第4話 異能力界の下克上?
決闘の話を聞き付けた生徒たちも野次馬として集まり始め、戦いの場に放り出された彼にもはや逃げ道はない。
ちなみに、決闘というのはこの学園で認められている制度のこと。本来ならば順位が下の生徒が同意の上で上の生徒に挑み、勝てば入れ替わることが出来るのだ。
ただ、今回は先生が認めたことによって、順位ではなく『敗者は言うことを聞く』という約束で決闘が強制的に学園デバイスを通して承認されている。
学園を管理するシステムが勝負の行方を見守っているため、命の危険がある場合は強制的に止められるが、少なくとも怪我は免れないだろう。
「そもそも、僕もおかしいと思ってるって伝えたはずなんだけどな……」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと構えろ」
零斗だって自分が彼に勝てないことくらい分かっているし、そこまでして主人公クラスに残る理由も持ち合わせていない。
そもそもこの実力で残ったところで、周りと比べられて惨めな思いをすることは分かり切っている。
ならば、少しくらい痛めつけられてでも金剛寺をこの決闘の主人公にして、自分はひっそりと暮らせる下のクラスに落ちた方がいい。
「構えねぇってんなら先に行かせてもらうからな!」
だから自分は負けても構わない、彼はそう思っていた。少なくとも、彼のパンチを見るまでは。
「っ……?!」
腕を振りかぶった金剛寺の体がほんの一瞬の間に鼻の先まで迫っているのを見て、零斗は反射的に横へとローリングする。
直後に空ぶったパンチが地面へと突き刺さり、その周辺が衝撃で盛り上がって彼の体は後ろへと弾き飛ばされてしまった。
硬い地面にクレーターを作るほどのパンチを普通の人間がまともに受ければどうなるか、そんなことは想像しなくても予想出来る。
異能力者はそうでない人間より少しばかり頑丈ではあるが、異能力が弱い零斗はそう大差ない。
腹を殴られて変な声を出す鳥のおもちゃみたいになるか、顔を殴られて握り潰されたスライムみたいになるかの二択だろう。
「どうだ、俺の異能力『ダイアモンドボディ』は」
「……ネーミングセンス」
「う、うるせぇ! 体を鉱石のごとく固く出来る俺の攻撃なら、お前程度一撃で殺れる」
「あの、僕は異能力使わないから公平に無しでやらない? いじめなんて楽しくないだろうし」
「これはイジメじゃねぇ、決闘だ。俺が勝って、お前みたいな生温いやつは主人公クラスから排除する」
そう言いながら拳を自分の手のひらへぶつける金剛寺。その音はもはや人間の出す音ではなく、固いもの同士が出す鈍いものだった。
これが本物の異能力者だ。マッチやジョウロにすら勝てない偽物の異能力者とは格が違う。
さすがにこんなところで死にたくは無いので、降参して逃げてしまおう。そう思って両手を上げようとした瞬間、人混みをかき分けて飛び込んできた人物が目に留まった。
彼女は手に握っていたデバイスをこちらへと投げると、ジェスチャーで何かを読むように指示してくる。
零斗はそれに従って全力で逃げながら、画面に映し出されたもの……金剛寺の能力について書かれた紅音の研究メモに目を通した。
「……なるほど、そういうことか」
そこで紅音が伝えようとしてる金剛寺に勝てるかもしれない方法を察した彼は、デバイスを投げ返してから彼女に大きく頷いて見せる。そして。
「やーいやーい、雑魚呼ばわりしてたレベル1にも追いつけない鈍足主人公ー」
お尻をペンペンと叩きながら棒読みで挑発し、思惑通り頭に血を昇らせてくれた彼を見て口元をにんまりと歪ませるのであった。
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