんよ」


ポンポンと背中を叩かれた。


才等八角は、休みの日はいつもガラス張りのカフェで過ごしていると言う。


道路側のカウンターに座って、外を眺めていると夏目さんから聞いた。


ここのガラスは、マジックミラーになってる。


夏目さんは、カフェの中から僕に電話をする。


「そのまんま、真っ直ぐきて」


耳にいれたイヤホンから、声が聞こえる。


「もうちょい右。もうちょい右。そこ。髪直すフリしてて。見とるから」


そう言って、夏目さんは中から様子を見てくれていた。


「くいついた。そのまま歩いて行って。頑張れ」


そう言って、電話が切れた。


僕は、右に向かって歩いていく。


「芽衣子、待って」


腕を掴まれた。


才等八角だった。


はち?久々やね」


精一杯の高い声を出した。


「元気しとったんやね。俺、めっちゃ探してたんやで」


手を握ろうとする才等さんをかわした。


「嫌なん?芽衣子」


もう、言ってしまいたい。


だって僕は、兄とは違うのだから…。


首を横にふって僕は、歩きだした。


「芽衣子、13年ぶりに会えたんやからちょっと話さへん?」


僕は、手首を掴まれて引っ張られる。


「離せ、ぼ、ぼ、僕は、男や」


怖くなって言ってしまった。


「そんなん、知ってたで」


才等八角は、ニコッと僕に笑いかける。


「えっ?」


「だって、喉仏あったやん」


「いつから、知っとったん?」


「高校の時、三回目のデートで。疲れた芽衣子が寝てもうたやろ?あん時に、巻いていたスカーフがズレた。ああ、男なんやって思った。やけど、もう気持ちはとめれんかったから。騙されたフリしてずっと会いたかった。なのに、芽衣子。急に来なくなるんやもん」


そう言って、悲しそうな顔を浮かべる。


「ぼ、僕は、あなたを知りません。」


「えっ?」


「あなたを知ってるのは、僕の兄です。若龍臣わかたつおみ


僕は、スマホから写真を見せる。


「ほんまや、芽衣子はこっちや!で、どこにおるん?また、俺に悪いと思って隠れてるん?」


才等さいとうさんは、辺りをキョロキョロ見回した。


「死にました」


「えっ?何で?死んだん」


その人は、固まっていた。


ポタポタと流れる涙に、兄を愛していた事がわかった。


「末期癌でした。」


「そうなんやね。やっぱり、俺になんか会いたくなかったんやね」


「それは、ちゃいます。兄は、才等さんに会いたかったんです。ずっと…。やけど、勇気がなかった。男やって言って嫌われたくなかったんやと思います。」


「それなら、嬉しいな。所で、芽衣子は、みんなに何て呼ばれてたん?」


「若です。」


「若かぁー。俺も、若に会いたかったなぁ。死ぬんやったら、ちゃんと告白しとけばよかったわ」


「告白ですか?」


「35歳までに、芽衣子に会われへんかったら…。お見合いしよう思っててん。男が好きなんかと思ったんやけど。ちゃうかった。俺は、若君しか無理やったみたい。そやから、今もずっと一人。適当に体を重ねて、試したりしたけど…。ちゃんと人を好きになれんかった。」


才等さんは、僕から離れた。


「引き留めて悪かったな。ほんなら。君には、関係あらへん話やしな」


僕は、その手を掴んでしまった。


もっと、僕の知らない兄を知りたかった。


そして、兄を愛してくれた才等さんに何かしてあげたかった。


「あの、僕でよかったら今日だけでも、才等さんの役に立たせてもらえませんか?デートでも何でもするから」


「君の知らない若君が知りたなったん?」


「そうかも知れへんけど。兄をこんなに愛してくれてた才等さんにお礼をしたいんです。」


才等さんは、僕に笑いかけた。


「そうやな。ほんなら、デートしよか?俺達がよく行ってたデート。それから、俺の事、はちって呼んでくれへん?後、敬語はなしな。ほんで、俺は君を若って呼ぶから。」


「わかりました。」



僕は、才等さんに笑いかけた。


兄が、出来なかった事を僕がしてやるよ。


あの世で、死んだこと後悔しとけよ。



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