すべては弁当のために! 二泊三日のきまぐれ一人旅

 弘前大学の近所にある定食屋『惣菜さとう』は、三十年以上、地元の学生に親しまれてきた地元の名店。その店が閉店するというニュースを聞き、青森まで片道25,460円をかけて、思い出の弁当を求めて二泊三日のプチ里帰りした作者の綴るルポルタージュです。

 ひとつの弁当を食べるために大金をかける。なんとも奇矯な帰郷ですが、そんな変わり者なだけあって短い文章の中にも読者を引き付ける可笑しみがあります。

 学生時代を過ごした街に戻ってきて作者が感じたのは青春の残り香。

 大学を訪問し恩師の小言を聞き、生協職員の優しさに癒やされ、変遷した街並みを眺め、かつて住んでいたアパートの前を通り過ぎる。ふと脳裏をよぎるのは片思いの女子を同級生に奪われた悔しさ。愚かしくも愛おしい青春の痕跡をたどる姿は、読み手の我々にも追憶と郷愁の念を呼び起こします。

 そして旅のメインである『惣菜さとう』を訪れた作者ですが、なんと弁当は売り切れ。しかも翌日は定休日。弁当は最終日まで持ち越しとなってしまいます。はたして思い出の弁当にありつけるのかと、いきあたりばったりな旅の様子が最後までハラハラさせてくれます。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲 優詩)

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