第7話 特殊な体質と苦い現実

 新学期開始から数日後、金剛寺こんごうじともそれなりに仲を深められていた零斗れいとは、昼休みに紅音あかねにとあるものを見せられていた。

 それは先日の決闘の際にも活躍してくれた主人公クラスに入るかもしれない生徒について研究した資料……の一番後ろに付け足された零斗の資料。

 当たり前だが、彼がこのクラスに配属されるとは微塵も考えていなかったのだろう。

 腐れ縁だからなのか、急いで作ったからなのか、字が他のページよりも明らかに汚い。これにはさすがの零斗も少し傷ついた。


「私、零斗が主人公クラスに配属された理由を考えてみたの」

「へえ、何か答えは出た?」

「あなたって能力は最弱だけれど、特殊な体質をしてるじゃない。きっとそれだと思うのよ」

「おいおい、特殊な体質ってなんのことだ?」

「そう言えば、金剛寺くんには水の能力しか見せてなかったんだっけ」


 彼はそう言うと、首を傾げる彼の前に右手のひらを上に向けて差し出す。

 それから前と同じように心の中で念じると、ボッと小さな音を立てながらロウソクほどの火が現れた。


佐藤さとう、お前水だけじゃなくて火も出せたのか?!」

「他にも葉っぱを出したり、土を出したり、電気を帯びさせたり出来るよ。どれも最弱だから使い物にならないけどね」

「それでもすげぇよ!」


 何度も言うが、零斗の出す炎はチャッカマンより弱く、水はジョウロにすら劣る。

 しかし、これほどまでに金剛寺が驚いているのは、異能力者が持つ能力に傾向があるからだ。

 基本的に異能力者はどれだけ素質がある者でも、ひとつの能力しか使うことが出来ない。

 金剛寺のように体の硬さと材質を変化させるような同一の能力を応用することは出来たとて、炎系なら炎系のみ、水系は水系のみと限られているのだ。

 それは能力者本人にも影響し、使う能力が強ければ強いほど、苦手属性の技で受けるダメージは大きくなる。

 異能力は複雑なためにゲームのように綺麗な弱点表が作れる訳では無いが、異能力者であれば何かしらの弱点属性をもっているものなのだ。しかし。


「零斗は全部の属性を使えるから、弱点がないのよ。いわゆる全能者オールマイティってやつね」

「待て待て、それってただでさえ少ない異能力者の内の0.1%にも満たない体質だよな?」

「それどころか都道府県それぞれに一人いればすごいレベルよ」

「じゃあ、どうしてそんなすごいやつが有名になってないんだ?」

「そんなの、零斗がネタにならないくらい弱いからに決まってるでしょう?」


 紅音の辛辣しんらつな言葉に、金剛寺は零斗の方を一瞥いちべつしてから俯いてしまう。

 全能者オールマイティという特殊体質の能力者は、テレビに引っ張り凧になるほど貴重な存在だ。

 しかし、彼の場合は例外だった。テレビ映えもしなければ話題にすらならない。そのせいで特別な体質であるということもほぼ知られていない。

 ひっそりと生きたい零斗にとっては、この現状はとてもありがたいものだが、紅音の方は昔から何とかして属性ひとつだけでも伸ばそうとしてくれていた。

 結果、何年経っても変わらず今に至るのだけれど。


「でも、零斗は全ての属性を使える分、何かの拍子に力が開花すれば主人公に化けるの。学校側はそれを期待して主人公クラスに入れたんじゃないかしら」

「なるほど、それなら開花しないことを証明出来ればクラスを落としてもらえるね」

「どうしてそうなるのよ。どうせなら上を目指せばいいじゃない」

「僕、そういうの柄じゃないし」

「……零斗?」

「め、目指してもいいような気がしてきた……」


 完全に尻に敷かれている彼の姿に、金剛寺が楽しそうに腹を抱えて笑う。

 そんな彼が「お前ら、お似合いだな」という一言を口にしてしまった結果、ブチ切れた紅音によってボコボコにされたことはまた別のお話。


「佐藤、助けてくれ……」

「能力使えば痛くないでしょ?」

「そんなことしたら釼持けんもちの手が傷つくだろ!」

「……金剛寺くんはどこまでも優しいね」


 結局、彼女が満足するまで優しい目で見守り続けた後、保健室へ連れて行ってあげる零斗であった。

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