第9話 ロリは世界を救うがロリコンは何も成さない

「そろそろ始めないと。最初にやりたい人はいる?」


 須賀すがさんがそう言うと、4人はお互いに顔を見合せた後、自然と一人へと視線を集めていた。

 3人から見つめられた金剛寺こんごうじは一瞬戸惑ったような目をしたものの、「仕方ねぇ、俺ファーストだ」と気合を入れて前へ進んだ。


金剛寺こんごうじ 武文たけふみさん、自由に異能力を使って。全力を出さないと正確な数値が取れないから」

「おう! 最近暴れたりなかったんだ、言われなくてもそうするぜ!」


 金剛寺は拳をグッと握り締めると、雄叫びを上げながら高く飛び上がる。

 そして着地と同時に両腕を振り下ろすと、決闘の時に開けたクレーターとは比べ物にならないほど大きな窪みをグラウンドの中央に作った。

 どうやらあの時の零斗れいとの嘘を受けて、ダイヤモンドが重い物質ではないと気づいたらしい。

 異能力の的としてシステムが作り出したホログラムの敵も、彼にかかればほんの数秒で全て消滅してしまった。


「マナ保有量は約27万、使用量は22段階目、体内のマナも全回復まで2時間程度。間違いなく優秀な生徒だよ」

「よし、なんてったって俺だからな!」

「攻撃に向いていながら防御にも優れている。これは主人公レベルの方も期待出来そうだ」

「本当か?!」

「ああ。他の子も早く調べさせてくれ」


 ワクワクが隠し切れないという様子の須賀さんに、次は双葉ふたばが手を挙げた。

 彼女はどこか緊張した様子で服を握っていたが、「測定開始」と合図をもらうと深呼吸をしてから両手を大きく広げた状態で止まる。

 しばらく見守っていると、途中で彼女自身が何かを感じたのだろう。指先がピクっと動いたかと思った直後、ポンというコミカルな音と共にどこからともなく煙が発生した。

 それが風で流された後に残ったのはもちろん双葉……なのだが、先程までとは少し様子がおかしい。

 自分の目を疑って何度も擦っては確認し、擦っては確認しを繰り返すが、紅音あかねにビンタされてもそれが現実に変わりなかった。


「双葉が……2人になった……?」


 そう、先程まで一人だったはずの彼女が何故か増えていたのだ。ただし、身長やら何やらの大きさは全部半分になった状態で。

 元々身長がそう高くはない彼女だ。半分こすればそれはもう可愛らしさ大爆発。

 この小動物のような姿には零斗だけでなく、金剛寺や紅音も胸をズキュンと打たれてしまった。


「何この生き物、可愛い」

「可愛いな」

「そうよ、双葉は可愛いの」


 3人分6本の腕に頬をぷにぷにされたり、頭を撫でられたり。小さな体ではものすごい威圧感を覚えるだろうが、それでも満更でもなさそうな表情が愛くるしい。

 これはもう学校のマスコットと言っても過言ではない。なんならこのままゆるキャラグランプリに出しても優勝出来るレベルだ。


「保有量は12万、使用量8段階目、体内のマナは5時間で全回復。特に高い水準ではないみたい」

「「そ、そうなんですか……?」」

「ただ、その能力って影分身ではなくて純粋な『分裂』よね。それが出来る人はかなり珍しいはず」

「「えへへ、恐れ入りますぅ♪」」


 双葉が二人なだけあって、言葉も仕草も完全にシンクロしている。

 須賀さんによると彼女のように体の体積を等分して増え、またひとつに戻ることが出来る異能力者は零斗の全能者オールマイティと同じで特殊な体質らしい。

 双葉の場合、その上分裂した時に周囲の人間の運を上昇させる能力を発動出来るため、異能力のレベルは低めだが主人公クラスの生徒に選ばれた可能性が高いんだとか。


「よく考えると、零斗も合わせると4人の中に特殊な体質が3人もいるのね」

「3人? 俺は別に特殊じゃないぞ?」

「分かってる、あと一人は私のことよ。まあ、知らないのも無理ないわね。零斗以外には教えてないことだから」


 そう言いながら元の155cmに戻った双葉と場所を交代した紅音は、「次は私をお願いします」と構えの姿勢に入る。

 この後ろ姿だけでその場にいた全員が息を飲んだ。彼女は桁違いの実力を持っている、と。

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